私が小学校のころ、夏休みには決まって、父方の祖父母の家に宿題を持って泊まりに行った。
同じ敷地内に伯父夫婦が家を建てて住んでいて、その一人息子の浩二がいた。
私は、彼と夏休みを一緒に過ごすことがなによりも楽しみだった。
浩二が一つ年下ということで、ほとんど同い年で遊びも似通っていた。
私が、あまり女の子らしい遊びをせずに、昆虫を取ったり、キノコをあつめたり、裏山を探検することが好きだったからだ。
ただ、男の子というものは、同じ年齢でも少し幼く、私が姉のようにふるまうからか、浩二は甘えたなところがあった。

夏休みに祖父母の「高安の家」に泊まるとなると、浩二も自分の家ではなくて、私と布団を並べて寝ることになっていた。
祖母がそうしていいというもんだから、浩二の両親も咎めはしなかった。
私が四年生、彼が三年生の夏だったと思う。
晩に、祖父が買ってきた西瓜を切って、みんなで食べることになった。
井戸に浮かべて冷やした西瓜は、冷たくておいしかった。
縁側に座って、浩二と二人で西瓜の種を飛ばしっこしながら、食べた。
伯父が「浩二、寝る前に西瓜なんか食うたら、ねしょんべんするど」と言ったら、浩二が神妙な顔をして「もういらない」と食べ残したのだ。
どうやら、彼は「おねしょ」をするらしいのだ。
私は、聞こえないふりしていた。
そういうことは、彼にとってとても恥ずかしいことに違いないからだ。
私には浩二の元気がなくなっていく様子がわかった。

その晩、私は、
「こうちゃん、おしっこして寝よう。あたしもするから」
そういって、便所にうながした。
おねしょ防止には、寝る前にちゃんとおしっこをさせることだと、幼いながらも私は心得ていたのだろう。
従姉として当然の仕事だと思った。
浩二は、素直に従って、便所に立った。
離れになっている祖父母の家の便所は、夜が怖い。
真っ暗なのだ。
私たちは、寄り添い合って便所にむかった。つっかけの音をぺたぺたさせながら。

そうやって無事に用足しから帰って二人の寝間に戻った。
「じゃ、おやすみ」「おやすみ」
そう言って蚊帳の中に入って電灯を消した、
昼間の遊び疲れもあって、私たちはすぐに寝入ったのだろう。

ふと、私は物音で目を覚ました。
外はしらじらと明けて来ていた。
足元の方で、だれかが布団をめくってしゃがんでいる。
浩二のようだ。
「どうしたん?こうちゃん」
「やってもた…」
小さな声で、浩二がそう言った。
私は、すぐに何が起こったか悟った。がばっと私も布団をのけると、浩二の布団の方に四つ這いで向かう。
そこには、まぁるい染みができていて、尿の匂いが強くただよった。
「あらら」
私はどうしようか思案したが、いい考えが浮かばなかった。
このままでは浩二が、お母さんにこっぴどく叱られ、恥ずかしい思いをすることがはっきりしていた。
伯母さんはけっこう厳しい人で、浩二がよく叱られているのを知っていたからだ。
「わかった、あたしにまかせて」
「なおぼん、どうすんの?」
「あたしもする」
「へ?」
きょとんとしている浩二だったが、私は真剣だった。
私は自分の布団にもぐり込み、おしっこを出そうと念じた。
もう明け方で、膀胱にはけっこうな量の尿が溜まっていたのだ。
が、しかし、パンツの中で放尿するということがいかに難しいかを思い知った。
出ないのである。
私は焦った。

う、ううう
私は、必死に尿道を開くように体をリラックスさせた。
果たして、ちょろりと漏れた。
私は「ええい」と下腹に力を込めて放った。
じゅばぁ…じょじょじょぉ…
「やったぁ」
私の背中の方に暖かい広がりを感じ、その情けない気持ちは今も明瞭に思い出せる。
しばらく放心していた私に、浩二が、「出したん?」と訊いてきた。
「うん」
私は、涙目で応えた。
布団をめくって「作品」を開陳した。
「ほら」「うわ」「パンツ、気持ちわるぅ」「おれも、冷たい」
これで、二人は共犯者だ。
叱られるなら、二人で叱られようと、下半身をびしゃびしゃにした状態で朝を待った。
その気持ち悪さと、連帯意識とないまぜになった時間が長く感じられた。

結局、私たちは叱られなかった。
伯母さんも苦笑して、二人の布団を庭に干していた。
祖父が、「おお、みごとな世界地図や。なおぼんのほうがりっぱやな」と言って大笑いされた。
私と浩二は苦笑いするほかなかった。
その後、夜の西瓜はご法度になってしまった。

私には、今もそうだが、男性に恥をかかせてはいけないという思いが強い。
古いのだろうか?
なんとか、私が犠牲になってでも、男性を立ててあげたいと思うのだ。