大学にも慣れた、五月下旬の日曜日だった。
その日は、かなり暑く、風呂に行くのも面倒だったので、「玉藻荘」の奥の洗面所で体を拭いていた。
すると、気が付かなかったのだが、女子トイレから「Tokiko」がタンクトップと例のサングラス姿で出てきたのである。
おれは、上半身をさらして、いささか気まずい顔をしていただろう。
Tokikoはおれの体に一瞥をくれて、隣で手を洗う。
そして、
「あんた、ええ体してるやん」と一言、述べた。
前の鏡越しに、おれを見ながら…
「はぁ、ありがとうございます」「ふふっ。そや、ちょこっとモデルになってくれへん?」
Tokikoが振り向いて、腰にぶら下げたタオルで手を拭きながら言う。
「おれがですか?」
「そうよ。男の子のモデルってなかなかいいひんのよ」
Tokikoは、美術専門学校の生徒なのだった。どうやら、課題が出ていて、デッサンとやららしい。
「ヌードデッサンもやるんやけど、それはみんなモデルが女なのよ」
「はぁ…」
おれは、要領を得ない顔で脱いでいたTシャツを被る。
「来て」「今ですか?」「予定あんの?」「いや、何もないですけど」
余りの急な展開に、おれは戸惑っていた。なにしろ「モデル」である。

Tokikoの部屋に連れて行かれると、そこはまた別世界だった。
彼女は部屋の中ではサングラスを取るらしい。その目は、なかなか魅力的だった。
黒々とした長い髪を大きな鼈甲(べっこう)のような髪留めで束ね、その毛足を胸元に垂らすのがTokikoのスタイルらしい。
絵の具の香りだろうか、塗料のような匂いがかすかにする。
窓際には、カンバスが何枚か立てかけてあったが、鉛筆で下書きのようなものが描かれているだけで、彩色はされていなかった。
どうやら、街並みと人物を描いてあるようだった。
「ここに座ってもらおうか、いや、いっそ、脱いで、立ってくれる?」と遠慮もなしに命じるのだった。
「ぬ、脱ぐの?」
おれは、訊き返した。
「脱いでほしいなぁ。あかん?」
その懇願するような顔は、有無を言わせない芯の強さが含まれていた。
すでに、加藤和美の前で裸はさらしている。そんなに抵抗はなかった。
「ええ体してるもん。自信もって。ほら」
そう言われると、やらないでもない気になるおれだった。女におだてられると弱いのである。
Tシャツを脱いで、仁王立ちになる。
「ふふふ。下も」
Tokikoは、いやらしく笑って、迫る。
「素っ裸ですか?」「戸は閉めとくし」
そう言って、Tokikoが建付けの悪いはずのドアを無理に引いてしっかり閉めた。
おれは観念して、ズボンのベルトを外し、ズボンと一緒にパンツも下ろした。
うなだれた、なさけないペニスが陰毛の中で縮こまっている。
「へぇ、体の割には、かいらしいんやね」
おれは、恥ずかしさのあまり、手で隠す。
しげしげと点検するようにおれの周りを回ってTokikoが観察している。部屋はむっとして暑かった。
「じゃあさ、そのシンボルをおっきくしてくれへん?」
おれの股間をTokikoが指さして、歯を剥くような笑顔で言うのだった。
「えーっ。一体、なんのモデルですねん?」
「男の裸体よ。もちろん」
「それやったら、別にちんこ立たせる必要ありますかぁ」
「それこそが、男やん。あたしはそれを描きたい」
「まずいですって、そんなもん、課題にならへんでしょ」
「ならへんよ。その部分は課題には描かへんけど、手元に置いとくの」
Tokikoが一体何を考えているのか、おれは量りかねた。
「立ちません。そんな」
おれは泣きそうになって言った。
「しゃあないなぁ」
そういうと、おれの前に跪いてしぼんだペニスを手に取り、皮を剥いた。
おれは普段、仮性包茎なのだ。
Tokikoの手の中で、息子はむくむくとみなぎり始めた。
「あんた、加藤さんと寝たやろ?」
「何のことです?」おれはとぼけたが、あの日のことを知られているようだった。
「隠さんでええやん。加藤さんって、風俗出身らしいから、ああいうこと平気でしはんねん」
「そ、そうですか」
「あたしもしたげよか?」
願ってもないことだった。このサイケなすらりとした女を抱けるのなら…
「トキコさんは、そういうこと普通にするんですか」
「なにをよ。セックス?」
「そ、そうです」
もう、おれのチンコはがちがちに立ち上がっていた。
「すっごいな、あんたの。太(ふと)ない?」
「太いかもしれません。太短いです」
「あたしも、何人か経験あるけど、太い方やと思うわ。長さは、普通やね。自信もってええわ」
そう言いつつ、しこしことしごいてくれる。
もうへそにつきそうなくらいに勃起していた。
「この状態で、ちょっと描かして」
Tokikoはスケッチブックを出してきて、目の前で鉛筆を走らせた。
ささっと、しかし、リアルに描いていく。
その間もおれの勃起は持続してくれた。
「この、カリっていうのかな、張ってるとこがそそるよねぇ」
「そうですか」
「いややわぁ、しずくが湧いてきたわ。興奮してんの?」
「し、してますっ」
「びくんびくんしてる。テカテカやん。顔が映るくらいやで。やらしー」
「そんなん、言わんといてください」
ものの数分で、勃起ペニスの三面図のようなものを彼女は描き上げたのである。
「はい、ごくろうさん。ほな、しよか?」
「するって?」
「なに言うてんの。セックスするんやろ?」「はい?」
「あたしかって、壁越しにあんなん聞かされたらたまらんやん」
とろんとした目で、裸のおれにまとわりついてきた。
パタリとスケッチブックが落ちた。
彼女の右手がおれの勃起を握っている。
「熱いわぁ」
「やばいですって」
「なぁにが?」
「そんなにこねくり回されたら、出してしまいますよ」
「出したらええやん。ほらほら」
「出てしもたら、できませんやん」
「そうかぁ…そら我慢してもらわんとなぁ」
いったんTokikoは離れて、脱ぎだした。
タンクトップのシャツの下はノーブラで、形のいいバストがプリンのように震えている。
乳暈が黒い。乳首が円柱のように角張っていた。
それに腋の毛を処理していないらしく、渦を巻いたように腋窩を飾っている。
ショーツが取られ、薄い陰毛の下に裂け目があった。
和美のようにふっくらとした大陰唇ではなく、痩せているせいか、小陰唇が大きくはみ出している。
「どう?加藤さんよりは細いでしょ」
「そ、そうですね」
「痩せてるから、恥ずかしいねん」
「そんなことないですよ。魅力的だなぁ」
おれは精一杯、世辞を使った。
「胸なんか、可愛らしいし」「そうお?ここでする?」
畳の上だった。蒲団らしいものはないらしい。
体育座りでTokikoが誘う。
ぱっくりと膣が開いている。足の間におれが入る。
「さ、さわってもええですか?」「どぞ」
その蒸れて匂い立つ谷間に指を這わせた。
「ああん、ちょっと、感じるやん」
「こんなんで?」
指先をすこし押し込んだだけなのに、甘い声を彼女が発する。
とろとろと浸潤してくる液体で、おれの指先はかぶれそうだった。
「もっと、もっと、お願い…」
Tokikoの両脚が大きく開かれ、膣に指をもっと差し込めと命じる。
かき回すようにおれは遠慮しなかった。もう指の第二関節まで、それも二本入ってしまっている。
「うぎゅうっ、くうっ!」
喉でむせぶような声を上げ、Tokikoの脚がおれを挟む。
彼女の胎内は、指が抜けないほど締め付ける。
ざらつく内部にもしペニスを入れたら最高に気持ちいいだろうと想像させた。
洗っていない陰部の匂いが指先に移ってかなりきつかった。
おれも興奮している。
「コンドームとかないですよね」
「いいよ。外に出してくれたら」
「そうですか。ナマでしてもらえるなんて、トキコさんが最初です」
「そう、あの人とはコンドームセックスやったん…じゃ、あたしがほんまの童貞をもらえるんや」
「うれしいです」
おれは、ゆっくりと正常位でかぶさっていった。
先端がもぐりこむ。
「うはっ、おっきいっ」Tokikoが叫ぶ。
「痛いですか?」「ちょっとね。あんたのごっついわ。いままでの男の中で一番やわ」
そう言われるとうれしかった。
Tokikoの中はしばらくして緩み始め、おれを根元まで呑み込んでいる。
密着させながら、キスを求めた。
Tokikoとのキスの味はたばこの味だった。
和美は水商売なのに、たばこを吸わない人だった。
和美に教わったのだが、激しいピストンよりも押し付けるように動くのがいいらしい。
おれはただ、押しに押して、Tokikoを逝かせた。
「ああん、そんなに突いたら、逝ってまう」
「逝ってください」
「久しぶりに、膣逝きしたわ」と涙目でTokikoが言った。
「いっつもはどんな逝き方なんです?」
「たいていはクリ逝きやなぁ。オナニーと変わらへん。逝かんときもあるもん」
「そういうときはどうするんです?」
「逝ったふりするねん。そうしんと失礼やろ?」
「今は、ふりですか?」
「ううん。ほんまに逝った。うそやない」
「もっと突きますよ」「うん」
おれは、自信を得てTokikoの細い体を抱き寄せ、腰を入れた。
「あぐ」
「あはぁ、はぁ」
二人の体臭で部屋は蒸し風呂状態だった。
汗で畳は滑り、互いの体も滑った。

「う、うしろから…突いてっ!」
おれは、Tokikoを裏返し、尻肉を割って、鋼のようなペニスを打ち込んだ。
「きゃぁ」
「どうです?」「いい。すっごい、いいっ!」
濡れそぼった、膣口から泡を噛んだ粘液が白くしたたっている。
おれの太目のペニスで痛々しいほど、Tokikoの粘膜が押し広がっていた。
Tokikoの方から尻を押し付けてきて、おれが運動を止めても、むさぼるように腰を動かしてくる。
「はぁっ、ひいっ。抜いたらあかん!ダメダメだめぇ」
「そんなにええですか?」
「ええもなにも、こんなん初めてぇ!」
ぬち、ぬち、ぶじゅ、ぶじゅといやらしい音を立てながら、二人はつながっていた。
しまいにはおれの上でTokikoが腰を振っている。
おれは彼女の乳首を噛み、その腋の下の匂い立つヘアを口に入れる。
うまうまうま…
甘い汗が口内に垂れこみ、香ばしい匂いが鼻に抜けた。
対面座位のままおれは抜くことも忘れて放ってしまった。
ずぴゅ…

「ああ、トキコさん、出たぁ」「え?中に出したん?」「うん」「こらぁ、あかん言うたやろ!」
Tokikoは慌てて離れて、とんとんと飛んだ。
おれの出した精液が塊になって、陰裂から流れ出したのだった。
「危ない日ですか?ごめんなさい」
「ううん、どうかなぁ。あたし不順やから…そや、あんた、炭酸水かキリンレモンでええから買うてきてくれへん?」
「なにするんですか?」
「洗うねん。炭酸水を振ってね、瓶の口をおめこに差し込んでぶしゅーってやったら洗い流せるんや」
おれはそそくさと身支度をして表に出た。
「缶とちゃうで!瓶のやつ買うてくんのよ!」と声が追いかけてくる。「わかってるって!」と返事した。
向かいの三軒向こうに酒屋があったはずだった。
そこで「スプライト」を買ってTokikoの部屋に戻った。
「これでええですか?」
「うん、それでもええよ」
そういうと、外の便所に走っていったのである。
この方法は、コカ・コーラなどで世界中でおこなわれているそうだ。
(つづく)