アマチュア無線の電子工作では東芝の2SC-1815-GRという高周波用のバイポーラトランジスタをよく使うのだけれど、東芝ではとうに製造が中止され、純正品は全世界で約七万個ともいわれる在庫のみとなっている。
それでも需要があるから、中国などでコピー商品が製造され、そこそこの定格を叩き出すので趣味の世界では重宝されている。
Amazonで入手できる2SC-1815-GRはほぼ全部、中国製である。

この2SC-1815-GRはNPN型のバイポーラトランジスタで、発振回路やマイクアンプ、スイッチング回路には頻繁に使われ、それらの回路も多く発表されている。
名前の末尾のGRとかBLとかはトランジスタのhFE(直流電流増幅率)の定格範囲が異なることを示している。
たとえば2SC-1815-Oならその直流電流増幅率は入力の70~140倍、2SC-1815-GRなら200~400倍にもなるので、あなどれない。
※この「O」や「GR」は色の識別で、トランジスタのパッケージに一目でhFEがわかるようにオレンジやグリーンにスポットが付されていたことに由来する。ほかにイエローの「Y」、ブルーの「BL」などがある。

トランジスタの働きは、アマチュア無線家なら「入力信号の増幅」だと答えられるはずで、まさにその増幅率は大事なトランジスタの定格なのだった。
機械屋さんなら、それに加えて「スイッチング」がトランジスタでできると答えるかもしれない。
昔はリレーでやっていたことがトランジスタのおかげで、機械的な遅れのない瞬時の制御ができるわけだから。
通信機の場合、入力信号の増幅により、弱い信号をより大きく取り出すことに主眼が置かれるが、機械制御の場合は、タッチパネルに触れるなどの小さな信号で、ロボットなどの大きなモーターを動かすことにトランジスタは使われる(スイッチング)。

すでにバイポーラという言葉を断りなく使ってきたが、これは、直訳すれば「二極の」という意味で、物の本には「N型」半導体と「P型」半導体の二極を接合した構造だからなどと書かれている。
単にNとPを接合したものはダイオードである。
ダイオードは、かつて真空管の「二極管」がそう呼ばれていて、機能もほぼ同じ整流作用だったからだと、私の叔父から教えてもらった。
実は、ここからは私の想像だが、NPNあるいはPNPの接合型トランジスタはダイオードを二つ背中合わせに接合した場合と等価なので「二極」と言っているのではないだろうか?

ふつう、電子工作で「バイポーラ」という術語は使わないけれど、電界効果トランジスタ(FET)と区別するために、パーツ屋さんなどがカタログにそう書くから知っておくべき用語とされている。

2SC-1815-GRは高周波用でNPN型であることは前に述べたが、とうぜんPNP型で同じ定格のトランジスタがあるはずだ。
それは2SA-1015-GRなのである。
これらを互いに「コンプリメンタリ」であるという。単に「コンプリ」ともいう。最近では、コンプリ同士を一つのパッケージに集積し足を六本出して両方を同時に、もしくはどちらか一方だけを使うと言うような複合型も販売されているようだ。外観は六本足のIC(集積回路)に見える。

コンプリは互いに定格も効果も同じだけれど、バイアスをかける電流の向きが逆になるので、回路設計者は気をつけねばならない。
エミッタ・ベース間に入った信号電流が、エミッタ・コレクタ間に数十倍から数百倍に増幅されて出力されるのがトランジスタの働きなのだが、そのためにはエミッタ・ベース間に電圧を印加する(バイアスをかける)ことでそれを原資にして増幅電圧のかかったhFE倍の電流が取り出せるのである。
N型半導体は電子過剰(マイナス電気)、P型半導体は正孔過剰(プラス電気)だという基礎知識があれば、NPN型トランジスタは、P型半導体をN型半導体でサンドイッチにしたものであり、そのP型部分はとても薄く作られていてそこからベース電極が出ている。
※サンドイッチ層が「とても薄く作られている」というのが大事なのだ。

各N型半導体部分からコレクタ電極、エミッタ電極が出て、トランジスタは合計三本足になっているのである。
私は「タコ焼き器」と「タコ焼き」に例えて説明するのだが、電子が「タコ焼き」で正孔が「タコ焼き器」というわけだ。
試しにエミッタにマイナス、コレクタにプラスの直流電圧をかけてみよう。
電子たる「タコ焼き」はNP接合面で正孔と結合したまま膠着し、たこ焼きの移動の連鎖が生じないため、まったく電流が流れない(スイッチオフの状態)。
これはダイオードに逆方向電圧をかけた場合と同じである。
エミッタ・ベース間にエミッタをマイナス、ベースをプラスの電池をつないで電流を流すと、電子たる「たこ焼き」は「タコ焼き器の穴(正孔)」につぎつぎ移って回路へ出ていき、ベースからエミッタへは順方向電流が流れ、それとともに、コレクタからエミッタへも電流が流れ、足された電流がエミッタ側から取り出され、それはもとのベース電流よりも数百倍に増幅されているのである(スイッチオンの状態)。
何事も無から有は生じないので、トランジスタの増幅のからくりにはちゃんとバイアス電圧という別電源があるのである。

このトランジスタの作用は、「微弱な電流で、大きな電流を制御することができる」と言いかえることができる。これはまさにかつてのリレー制御のソリッドステート化にほかならない。

ブレッドボードでちまちま回路を組んでいると、手に入らない部品が増えたなあと思うことが多い。
確かに十年ほど前なら、簡単に手に入ったものも今では中国製か東南アジア製のもので定格も保証の限りではないものが増えた。
互換部品の情報もネットで公開されているので、同好の諸兄姉の存在はありがたいことだ。

中学生のころ、半田ごてを初めて持った私だったが、雑誌の製作記事と首っ引きで、とにかく載っている通りにつくらないと安心できないでいた。
少しでも違う部品だとうまくいかないという思い込みが激しく、叔父に「そんなん、代わりのものがなんぼでもあるで」と言われても納得しない頑固な私がいた。
トランジスタでも多少定格が違っても、子供の電子工作なら十分使えるらしいのだ。
アマチュア無線関連の製作になると、なかなかシビアな部品選定を要求されるが、3~4石のラジオなど、手元の部品でどうにかなるということを叔父が証明して見せてくれた。
いつだったか、五十も半ばになった私が「ランド式配線」というものに出会った。
ブレッドボードは一時的な配線であるのに対して、ランド式は恒久的な、ちゃんとした配線なのに、実体配線で回路を追いやすいために、私にとって目からうろこの方法だった。
たとえば『ランド方式で作る手作りトランシーバ入門』(今井 栄、CQ出版社)を読んでみてほしい。
この実体配線の良いところは、電子工作でつまづく「アース」のわかりやすさだろうか?
「アース」は回路作成者によって、共通線で表現されたり、アース記号で表現されたりして、同じ回路なのに、違うような印象を受けたりしたものだ。
電子回路にとって「アース」とはなんぞや?
これを明確に答えてくれる人は、私の周りにはいなかった。
化学しか知らない私にとって「アース」は殺虫剤とは区別できても、なんであるかはわからなかった。
小学校で豆電球を電池につないで点灯させる実験をするが、プラス極もマイナス極も電池で終了していたはずで、それが「閉回路」の典型である。
そこにさまざまな素子が加わって複雑な電子回路ができていくうちに、アースが出現する。
電池のマイナス側がアースに落ちている。
そのままでは回路は閉じていないのでは?中学生になっても私は気になっていながら、気にしないように生きてきた。
モービルハム(自動車で運用するアマチュア無線)を就職してからやるようになると、無線機の電源をシガーソケットからとって過ごしていたら、旦那(まだ婚約していなかった)に「バッ直(ちょく)」で電源を取らないとだめだと注意された。
「なにそれ?」
「だから、車のバッテリーから直接リグ(無線機)の電源をとるようにせなあかん」
というのだ。
2スケ以上の太い電線と圧着端子で、言われたように配線しなおして、途中にリレーを入れてエンジンキーを抜いたらリグの電源も落ちるようにして…と、
そしてマイナス側なんですよ。
彼が言うには、マイナス側は座席の下の座席を固定しているボルト・ナットのところに接続しろというのだ。
「え?バッテリーのマイナス側につなぐのでは?」
「車の場合、車台にアースが落ちているからそれでいいの」というではないか。
雷が車に落ちても、搭乗者には影響がないのはそのためらしい。
車の電装品のアースはみな車台に落としているのだそうだ。
もちろん、バッテリーのマイナス側につないでもかまわないがその分、電線の引き回しが多くなり、リグの近所の座席下で完結させるほうが簡略化できるという。

このように「アース」は「地球」のことであるけれど、電位が最も低い場所につないで回路を完結させるという意味がおぼろげながら私に理解できた。

電子回路でも、共通線はつまりは電池のマイナスがわにつながっているし、そうでなければ導電性の筐体(シャーシ)につないだりしている。
そこが電位が一番低いからだ。
もちろんシャーシにつなぐと感電の恐れがあるから、さらにそこから本当の地球に落とすなどしなければならないがそれは大きな電流の場合である。
たとえば洗濯機や冷蔵庫などがそう。
トランジスタラジオ程度なら人体からアースに落ちても何も感じないだろう。
アマチュア無線機は、かなりの電流が流れているのでちゃんとアースをとらないといけない。
モービルハムで「バッ直」にしなければらないのは送信時に大電流が電線を流れるので、シガーソケットのような貧弱な電線では電流に対する抵抗値が高いために発熱し、発火のおそれもあるからだ。
※ワッチ(受信)のみや、送信出力が10W 未満のハンディ機ならシガーからとっても差し支えないだろう。送信出力10W 以上だと連続送信はシガーソケットでは危険である。

ランド方式の配線では、ランドの下の銅箔面が共通になってアースになる。
回路上のアースマークの部分はみな、銅箔面にはんだ付けしてしまえばいい。
それだけでも回路の見通しは明るくなる。
ごちゃごちゃのラグ板配線や、プリント基板配線では回路を追いたいときに容易でないだろう。
ブレッドボードで実験が終わればランド式でしっかり回路を組み上げるのは、電子工学の学習の上でも有意義だと思う。