フランスの化学者ベルナール・クルトア(1777~1838)はもともと軍人であり、火薬の研究家であった。
父親が硝石の専門家だったことも大いに関係している。
硝石は黒色火薬に必須の薬物であり、海鳥の糞が凝り固まった鉱物が主原料だが、植物を焼いた灰からも採取できる。
クルトアは海藻類を灰にして硝石分を溶かし出そうとしたが、酸を入れすぎて異臭を発生させた。
この蒸気は紫色をしており、冷えると針状結晶になった。
新元素発見と意気込んで、クルトアはこの結晶を友人の化学者二コラ・クレマンとシャルル・デゾルムに見せ、追試と分析を依頼した。
彼らは、フランス化学の重鎮、ゲイ=リュサックとマリ・アンペールにサンプルを送り、新元素かそうでなければ新しい酸化物であるだろうというお墨付きを得た。
1813年11月29日に、クレマンとデゾルムをしてクルトアの新物質を公表した。
12月6日にゲイ=リュサックはこの新物質は新しい元素かもしれないが、まだ知られていない酸化物かもしれないと発表し、アンペールがイギリス王立協会の化学者ハンフリー・デーヴィ卿にサンプルを送った。
デーヴィの実験により新元素であることが判明し、それは塩素に酷似していると12月10日王立協会誌に発表した。
この新元素を「Iode」(ギリシア語で紫)と命名したのはゲイ=リュサックである。
漢字でも「沃度(ヨード)」と日本に紹介され、のちに元素名として「沃素」が支持され、現在では「ヨウ素」とカナ書きされる。

油脂工業において、不飽和脂肪酸の含有量の指標として「ヨウ素価」を分析する方法がある。
ヨウ素が脂肪酸の主鎖に含まれる炭素-炭素二重結合(不飽和結合)に付加して、一重化する(飽和する)性質を利用して、この反応で消費されたヨウ素の量でその程度を示すのである。
この性質はハロゲン一般にあるものであるが、固体で扱いやすいヨウ素を使うのが本法の要諦である。
※高分子化合物の残留モノマーの指標としてその炭素-炭素二重結合に反応させてみる臭素価という指標もあるが類似の方法と言える。

ヨウ素価の大きい程、不飽和度が高いと結論できる。
ヨウ素価を測定する方法にはウィイス法とハヌス法の二法がある。
いずれにしても水に溶けにくいヨウ素を水に溶かす方法としてヨウ化カリウム水溶液にヨウ素を溶かすという方法を用いる。
これはヨウ素分子(I2)をヨウ化カリウムのヨウ素イオン(I-)に会わせて、ヨウ化物イオン(I3-)とすることで水溶化を図っているのである。
このようにして水溶化したヨウ素の溶液をデンプンを含む水溶液に垂らすと赤紫~青紫色に変色することが初等教育でもヨウ素デンプン反応として教授される。
この反応は鋭敏で、発色はデンプン分子のらせん構造に起因し、そのらせんの中にヨウ化物イオンから離れてヨウ素分子となって取り込まれることでヨウ素そのものの発色がみられるからである。
したがって、デンプン分子鎖の長短によってヨウ素デンプン反応の色調が異なることになる。
ヨウ素とポリビニルピロリドンの錯体の水溶液は安定であり、ヨウ素の殺菌作用を保持したままうがい薬などに用いられる(ポビドンヨード液)。

ヨウ化窒素は鋭敏な爆発性化合物である。
ヨウ化窒素は濃アンモニア水(約25%)にヨウ素の結晶を入れると、針状結晶として得られるがこの結晶の近くで拍手やくしゃみをするだけで大爆発を起こす。