ヒュッケル則においてベンゼン環の「共鳴」について書きました。
このことが炭素が導体になることにつながっていきます。
炭素の同素体で「グラファイト(黒鉛)」と「ダイヤモンド(金剛石)」があります。
「グラファイト」は鉛筆の芯に使われていますからだれでも持っているでしょう?
「ダイヤモンド」については、持っていなくても知らない人はいないでしょう?
この二つは炭素でできているのに構造が違うということで「同素体」であると化学者は言います。
もちろん性質も全く異なります。
ただ「燃えたら二酸化炭素と水になる」という結果だけが共通していますが…

グラファイトは平面構造で、横にスライドしやすい(横滑りしやすい)構造です(六角板状晶)。
だから、紙などにこすりつけると、黒く転写するので鉛筆の芯などに使われるのです。
英語で「書く」を意味する「グラフィック」や「グラフ」が、「グラファイト」の語源にもなっています。
そして何よりも「黒い」…よく観察すると金属光沢のようにも見える。
これは自由電子の存在だと言われます。
ほぼすべての可視光を吸収するので黒く見えるのは、自由電子が吸収するからでしょう。
さらに言えば、金属光沢というものは、すべて自由電子が織り成すものなのだと言われています。
金属元素はみな導体であり、金属光沢を持ちます。
グラファイトの層間にリチウムのような異種金属元素がはまり込んだ層間化合物はリチウムイオン電池の負極として使われ、吉野彰先生がノーベル化学賞を受けた技術になります。

グラファイトには自由電子があるのでしょうか?
それが「ベンゼン環」の性質で述べた「π電子の共鳴構造」です。
ベンゼン環の上下に輪のようにめぐる電子雲は、その輪の中では「非局在化」といって、電子が一所に留まるような「局在」ではなく、ほぼ一様に分布しているのです。
これはベンゼンでもナフタレンでも同じですが、ナフタレンになるとどうやら二つの環をπ電子も行き来するようになります。
ベンゼン環がどんどん縮合してつらなっていくと、各ベンゼン環のπ電子は構成するどのベンゼン環の間も行き来して、電子雲はつながっていくことになります。
ベンゼン環が無限に縦横につながってハチの巣のように無数の六角形がつながったシートを形成したものが、さらに幾重にも重なったものが「グラファイト」だと言われているのです。
ここまでπ電子の雲が広がると、電子を担う導体の性質が出てきます。
ベンゼンやナフタレン、アントラセン程度の数個から数百個、いや、数千程度のベンゼン環の集まりではまだまだ絶縁体でしかないのですが、アボガドロ数級のグラファイト分子になれば、もう導体と言えるほどの電子の移動が可能です。
より詳しくは、以下の筑波大のパワーポイントで勉強なさってください、私もこれほどの知識はありませんので…
http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~kondo_lab/kondo/zemi1.pdf

一方で、ダイヤモンドはどうでしょうか?
これは基本骨格がメタンなんですよ。
メタンの水素原子の場所を隣り合う炭素原子が埋めていけば、ダイヤモンド格子ができあがります。
幾何学的には、正四面体が無限に組み合わさった結晶構造です。
これには共鳴構造がありません(炭素原子に不対電子がないことも理由の一つ)。
すべて炭素と炭素の一重結合でなりたっていて、三角形を築いていますから堅固です(等軸晶系といいます)。
物質の中で最も硬いとされている理由がここにあります。

共鳴構造がないということは、自由電子がないわけですから、電気を通すこともないのです。
だからダイヤモンドは炭素だけでできているけれど、絶縁体なのです。
そして自由電子がないから可視光を透過しますので美しい透明の結晶なんです。

π電子の電子雲があるかどうかで、炭素はグラファイトになるか、ダイヤモンドになるか決まるんです。
木炭や石炭はもとは植物組織でしたので、一部にグラファイト化した部分があり、抵抗値は高いですが、備長炭のように蒸し焼きにしたら抵抗値が下がって電気を流すようになると言われています。
備長炭は叩くと金属のような音がし、それで作った備長炭琴なるものも存在します。
備長炭が導体らしいことは以下の論文で確認できます。
http://www.iwasaki-sumiyaki.com/download/suminokihon.pdf

抵抗値の高い石炭も蒸し焼きにして鉄鋼用のコークスにしたら導体になっていると思います。
理由は備長炭と同じです。

こういったグラファイトや石炭を超高圧で圧縮するとダイヤモンドに変化することがわかっており、人工ダイヤモンドはこうして作られます。
同素体ならではの変化ですね。