ピーター・ボイセン・イェンセン(1883~1959:デンマーク)は光に向かって植物が向きを変えて伸びていく様子を見て、そのメカニズムを解析しようとした。
今では「屈光性(くっこうせい)」として高校の生物の時間に必ず習う現象だ。
植物には「屈光性」以外にも、茎が重力に逆らう伸び方をする「負の屈地性」と、根が重力に従う伸び方をする「正の屈地性」などがある。
そういう観察は、我々も経験するが、なぜそうなるのかと掘り下げたのがイェンセンだった。

彼は、こう考えた。
植物の茎(芽)が光の射す方向に曲がるのは、光から遠い方の細胞が良く成長し、光に近い方の細胞の成長が抑制されるからではないだろうか?と。
ガラス管や金属管を「エルボ(肘型)」に曲げるとき、肉厚が内側より外側のほうがたくさん伸びて薄くなっているはずだ。
そういうことが植物の細胞の成長に起こっているのではないだろうかという推論である。
そしてそれがおこるためには、何らかの化学物質が作用しているに違いないとまでイェンセンは考えたのだった。

彼は、その「化学物質」が細胞の成長因子だと考え、その流れを遮断してみることにした。
エンバク(燕麦)の萌芽を使い、これに光を当てると、光の方に屈光性を示すことを確認し、つぎにこの萌芽の光から遠い方になる部分に雲母の薄片を差し込んで、光を当ててみた。
すると、予想通りに萌芽は屈光性を示さなくなったのだ。
つまり、光から遠い側の細胞への成長因子が雲母によって遮断されたために成長できず、曲がれなかったという結論に達したのである。

この「成長因子」についてはイェンセンはその姿を突きとめることができなかったが、のちに、フリッツ・ウォルモルト・ウェント(1903~1990:オランダ)によって「オーキシン」として明らかにされることになる。
こんにちでは「オーキシン」が単一の物質ではなく、何種類かあることがわかっている。
「オーキシン」として最初に構造が明らかになったのが「3-インドール酢酸」である。
「オーキシン」は「植物成長ホルモン」と広いくくりで呼ばれるようになった。
そのなかには「種なしブドウ」にする成分、「ジベレリン誘導体」も含まれる。

屈光性の作用は、3-インドール酢酸によるものであり、この物質は光の当たらない部分で濃度が高まるという性質がある。
植物が日当たりが悪いところで育つと「徒長」といって、ひょろひょろと背が高くなる現象を起こすが、これもインドール酢酸の影響であることがわかっている。
つまり植物が光を求めて背を高くするには、細胞壁を作っているセルロースの分解を高めて細胞が成長しやすくせねばならない。
その作用をインドール酢酸が担っているのである。
光が不足すると、植物は光合成の効率を上げるために高くならねばならず、そのためにインドール酢酸を分泌して細胞の成長を促すのである。
屈光性も全く同じ理屈である。

ピーター・ボイセン・イェンセンの発想はすばらしい。
これこそが、科学者の姿勢だと思う。
彼の、簡単な実験によって、植物の成長の謎が氷解し、農業や園芸に長足の進歩を遂げさせたのだった。
先週の土曜日、11月21日はイェンセンの命日だった。