私は仕事柄、接着剤をいろいろ使う。
最近は、新型コロナウィルスのせいで、自宅に作業場をこしらえて仕事を持ち帰っているが、その際、接着剤の保管に工夫が必要なので、ご家庭でできる方法を記しておこう。

まず接着剤の種類について少し。

ホームセンターで接着剤コーナーに行けば、たいていの接着剤は手に入る。
だから選択が難しい。
一つの考え方として、被接着物(接着の目的物)がどんな材質なのかという観点で接着剤を選ぶという方法が一般的だろう。
①材質が何か(木、陶磁器、金属、プラスチック、布etc.
②材料の性質(多孔質で接着剤がしみこみやすいなど)
③接着された後にさらされる環境(屋外か屋内か、耐水性が必要か?)
④硬化まで待てるか?
などを総合的かつ俯瞰的に(笑)考えて行こう。

④の硬化時間は、かなり注目度の高い項目なのだが、おなじみの「瞬間接着剤」はじゃあ、どんなシーンでも使えるかというとそうではない。
機械的強度が求められる場所には、あまりお勧めできないのである。
確かに、有機物やプラスチック(一部不適なものもあるが)同士の接着には「瞬間接着剤」でも実用強度がある。
金属を瞬間接着剤で接着して力士をぶら下げるというコマーシャルがあったが、引張強度には確かに強い。
ただ、あの接着部分を横からハンマーで叩くと容易に破壊されてしまうのだが、そこはコマーシャルでは一切触れられていない。
つまり瞬間接着剤は衝撃に弱いのである。特に金属同士の研磨面に瞬間接着剤を塗布して、くっつけても、硬化した瞬間接着剤は衝撃でガラスのように破壊されるからである。
金属と瞬間接着剤は堅固に固着しているのにである。
引張強度もせん断にも強いとなると、硬化した接着剤自体の応力が問われる。
接着剤は、接着面と接着剤本体の総合力で効果を発揮するものだからだ。
「チューインガム」や「とりもち」のようにいつまでもねばねばした物質は接着しても、耐久性がないだろう。
優秀な接着剤は必ず「硬化」するものでなくてはならない。
「硬化」には「乾燥」と「重合」という二つの側面がある。
溶剤に溶かした樹脂成分(高分子化合物)の溶液が接着剤によく用いられる。
セメダインやフエキ糊がそうだ。
セメダインは、高分子化合物をシンナーに溶かしたもので、フエキ糊はでんぷんを水に溶かしたものだ。
また「木工ボンド」という乳液状のものも存在する。
これは高分子化合物が水に溶解しておらず、牛乳のごとく分散しているのである。
これらは乾かすことによって、接着力を発揮する。
乾くと、固形分である高分子化合物がフィルム化して「凝集力」という内部応力を蓄える。
さらに接着面では「分子間力」や「水素結合」が粘着力として直接働く。
接着は凝集力と粘着力の総合力で発揮されるのだった。

瞬間接着剤や無溶剤一液接着剤(セメダインスーパーXやバスコークなど)および二液性エポキシ系接着剤は、これまで挙げたものとは性質が異なる。
一つの特徴は接着剤成分100%でできていて、無溶剤であることだ。
瞬間接着剤はα-シアノアクリレートというアクリル系モノマーであり、空気中の水分を吸収して瞬時に「重合」という化学反応を起こして高分子化して硬化(固まる)するのである。
無溶剤一液接着剤もやはり重合性のモノマーやオリゴマー(低分子の重合体で活性を残してある)で、空気中の水分を吸収して「重合」が始まり、高分子化して硬化するが、瞬間接着剤ほど硬化時間は早くないので施工しやすく、固まったものもゴム弾性があったりしてせん断応力に優れる。

瞬間接着剤も無溶剤一液接着剤も水分を嫌う。
使いさしはジプロックに乾燥剤とともに封じ、冷蔵庫に仕舞うことが勧められているが、一つ気をつけてほしい点は、冷蔵庫から出してすぐに使うと空気中の水分を呼んで結露することがあると、硬化が始まってしまうことだ。
よって、使う前に室温に戻してから、ジプロックを開封してほしい。
私の冷蔵庫には食材と接着剤、ウレタンモノマーなどの薬剤が共存している。
ジプロックに入れているので、モノマー臭や溶剤臭はしていない(?)はずだが…かなりやばい冷蔵庫になっている。


二液性のエポキシ系接着剤は、とても歴史の古い強力な接着剤で、主剤と硬化剤が別々のチューブに入っていて、両者を等量混ぜ合わせて使うもので、模型工作や木工、修繕に一度は使ったことがある人が多いのではないだろうか?
硬化時間が長いのが主流で、一昼夜置かないと実用強度に達しないものが多いが、最近は三十分程度で硬化するものや、せいぜい数時間で実用強度に達する使いやすいものも存在する。
エポキシ系は主剤(プレポリマー)にエポキシ基という化学種を付加させてあり、これは不安定な環状エーテル構造で、アミノ基などのアルカリ性有機物で容易に開環して「架橋」反応を起こすのである。
つまりアミノ基を複数持つポリマー鎖を硬化剤として混ぜ込めば、容易に主剤と硬化剤の高分子が架橋付加して強固な固形物(高分子)を形成するのである。
似たような硬化方法でポリウレタンなどにも二液型が存在する(私が開発研究しているのはこれである)。

応力のかからない部分、装飾的な部分の補修には瞬間接着剤が有用だろう。
応力がかかり、可撓性(かとうせい)や靭性(じんせい)が必要な部分の接着には無溶剤一液接着剤か二液エポキシ系接着剤を選ぶがよい。
応力がかかり、強固な固定が必要ならば迷わず二液エポキシ系接着剤を選ぼう。

では難接着部材にはどうすればいいのだろうか?
ポリエチレンやポリプロピレン(PE、PP)は難接着部材として知られる。
またシリコーン樹脂、含フッ素樹脂は接着剤が、そもそもつかない。
PE,PPには表面の化学状態を変える「フラックス」という薬液を塗ってから接着するとうまくいく場合がある。
フラックスは、使う接着剤と相手によってその内容が異なるので、使用説明書を熟読して判断してほしい。
シリコーン樹脂や含フッ素樹脂にもフラックスが存在する。
また接着剤にシリコーン基を導入してシリコーン樹脂への親和性を持たせて接着力向上を図ったものも開発されている。

接着面を物理的に改良することも必要な場合がある。
接着面は、常に汚染のないこと。
金属なら、さびは落とし、油分は脱脂しておかねばならない。
接着面は滑らかな方がくっつきやすいということもあるが、一概には言えない。
やすりなどで荒らして、凹凸をつけて接着面を増やすこともありうる。
また多孔質な面では接着剤が吸収されて表面から消えてしまうので、まったく接着しないということもあるので陶磁器や木材などはある程度接着剤を吸わせて硬化させ、二度目で本格的に接着させる工夫も必要である。
その場合、含侵させた材料側をサンドペーパーで表面を荒らすこともしたいので、硬い目の接着剤を含侵させるなど接着剤の使い分けもできればしたいものだ。

接着剤の塗り方だが、面接着が基本なので、面にたっぷり接着剤を乗せ、貼り合わせて脇からはみ出るくらいにして内部に気泡を作らないようにしたい。
はみ出た接着剤はきれいに拭きとること。
プラモデルなどの「美観」が何より大事で、強度がほとんどいらない場合には「はみ出し」はタブーなので、臨機応変に接着剤を使おう。
プラモデルでは「けちけち」ボンドを使う「ケチボンド」法がモデラーの間では常識だ。

番外だが、両面テープも最近は強力なものが出ており、単なる事務用品として使うのにはもったいない。
私の仕事で、回転研磨機(回転砥石)の上に、水ペーパーを貼り付けて水を流しながらステンレス部品を磨く工程があり、その場合の水ペーパー(サンドペーパー)を回転盤に貼り付けるのには両面テープを使っている。
耐水性があり、重宝するのだ。

水回りの修繕にはアサヒペンのダックテープ(現パワーテープ)がいい。
非常に強力な幅広テープで、ガムテープのように手軽に使える。
呉工業が輸入している「ゴリラテープ」もアメリカでは子供でも知っている家庭用品だ。
やはり屋外に強いテープである。

風呂場などのコーキングにはセメダインのバスコークをみなさん使われると思うが、チューブのものよりもコーキングガンを使う大きい方をお勧めする。
コーキング作業にはコーキングガンを使う方がきれいに仕上がるからだ。
ガン自体も安いものだ。
マスキングテープも忘れずに。そして硬化前にマスキングテープを外すのも忘れてはいけない。
硬化後にマスキングテープを外すと、せっかくのコーキング材もテープと一緒にはがれてしまうからだ。
バスコークがたくさん残っても、しばらく置いておき、最終的には捨てるほかない。
次に使う予定がよほど近くないと、中身は固まってしまうだろう。
世の中そんなに甘くないのだ。