私の「科学の蔵」には、いろいろ宝物が入っているんですよ。
今日はね「私の定数」から「アボガドロ数(定数)」を取り出して、愛でて見ましょう。
この美しい「定数」は、化学を飾るのに欠かせない「宝」なんですよ。

アボガドロ数NA=6.02×10^23/mol
そのこころは「1molあたりの構成する粒子の数」ということになってます。
・1molって何?
・構成する粒子って何?
・どうやって数えたの?
・何の役に立つの?

だいたい、うちの塾生さんからは上のような疑問をいただきました。
いいんですよ。
知らなくても生活に困りゃしませんから。

一見して「途方もない」数だということがわかります。
23個の「0」がつくって書いてあるんですからね。
1兆や百兆(100,000,000,000,000)なんかじゃ、まだまだ「小さい」んですぜ。
10^23は和算書の『塵劫記(じんこうき)』(吉田光由、1627年)によると「千垓(せんがい)」と「命数法」(Wikipedia)にはありました。

さてご質問をひとつひとつ丁寧に(?)お答えいたしましょう。
まず「1mol(またはmole)」ですが「1モル」と読みます。
「モル」は英語の「分子」を表す「molecular」に因むらしい。

私たちの学生時代(1980年ごろ)は「炭素(原子量12)の12g(0.012㎏)中に含まれる炭素原子の個数をアボガドロ数とし、その単位を1モルとする」というような定義でした。
だから物質が異なっても、1モルの単位の中の原子の数はすべてアボガドロ数個であると言うことです。
※この場合、原子だけでなく「粒子」は分子、イオンにも拡張されますので、必ず構成する粒子が何であるかを明らかにして議論すべきだとされます。

反対に、アボガドロ数個の同種の原子が集まればその重さが1モルの重さだと言うこともできました。

現在の定義は少し違って、まず「モル数」という言葉は使わずに「物質量」という言葉に置き換えられています。
ただし単位の「mol」は「モル」として今まで同様に使います。
「1モルは6.02214076×10^23個(アボガドロ定数個)の構成する粒子(原子や分子、イオンのこと)を含む」
と定義されます。

こんなに詳しく桁を覚えることも、使うこともありませんのでアボガドロ定数といえば、6.02×10^23と「科学の蔵」ではしておきます。

ですからかつての「モル」は現在の「物質量」のことであり、単位としてのみ「モル」は残っているのです。
そして「物質量」の意味は、物質量M(mol)、構成する粒子の個数n、アボガドロ定数NAとすれば、

 M=n/NA …①
と定義されます。
物質量の単位は「モル」です。

次に「構成する粒子」について答えるために例を引きましょう。
さっき炭素を例にとりました。
炭素(元素記号C、原子量12)の1モルは12gです。
では炭素60gは何モルですか?
60/12=5モルですね。
食塩(NaCl)の1モルはいくらですかね。
こういうイオン式は「式量」といって結晶の構成元素の繰り返し単位を構成する粒子とします。
※水に食塩を溶かすと、Na⊕とCl⊖のイオンに別れるからです。
Na=23、Cl=35.5がぞれぞれの原子量ですから、NaCl=58.5g/molです。
1モルは58.5gなんですね。
この中には6.02×10^23個のNaClの繰り返し単位が含まれます。

H2Oは水ですが、これは分子として存在します。
こういう分子も構成する粒子ですから、1モルは18gと分子量で表せます。
気体はどうでしょう?
気体も同じですが、一定温度、一定大気圧の気体の体積で表します。
気体分子(希ガスのような単原子分子も含む)1モルは0℃、1気圧の条件で22.4リットルの体積を占めると定義されます。
この温度と気圧の条件下で気体である物質は、みな1モルの分子数(アボガドロ定数個)は22.4リットルの体積になるのです。
窒素は気体ですが、その分子はN2ですね。
その分子量が28です。
窒素ガスの1モルの重さは28gでその体積は22.4リットル(0℃、1気圧)であるということができます。
では「空気」のような混合気体はどうなんでしょうか?
空気の構成気体は窒素ガスと酸素ガスの体積比で4:1だと言われています。
そのほかに二酸化炭素やごくごく微量の希ガスも含まれているようですが、平均分子量が29だと計算されています。
すると、平均分子量を使えば、空気1モルの重さが29gで、その体積が22.4リットル(0℃、1気圧)であるといえます。
すなわち、モルとは物を計る桝(ます)のようなものと思ってください。
ただその桝はお米などを計るそれとは異なり、この「モル桝」を使うとすべて粒子の数が同じにすることができるのです。
皆さんが知っている桝では、お米と大豆を計ったときに「かさ(見かけの容積)」が同じで、重さも、米粒と大豆の個数も違うでしょう?
米粒と大豆では空間のできかたもちがうし、第一、同じ米粒でも全く同じ大きさじゃないでしょう。
そういう「おおざっぱ」な桝では原子や分子を計ることでは意味がないのです。

そこで「構成する粒子の個数」を一定に保って、重さや占める体積を比べようというのが「モル桝」つまりアボガドロ定数の考え方なのです。
仮に、お米の粒や大豆の粒が、それぞれ大きさと形が、原子や分子のようにまったくばらつきがないとして、それぞれ100個ずつ数えてその重さを計ります。
お米なら15g/100個、大豆なら60g/100個と測定できたとします。
この分母の「100個」が「アボガドロ定数」に当たります。
お米や大豆なら「100個の重さ」とみんなで決めて、比較することができるでしょう。
考え方としてはまったく同じなんです。
ところが原子や分子は目に見えないくらいに小さく、とうてい数えることなどできません。
そこで当初、安定な炭素の原子量12に重さの単位ℊをつけて天秤で正確に12gを量り取って、そのなかに含まれる原子の個数を6.02×10^23個だったとしたのです。
実際は炭素原子の数を数えたのではなく、アボガドロの法則からフランスの物理学者ジャン・ペランがブラウン運動を研究して気体分子の振舞いを観察し、分子という概念を事実として提示して1モルに当たる酸素分子の個数、つまり後のアボガドロ定数にあたる数値を、はじき出したのです。
だから、この定数はアボガドロ自身が得たのではなく、アボガドロの法則に啓発されてペランやドイツの物理学者ヨハン・ロシュミットの実験によって得られたのです。
この数字にアボガドロの名を冠したのはペランの発案らしいですが、ロシュミットがペランより先に、気体分子の直径と気体容積から、理想気体の数密度を得て、アボガドロ定数に当たる数値を得ていました。この数密度をドイツでは「ロシュミット数」と呼ばれているそうです。
ロシュミット数は気体圧力とアボガドロ定数の積を気体定数と絶対温度の積で割ったものです。だから、1㎥あたりの理想気体の分子数をロシュミット定数というのです。
※ただ、ドイツではアボガドロ定数のことをロシュミット定数と呼んでいる場合もあるらしい。正しくは、ロシュミット数は、6.02×10^23(mol-¹)/22.4×10-³(㎥/mol)=2.65×10^25(m-³)となる。

ペランによってアボガドロ数個の酸素分子の重さが32gであることが知られ、それが正しいのなら、原子量12gの炭素なら、その中の炭素原子の個数はやはりアボガドロ数個になっているはずです。
まさに、お米の粒100個と、大豆の粒100個の重さの比較と同じでしょう?
これで「どうやって数えたのか?」の答えになっているかな?

私たちが実験的にアボガドロ数を出す方法があります。
高校生ならやったことがあるかもしれません。
オレイン酸という脂肪酸(カルボン酸)分子を使う方法です。
オレイン酸分子は、水面に単分子膜を作る性質があるので、これを利用するのです。
オレイン酸分子は、おおまかにいって中ほどが少し折れた(シス型)マッチ棒のような形をしています。
マッチの軸に当たる部分が疎水基といって水を嫌い、マッチの頭に当たる部分が親水基で水と親和的ですので、水溶性溶剤(エタノールがよい)に溶いて(濃度0.1%)水に垂らすと溶剤が水に溶けてオレイン酸分子が水面に残されますが、そのときにきれいにヘラブナ釣りのウキのように立ちます。
それこそ隙間なく単分子膜を水面に作り、分子が重なることがないので都合がいいのです。
実験の詳細は以下をご覧ください。
http://www.sci.keio.ac.jp/gp/87B7D75A/CFCCD3F5/0A9CD98A.pdf


イタリアのアメデオ・アボガドロは、教科書ではかなりインパクトのある肖像で印象深い化学者なのですが、先ほどの気体の粒子の関係について調べており、そこから着想を得たようです。
アボガドロ

気体の種類に関わらず、一定温度、一定気圧のもと、一定容積の中に含まれる気体分子の数が同じであることに気づいたのです。
これをアボガドロの法則と言います。
この論文は難解で、発表された1811年当時は相手にされなかった。
トリノ大学が設立され初代物理学教授に就任したアボガドロ博士は、精力的に研究に励みます。
しかし、トリノ大学が政変(サルディーニャ国王の失脚)で閉鎖されるという苦難に遭い、博士は下野し、法律家になって弁護士事務所を営みながらほそぼそと科学の研究にいそしんだと言われています。
王政復古が成り、トリノ大学が再開されると博士は再び教壇に立つことができました。
亡くなるまでアボガドロの名前は無名のままでした。
アボガドロの死後、同国の化学者カニッツァーロによってアボガドロの功績が世界に知らされました。

イギリスの物理学者マイケル・ファラデーにちなんだ電子1モル当たりの電荷をファラデー定数(9.6485×10⁴ C/mol)といいますが、これはずいぶん後に、アメリカの物理学者ロバート・ミリカンの実験から、電子一個あたりの電気量(電気素量)がわかったときに、そう呼ばれるようになったものです。
構成する粒子がこのように電子であっても「物質量」の概念が使えるのです。


では、アボガドロ定数は何の役に立つのでしょうか?
この質問への答えが、もっとも難しい。
宝石が生活の何かに役立つかといえば、所有欲を満たすぐらいしかないでしょう。
そうですね、アボガドロ定数も知識欲を満たすほかに役立ちそうにありません。
「豚に真珠」のたとえもありますので、人によってはアボガドロ定数など「馬糞」よりも役に立たないのかもしれません。
「途方もなくデカくて、見えないほど小さいものの数字」それがアボガドロ定数なんですよ。