ノーベル生理学医学賞を受賞された本庶佑(ほんじょたすく)先生と、そのアイデアを生かしたがん治療薬「オブジーボ」を製造販売している小野薬品工業との間で、本庶先生に対して特許使用料が異常に低く支払われていたことが争われています。
裁判の行方を見守るとして、薬価は「高い」印象がありますね。
医薬品メーカーは医薬の開発に莫大な費用を投じており、その回収が経営を左右します。
ゆえに新薬の価格は、庶民の感覚からかけ離れた値段になってしまうのでしょう。

昔から「薬九層倍(くすりくそうばい)」と言われ、薬は暴利をむさぼっている典型とされていました。
モノの値段は売り手が決めるもので、仕入れ原価に利潤を乗せて商売は成り立っています。
売価の決め方を江戸時代の人は以下のように言い慣わしていたそうです。
「魚三層倍、呉服五層倍、花八層倍、薬九層倍」と言われていました。
単に語呂合わせでこう言われていたのだとも思われますが、あながち間違ってはいないと伝えられています。
「層倍」とは「倍」の強調表現だそうで、意味は同じですが、和算とか江戸の商習慣では「倍」は「1倍」のことで現代の「2倍」になるようです。すなわち「2倍」は「3倍」なのです(「人一倍努力」説)。
すると「九層倍」とは、実は原価の十倍の売値になります。
原価に「九層倍」を足した価格になりますから、たとえば十文の薬の価格は百文で売られることになるんですね。
これは「粗利(あらり)」の計算法です。
もちろん、異説もあって、「九層倍は原価の九倍で売ること」だから十文の薬は九十文で売ることを言っているのだとし、それなら原価の単に九倍だと取れます(我々には妥当な意味)。

よく似た問題で、300円の品物を200%増しで売ったらその売価は600円かそれとも900円なのかというものです。
もし600円の売価になるというのならそれは100%増しの値段です。
200%増しなら元の売値の三倍にならなくてはなりませんから900円が正解です。

「薬九層倍」には「語呂合わせ説で数字に意味はない」とか「そのまま原価の九倍で売る」または「原価にその九倍を足して売る…つまり粗利計算」であるという説などいろいろ言われています。

薬に関しては原価の九倍で売ろうが、十倍で売ろうが、もはや買う方としてはすでに「高い」のです。
薬屋「丸儲け」の状態だったのです。人の弱みにつけ込んでいるんですね。

「薬九層倍」には続きがあって「お寺の坊主は丸儲け」と続くらしいです。
「坊主丸儲け」だけが独り歩きして、お寺さんを揶揄する言葉になって残っているのが面白いですね。