化学の一分野として合成染料の化学というものがある。
大学の工学部において工業化学科や応用化学科の出身者ならそういう科目を履修させられているはずだ。
なおかつ、有機化学合成実験で「ジアゾ化およびジアゾカップリング」の実習をしていると思う。

アニリン(aniline)という芳香族アミンおよびアニリン誘導体を出発原料にジアゾ化という著名な反応をさせることが第一段階である。
これによって、反応性に富んだジアゾニウム塩を得て、2-ナフトール(βーナフトール)をアルカリ性溶液中で与えると、ナフトールの1位の場所の水素原子にジアゾニウム塩が置換する、つまり「カップリング」すると「-N=N-」(アゾ結合)を生じて、「芳香核ーアゾ結合ー芳香核」という「電子共役系」をなし、この化合物は有色化合物となる。
つまり「合成染料」の一種ができるのである。
ただこれだけでは「染料」として弱い。
電子共役系だけでは「発色」はするが、繊維などにしっかりと「食いつかせる」ためには、ほかの化学的な手段を要する。
そうして初めて「染料」として有用になるのである。

「オレンジⅡ(ツー)」もしくは「β-ナフトールオレンジ」という一般名の染料がある。
その名の通り濃いオレンジ色の染料だ。
染まると、スパゲッティの「ナポリタン」のような色になる。
これは「スルファニル酸(sulfanilic acid)」といって、アニリンのパラ位にスルホン酸基を持つアニリン成分と、
Sulfanilic acid2-naphtol


これにβ-ナフトールをジアゾカップリングさせてつくる、代表的アゾ染料である。
学生実験でも人気のメニューだ。

最初にスルファニル酸には水溶性がないので、このままでは反応が進まない。
ゆえに、スルファニル酸8.7gに5%炭酸ナトリウム水溶液を60㎖入れて加熱溶解させ、ナトリウム塩の「スルファニル酸ナトリウム」とする。
このとき炭酸ガスを発生することが観察される。
このスルファニル酸ナトリウム溶液は0~5℃に氷冷しておく。…①

別に亜硝酸ナトリウムを3.5gを水20㎖に溶かしてやはり0~5℃に氷冷しておく。…②
さらにもう一つ、塩酸(2N)を60㎖、0~5℃に氷冷しておく。…③
別に、β-ナフトール7.2gを10%水酸化ナトリウム水溶液100㎖で溶解し、0~5℃に氷冷しておく。…④
この0~5℃に氷冷しておくことがジアゾニウム塩を得るのに大切なことなのである。
ジアゾニウム塩はとても不安定な物質であり、5℃を超えると急激に窒素ガスを放って分解してしまう。
diazonium salt

①、②、③を0~5℃に氷冷しながら合わせ、よくかき混ぜる。…⑤
ヨウ化カリウムとデンプン水溶液を染ませて乾かしたろ紙(ヨウ化カリウムデンプン紙)にこの溶液を少しつけてわずかに青くなったら、その温度を保ちながらを手早く全量をに加えてよく混ぜる。
たちまち濃い朱色の粥状のものができてくるはずだ。
この時発熱するので、内温が5℃を超えないように注意する(ジアゾカップリング反応)。
この攪拌を約1時間ほど、0~5℃に氷冷しながらおこない、反応を完結させる。
この朱色のものが「オレンジⅡ」の結晶であるが、氷冷から出し、今度は湯煎で80℃まで加熱して溶解させてしまう。
熱いうちにブフナー漏斗とろ紙で固形物を分離し、ろ液の方に食塩を15g程度入れて再び80℃に加熱して溶解し、そのまま室温まで冷やす(塩析ののち再結晶)。
食塩を入れるのは水溶液のオレンジⅡの溶解度を落とす(塩析という)ためで、オレンジⅡの結晶は食塩を含んだ状態のままとなるが、染料としての性能に影響はない。

冷えたものを新たなブフナー漏斗とろ紙で濾別し、今度はろ紙上に残った朱色の結晶を集め、乾いたろ紙で水気を取って、さらに乾燥する。
orange Ⅱ
このような合成実験なのだが、段取りよくできるようになると、家庭でも料理の腕も上がる(そうかぁ?)
器具の使い方、揃え方、洗い方など、料理に応用できるものばかりだからだ。
あらかじめつくっておかねばならない水溶液も数種類あったはずだが、ああいうのを先に作っておかねば、ジアゾ化は激しい反応なので、てんやわんやの大騒ぎになる。
あぶないし。
男の子も化学者は料理好きで、手際が良いようです。