書家は、硯に凝るわけです。
硯は石でできているんですが(だから石偏なんだけど)、国産と中国産があるわけです。
もしかしたら朝鮮半島産もあるかもしれないけど、私は知りません。
中国産といっても粗悪ではなく、むしろ「本場の逸品」があるんです。
書に関しては中国の方が大先輩ですからね。

「端渓(たんけい)」これが中国産の最高級の硯用岩石の名前です。
その硯は「端渓硯(たんけいけん)」と呼ばれて、珍重され、原石は採掘し尽くされ、もはや枯渇しているとの噂もあり、偽物が出回る始末です。
次いで「歙州硯(きゅうじゅうけん)」が有名です。
硯に使われる岩石は水成岩であり、水の作用で堆積したものが岩石となったものです。
だいたい泥岩、粘板岩のたぐいです。
和硯(わけん)にも良いものがあります。
山口県の赤間石(あかまいし、あかまがいし)がまず挙げられます。
凝灰岩の一種で、紫雲石(しうんせき)とよばれる赤味のある石質のほかに黒い物もあります。
硬いので、側面に美麗な彫刻をほどこしたものが多いです。
次に雨畑硯(あまはたすずり)は山梨県に産する黒色粘板岩で、工房が現在一つしかなく希少価値が高まっています。
日本には黒色粘板岩を産する場所が多くあり、宮城県石巻市雄勝町の雄勝硯(おがつすずり)や和歌山県那智勝浦の那智黒石の碁石や硯が有名です。

私は、端渓硯を一面所持していますが、これは父が中国に仕事で渡ったときに土産として買ってきてくれたものです。
しかし、真贋がよくわからない。
父は全くその方面の目利きではなかったし、中国のブローカーに言いくるめられて二束三文の硯を買わされたのではないかと思っています。
あまり墨の下(お)りがよくないし、側面の模様のような彫刻が雑に見えるんです。

私が自分で買い求めた硯は雄勝石の硯です。
東日本大震災で雄勝町は大変な被害に遭い、硯の生産もストップしたと聞きます。
最近、やっと復興の兆しが見えて来たとか。
雄勝石は硯だけでなく、建材や小物にも加工され、その黒い深い肌には引き込まれそうな静けさを湛えています。
私の雄勝硯は、震災前の産です。とても気に入ってます。
赤間石や雨畑石の硯は高価すぎて手が出ません。
本格的な書家かコレクター向けだと思います。
那智黒石の硯も欲しいなと思っているのですが、現地に行かないと手に入りにくいようです。
那智黒石は黒碁石で有名ですが、試金石としても宝石業界では名が知られているそうです。
黒色粘板岩は、サヌカイトや黒曜石に比肩する利用価値の高い岩石なのだなと硯を撫でながら思うわけです。