お盆を過ぎの日曜なので帰省ラッシュにつかまって、家に着いたのは夕方の五時前だった。
「着いたよ」
おれは、よこで寝てしまっている美香に声をかけた。
「ここは…」「美香の家の前さ」「お兄ちゃんの家は?」「もう遅いから、帰りなさい」
おれは、そう言って、帰宅を促した。
「そっか…」
小さくそう言って美香はドアを開け、
「お兄ちゃん、今日はありがとう。楽しかった」
「こちらこそ。また明日、会社で」「さよなら…」

おれは、夕焼けに小さくなる美香の後ろ姿をミラーで確認しながら、車を回した。

本当は、美香をやりたかった。
もうちょっとで、彼女を落とすことができたかもしれなかった。

おれは車を返すために、杉本礼子のマンションに向かった。
駐車場に入れて、キーを持って334号室に向かう。
インターホンを鳴らすと、レイコが出てくれた。
「あら、早かったのね」
そして、パタパタとスリッパの音がしてドアが開けられた。
「車、ありがと。これキー」
「あがりなよ」「いいの?」「ご飯、食べてこなかったでしょ?この時間じゃ」「うん、まぁ」
キーを受け取りながら、レイコが中に誘う。
おれはレイコについて、リビングに入った。
「鉄板焼きをやろうかなって、思ってたところ」
「一人で?」
「今日ね、友達と真砂漁港の朝市に行って来たのよ。あれからすぐ」
「へぇ」
「イカとか、サザエとか、これ何ていうのかわかんない貝を買ってきたんだ」
洗面器に水が張られ、貝類がぎっしり入っている。
「ああ、これ、オオアサリだよ」
「アサリなの?これが?」
「アサリとは別物だと思うけど。もしかしたら、あのアサリが育つとこれくらいになるのかもしれない」
「うそぉ」「たぶんね。うそだろうね」

おれは、予想外のごちそうにありつけて、美香のことなんか忘れてしまうほどだった。
「このボタンエビもたくさんあるわよ」「たまらんね」
「ビールもたくさん冷やしてあるからね」
「ありがとうございます」

ベランダを開け広げて、ホットプレートで豪快に魚介類を焼いた。
今日は一日、魚介ずくしだったなと思った。
「ほら、ビール、もっと飲んで」「うわうわ」
グラスに一杯に注がれる。
「で、さ。あの子とは、やっちゃったの?」
「ううん」
「なんだ。できなかったの。拒否られた?」
「そうじゃないんだけど、機会を逸しただけ」
「意気地なしねぇ」「…」
「じゃ、あとでお姉さんが抜いてあげようか?」「今日はもういい」「ふぅん。つまんねぇの」
エビの殻をむきながら、レイコが口をとがらせる。
「レイコさん、まだやり足りないの?」
「あたし?なんぼでもできるのよ。体質かしら?」
「ある意味、すごいよ」
おれはオオアサリのヒモに難儀しながら、答えた。
しょうゆの香りが、部屋に充満し、縁日の屋台のようだった。
もう空になったビールの大缶が握り、へこまされて、五本も床にころがっている。
「脈ありそうなの?その子」
ねちねちとレイコが訊いてくる。
「あると思う」おれは平然と答えた。
「まぁ、がんばんな」と、突き放すようにレイコが言う。
「レイコさんのお相手は?」
「やだ、まだ妬いてんの」
「別に。レイコさんがおれのこといじるからさ」
「彼とはね、飲み屋で知り合ったんだ」サザエのつぼ焼きを殻から引っ張り出しながら言う。
「一人で飲みに行ったりするの?」
「行くよ。駅前の忍者横丁とか」
忍者横丁とは学園前駅の繁華街の端にある飲み屋街だった。
忍者のように隠れて入る人が多いからそう呼ぶらしい。
「そこの居酒屋で、たまたま隣り合わせになったのよ。その人と」
「ふぅん」おれは気のない返事をした。
「物書きだって言うじゃない」
「ものかき?」
「記者とか、作家の類かな。とにかく、文字を書く仕事なんだと言ってた」
「どっちから声をかけたの?」
「向こうからよ。あたしは一人で飲んでたんだから」
「そっか」
「姐さん、一人でよく来るの?って訊くからさ。いつもそうよ、なんて答えたかな」
「はぁ」
もう、レイコは勝手にしゃべっている。
「じゃ、別の店で飲みなおさないか。行きつけのいい店があるんだとかなんとか、誘うわけ」
「ほぉ」
「あたしも弱くないからさ、二人で意気投合しちゃって、明け方まで飲んで、最後の店が看板だっつうから、もう終電なんかとっくに終わっちゃってるから、あたしんちに来なよって誘っちゃった。ははは…」
「え?見ず知らずの男をここに入れちゃったんだ」
「ここにもね」と、股を指すレイコ。
おれは、あきれてものも言えなかった。

いいかげん、食い散らかして、おれは満腹をさすりながら、テレビを見ていた。
レイコが、簡単に後片付けをし、たくさんの空き缶もポリ袋に回収してしまった。
ベランダからは初秋の心地よい海風が入ってくる。
数キロ先の海の風がこのマンションの三階に吹き届くのだった。
「レイコさんと、その人とはよく会うの?」
「二週間に一遍くらいかな。会わないときはひと月くらい連絡がないわ」
「全国を飛び歩いているんだろうね」
「物書きって、文豪みたいに机の上にずっと座っているわけじゃないのね」
「記者なんだろ?だったら、じっとしていないよ」
「どうもね、彼の話を聞いてると原子力発電のことが、ちょいちょい出てくるのよ」
「あ、そういう原発反対派のスクープ屋じゃないの?」
「そうかもね。推進派じゃないよね」
よくテレビで、原子力発電所建設に反対するデモやら、そういう人たちと、推進派の小競り合いが映されている。
真砂は直接関係ないが、そのもっと南側の行者岬(ぎょうじゃみさき)灯台の東に原発を建設するような話が持ち上がっているらしい。
「その人には、おれのこと話した?」
「話したよ」と、台所から聞こえた。
「なんて言ってた?」
「気にしないってさ。あたしとの関係も割り切ったものにしようって、最初から織り込み済みですからね」
「ふぅん」
「そいつは若いのか?とか、おれのよりデカいか?とか聞くのが、やだけど」
西瓜を切ってレイコが持ってきてくれた。
「デカいのその人?」
「けいちゃんのほうがデカい」「ほんと?」「ほんとよ」
おれは満足して西瓜にかぶりついた。
「いくつなの、その人」
「四十六だとか言ってた」
「ずいぶんおじさんだね」「言うわね。フトコロ状態はいいようよ」「そっか。それは勝てないナ」
このまま、明日はレイコの家から、ご出勤となりそうだった。
今晩、家に美香から電話があったら、どうしよう。
出ないから、いろいろ勘繰られるだろう。

シャワーして、レイコのTシャツを借りて、レイコとベッドルームで寝た。
今晩は冷房を利かしてくれている。
「ね、やる?」「またぁ?」「いやならいいのよ」「やる」
はからずも勃起していた。
「ほんとに避妊しないで、いいの?」
「だいじょうぶよ」
「できちゃっても責任取れないよ。まして、そのもう一人の男性の子かもしれないじゃないか」
「だったら、そこにコンドームあるからすれば?」レイコがビューローの引き出しを指さす。
「もう遅いじゃん。今朝の中出しの後だもん」
「だったら、じたばたしないの」
そう言って、かぶさってきて、唇を奪われた。
「だいじょうぶよ。ぼくちゃん」
そう、やさしくつぶやいた。
おれは、レイコにとって、どこまでも子ども扱いだった。
パンツがはぎとられ、おれの乳首が舐められる。
主導権はレイコにあった。
レイコの右手は、おれの高まりを握り、しごいている。
反り返った分身の硬さが、いや増した。
「この硬さは、あの人にはないわ。自信もって」
「そう…」
そのままシックスナインにフォールした。
目の前にぱっくりと開かれた女陰があった。
おれは、さっき食った、オオアサリを想起した。
ちゅる…
陰唇を吸い上げ、また、陰核を舌先でつつく。
「ああ、うう、くっ」
レイコが声を漏らす。
そして、おれのペニスをほおばっているのだろう。ここからは見えない。
くっちゅ、くっちゅ…
ぺちゃ、ぺちょ…
粘液質の音だけが狭い部屋に響いている。
「もう、入れたいよ。レイコ」
「わかったわ」
体を入れ替えて、レイコがこちらに向き直り、騎乗位ではめ込んだ。
ぐぬ…
あるべきところに収まった感じだった。
「はっ、つぅ…」
眉間にしわを刻みながら、レイコがおれを深々と引き込む。
「ああん、いい。これが欲しかったの」
「いいのか?おれのがいいのか?」「そうよ、けいちゃんのがいいのぉ」
ロッキングチェアのようにレイコがおれの上で揺れる。
出し入れするより、このほうが快感を貪れるのだそうだ。
「お腹の中がね、かき回されるみたいなの。ああ」
そう言いながら、動きを速める。
「あん、後ろから…いいかしら?」
「いいぜ」
おれは立ち上がると、レイコをうつ伏せにし、尻を上げさせた。
「いくよ」「来てっ」
ずぶりと、いっきに押し込んだ。
狭いレイコの胎内が押し広がる。
「はつっ、来てるっ」
「ああ、よく締まるよ」
「締めてるの。わかる?」
「わかるよ」
いつものように激しく打ち据えるように、ペニスをガンガン突き込んだ。
汗が飛び散り、レイコの背中に流れを作っている。

胸をまさぐると、じっとりと汗で濡れた乳房が重そうに垂れている。
突きを加えながら、おれは乱暴に乳房を揉みしだいた。
乳首を指の間に挟みながら…
レイコは体をよじり、腰をくねらせながら、おれの動きに身もだえする。
「ああん、だめ、よすぎるっ」
「そんなにしたら、出ちゃうよ」
「もういいから、出して」
「そうかい。じゃフィニッシュするよ」
「うん」
おれは絶頂に向かって腰を振った。
ペニスは赤く膨れ上がり、泡を噛んだ膣から激しく出入りしている。
「うああああっ」
びゅびゅっ…
音がするような射精だった。
ゆっくりペニスを抜くと、堰を切ったように白濁液が飛び出し、ベッドのシーツを汚した。
「ああ、あああ」
おれは腰が抜けたようにへたりこんだ。