塾生と「ふね」をお題にして、ことわざや慣用句を出し合った。
ご存知の通り、「ふね」は水上の乗り物ですね。
漢字は、小中学生なら「船」を知っているだろうし、高校生ぐらいなら「舟」という字も知っていると思います。一般に、客船とかタンカーとか貨物船は「船」を、櫓(ろ)かい舟などの船頭さんが棹(さお)さしたり、人が櫓やオールで漕いだりする「ボート」風の小さいものを「舟」と言うみたい。
いしだあゆみの『ブルーライトヨコハマ』の歌詞にある「歩いても、歩いても 小舟のように」というときに「か弱い」雰囲気を出すのには「舟」を使うわね。
それと人名に使うときです。
勝海舟とか磯野舟(サザエさんのお母さん)が良い例です。「船」は人名に使わないと思う。
三船敏郎がいるって?苗字だし。
淡海三船はどうだ?すごいの知ってるね。降参しました。

波平さんが フネに乗って サザエができたぁ…なんて嘉門達夫が歌って長谷川町子美術館からクレームがついてしまったとか、なつかしなぁ。

特殊な例で「軍艦」のことを軍人は「艦」と書いて「ふね」と読んだりする。これはレトリックですね。
じゃ、いきますよ。

・舟をこぐ…白河夜船(しらかわよふね)から来てるんだと思うけど。居眠りをして、座ったままこっくりこっくりする様子を言います。注意すべきは「白河夜船」と書くときは「船」なんですね。なんでだろう?
・白河夜船…狸寝入りして聞いたことで嘘がバレた話から、知ったかぶりをすることらしい。京都の白河という川ではない地名を、寝ながら聞いて知ったかぶりをした、京都に行ったこともない男が「白川」を舟で渡ったと言うから、「じゃ、どんな川だったい?」「夜に舟で渡ったから覚えちゃいない」と言い逃れたことで、ウソがばれたって話。
・乗り掛かった舟…あなたのために手をつけている行為は、もうやめられない。仁義の世界にかかわらず、人間関係では大事なことです。共倒れにならないように。
・大船に乗った気持ちで…これは「船」でしょうね。大海に繰り出すということは、古代も今も危険を冒すことに相違ない。ゆえに大きな船ほど沈まない、揺れないなんて思いたいわけ。地球規模からしたら、戦艦大和だって「舟」に過ぎないくせにね。
・船足(ふなあし)…これは、船の速さ、つまり速度のことを言います。船には足はないが、陸上の動物が走ることになぞらえて、そういうのでしょうか?うまい言い方だと思います。蛇足ではないのよ。
・呉越同舟…四字熟語で中国の故事成語です。「呉(ご)」も「越(えつ)」も中国古代の国の名前で敵対していました。そういう敵同士が一つの舟に乗っている…大風が吹いて高波が襲ってきたぞ、争っている場合か?下は深い河だぜ。
仲の悪い者同士が、ふてくされて狭い舟で肩を寄せ合っている状況を想像してね。
手元の『孫子』(岩波文庫)によれば「九地篇五」に「夫呉人与越人相悪也、当其同舟而済遇風其相救也、如左右手」(そもそも呉の国の人と越の国の人とは互いに憎みあう仲であるが、それでも一緒に同じ舟に乗って川を渡り、途中で大風に遭った場合には、彼らは左手と右手との関係のように密接に助け合うものだ)とありました。これが「呉越同舟」の典拠です。
利害が一致していれば、たとい犬猿の仲であっても協力し合うものだということね。
・湯船(ゆぶね)…バスタブのことをどうして湯船っていうんだろう?前から気になっていたのよ。もし、お湯を張ったバスタブを海に浮かべて船のようにしたって沈むでしょうに。
塾頭の和多田先生によると、それは「大江戸湯船」という、本当に屋形船の銭湯があったというのです。
阪神タイガースに湯舟敏郎ってピッチャーがいたけど、あの人の祖先はそんな仕事をしてたのかもね。
江戸川だか、隅田川だか知らないけれど、そういった川をお風呂をしつらえた船が行き来していたらしい。利用客は河原者やら、水上生活者とか、江戸から外れたところの銭湯なんてないような地域に出向いて、風呂を立ててくれたそうです。いやぁ、ありがてぇ!
船だから、風呂桶は一つで混浴だったとか。
まあ利用する客は男ばかりだったようで、女は夜鷹(売春婦)ぐらいだから、べつになんかあったって、気にしやしないさね。
それで、お家の固定式のバスタブも湯船っていうようになったとさ。
江戸では火災防止のために家風呂は禁止で、お風呂は銭湯に行くのが当たり前でした。船なら仮に火災になっても心配ないでしょう?
大江戸のような大都市ではみんながみんな銭湯に行けないの。風紀の乱れを嫌った幕府のお触れで、隔日で男湯と女湯になるというような銭湯の時代もあった。湯船の大きいのがひとつきりしか作れない銭湯ではそうするか、板で目隠しして男女を分けるかしかなかったの(湯船はつながってる)。
自由に風呂に入るのは至難だったのね。江戸っ子は熱い風呂が好きだし…
ほら貝で「お風呂が来たぞ」って知らせてくれるんですって。
この話をみんなにしたら、大うけでした。
夜鷹の説明がちょっと子供らには早すぎたけれど…

・風船ってなんで船なの?と典子ちゃんが、かわいい声で最後に言った。小三の女の子の質問です。
これはまいった。
私は知らなかったけれど、和多田先生は「飛行船というものが、それに近いかもしれない」と言ってくれた。
つまり飛行船は、バルーンに船のようなゴンドラがぶら下がっているが、あれが「船」であり、舵輪もついていたと言います。
今の飛行船がどんな操縦法なのか知りませんけれど、気球の時代、飛行船の時代は人の乗るカゴの部分を船に見立てていたことから、バルーンの和名も風船となったのだろうと先生は言うのです。
どうなんでしょうか?