今年は丑年なのに、塾の小学生から「犬」という漢字について訊かれた。
つまりあの「`」(てん)はいったい何んだ?というのだった。

実は、私も書道を習っていたときに、師範に同じことを尋ねたことがあった。
あれは私がハイティーンのころだったから、この質問者の少女は、お若いのに実によく気が付いたと思う。

「これはな、私が訊いたところでは、象形文字から来てるんよ」
「しょうけいもじ?」
「うん。つまり、漢字はそのむかし、絵文字やったんや」
「それは習ったよ。でも犬ってどんな絵ぇやったんやろ」
私は漢和辞典を教室の棚から取り出した。
こういうものは中国の『説文解字(せつもんかいじ)』という古典に載っているんだが、「犬」のようなポピュラーな漢字なら、普通の学習用漢和辞典でも象形(甲骨)→大篆→小篆→隷書の変遷が載っているはずだった。
「ほら、ここ」
しかし、まあ、これを見てもあの「`」がいったい犬のどのあたりになるのやらわからないだろう。
私は仕方がないので、師範に教えてもらったことを思い出して、ヘタな絵をホワイトボードに書いて説明した。
「あのね、犬はね、横から見た絵やったの」
私は線描で、犬が立っている姿を描き、顔は逆さの長細い三角にしてその上辺の両角に一本ずつ線を伸ばして耳にした。
「この絵がね、だんだん縦に描かれるようになって…」
「なんか、変…」
「まぁ、待ちぃな」
顔も横向きで、耳を強調する。
「これ、耳やねんけど、この耳は犬の顔を横から見てるわけやから、一個でええやろ」
「うん。まぁ」
少女は、いちおう納得してくれたようだ。
「この耳が、あの`(てん)になったってわけ」
「ほんまにぃ?」
「私が習ったのはそうなのよ。ほかにも説があるかもしれんけど」
「ふぅん」
実は、はっきりと「耳」が「`」になったという文献を私は知らないのだ。
まったくの師範からの受け売りなのである。

「太」の「`」は、省略の「`」であるらしいことも師範に習った。
元は「泰」の字で、この字の画数が多いので「太」と簡略化されたのだと教えられた。

「犬」で思い出したが、「器」という漢字がある。
この「うつわ」という漢字は、旧字体では真ん中は「大」ではなく「犬」だった。
これは「口」が四つと「犬」を合わせて作られた文字(会意文字)で、「口」が四つで「たくさんの種類の入れ物(容器)を現し、それだけでは足らず「犬」を真ん中に加えたのは、「犬」が「種類が多いものの代表格」だったからだというのだ。
なんとも、深い意味があるのだなぁと、私は師範の話に感心したものだった。

点のあるなしで、漢字はいろいろな意味を持つのである。
「丼」の「`」にも何かいわれがあるのかもしれない。
皆さんで、お調べになってください。