お子様の昆虫採集ではなく、専門家の昆虫採集のお話をしましょう。
ゲニタリア(genitalia)についてです。
チョウでも、クワガタでも昆虫のオスには生殖器官があります。
昆虫の場合、特に「交尾器(ゲニタリア)」と言うようです。

昆虫標本をつくる場合、たいていは翅の状況や体色など外観によって図鑑と照らし合わせて同定することになりますが、それだけでは同定できない場合があります。
たとえば、タスキアゲハとクレスフォンテスタスキアゲハという二種のチョウについての論争に決着がついたのはゲニタリアの違いだったのです。
この二種類のチョウの外観は、まったくといっていいほど似ていたのです。
ただ分布がいくぶん異なっていることと、共存している場所もあったから同種の亜種ではないかと思われていたふしがあったのでした。
ところが調べるとゲニタリアに決定的な違いがあり、たとえ同じところに分布していても混血することはなかったのです。
自然の神秘ですね。

ゆえに、昆虫標本を作製しても同定に自信がない場合には、とりあえずその個体のオスのゲニタリアを採取し、標本体に付属させておくことが大切です。
のちに、専門家の見立てを依頼するとしても、ゲニタリアの有無で、結果が違ってくることがあるからです。

クワガタや大型昆虫のオスのゲニタリアは低倍率の作業顕微鏡か拡大鏡があればそんなに困難なことではないようです。
とくに殺虫したての、生しい検体ならわりと容易に取り出せるといいます。
しかし、酢酸エチルで殺虫して時間のたったもの、エタノール殺虫によるものでは硬化がひどく、いちど軟化剤(水酸化ナトリウム水溶液)で腹部を軟らかくしてからでないと取り出せないようです。
くわしくは「こちら」を参照してください。

ゲニタリアで検索すると、いろんな昆虫のゲニタリアについて見ることができますし、昆虫ファンの奥深さに感服するはずです。