燐(リン)という元素が「生物の電池」だとか、「生物元素」などと呼ばれるのは、アデノシン三リン酸→アデノシン二リン酸の酸化還元反応が生体反応の原動力になっていることや、リンが核酸の骨格を担う元素であることから、うなずける。

それほどリンが、ウィルスからヒトや植物など、あらゆる生体に存在する。
もちろん、窒素や炭素、水素、酸素もその意味ではリンと同じように生体に必須なのだが、リンが電子材料に例えたら「能動素子」にあたり、炭素や水素は「受動素子」にあたるほど、リンは積極的に生物の根幹に存在し、電子のやり取りで循環を起こしている。
また、リンがあったから地球に生物が発生したという推論にも、反論できない。
今日、京都産業大学のチームが金星の大気のスペクトルから「ホスフィン(PH3)」というリンの化合物を発見した(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200915/k10012618861000.html)というニュースが入ってきたが、これは金星の大気に微生物が浮遊しているのではないかという推論になるというのだ。
「ホスフィン」は嫌気性菌によって地球上では産生される。もちろん人工的にも作られているが、天然には生物が関与しないとできないと考えられているリン化合物だ。
だから今回の発見は地球外生命体がかなりの確度で存在するという根拠になりうるのである。

リンは、生物が生体内に取り込み、それを利用し、排泄しているのである。
グアノという海鳥の糞が堆積して鉱物化したものが、南方の島に産するが、こういったグアノも生物の活動なしには生じないのだ。
グアノはリン鉱石として肥料や火薬類に利用され、産業の発展に多大な寄与をしたわけだが、大国による乱獲で島自体がなくなったり、大きな環境破壊につながった。

リンが地球上を生物を通して循環していることが、とても重要であり、そのことが今後の我々の生活に大きく関係してくるのである。
リンは肥料として、農業で多くを消費されることは園芸をした者ならよく理解されるが、農家などの専門家はリンの植物体への吸収がそんなに多くなく、たいていは土壌に余って、排水され、河川を富栄養化させていることに気づいている。
吸収が悪いから過剰にリン肥料を土壌に施すので、河川や湖沼の富栄養化に拍車がかかるのだ。
水質の富栄養化が進むと、最初は植物性のプランクトンや藻類が繁茂するが、次第に生物は死滅し、ついには貧栄養化が進んで湖沼は死んでしまう。
つまり富栄養化と貧栄養化は表裏一体のものなのだ。
リンの循環が生物の死滅によって絶たれたために貧栄養化に転じてしまい、不可逆の結果を生むのだった。
このように生物の存在なしにリンの循環は成立しない。

リンの循環については大阪大学の次のページに詳しい。

http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/be/phosphorus.html

仏教でいう「輪廻転生」も、リンの循環のことを暗に言っているのではないかと、思ってしまう。

地球上に利用できるリンが不足すればわれわれヒトも生存できないことがわかるだろう。
たいていのリンは地球の表面よりも深部、深海底に存在している。
生物の排泄物や死骸が堆積したものがリン鉱石等になるからだ。
海底のリンは湧昇水によって海表面に達し、プランクトンに取り込まれ、魚類に摂食され、鳥類に捕食され、鳥類の排せつ物が陸地に堆積するという上向きのサイクルがある。
対して、死骸や排泄物が埋没し、あるいは堆積していくことが下向きのサイクルである。
このようなサイクル(輪廻)が実際に地球で観察され、生態系を維持しているのだった。
そこに人類のリン鉱石の乱開発や化成品のリン化合物(洗剤や化学肥料)の垂れ流しによる水質汚染によってリンの生体利用のサイクルが破綻してしまい、環境に不可逆なダメージを与えてしまうのだ。
リンの資源は、人類にとって「枯渇」しつつあるといっていい。
地球上のリンの総量は地球誕生の折から変化がないはずだが、ヒトが利用できるリンがどんどん減っているのだ。
そして使われなくなったリンが環境を破壊していくことに我々は気づくべきであろう。