私は仕事で液体窒素を使うことがあり、その液体窒素(-196℃)を保存するにはデュワー瓶という魔法瓶を使う。
ステンレス製のものが一般的で、携帯ポットの「サーモス」と構造は同じである。
中空のステンレスで囲った入れ物である。
中空のすき間は真空になっていて、対流による熱の伝導ができないようになっている。
それでも輻射による熱のロスは防げないが、かなり長い間、内温を保ってくれる。

ここで輻射のことがでてきたが、熱の移動には、
①輻射(放射)
②対流(気体・液体)
③伝導(固体)
の、三つが考えられる。

「サーモス」などは、②を防いで保温性を高めているが、これからお話するデュワー瓶はさらに①の輻射による熱の移動を防いでいるのだった。
どのようにしてそのようなことができるかというと、私より年配の方は、昔の魔法瓶がガラスでできていて、そのガラスも鏡になっていたことを覚えていらっしゃるかもしれない。
そう、鏡にすると輻射が防げるのである。

鏡は、全反射するから、映った景色が鮮明に私たちに見えるのだった。
可視光でさえ全反射するのだから、紫外線や赤外線(熱線)も全反射するはずである。
鏡が全反射するということは、鏡の裏にはいかなる光も透過していないということになる。
つまり熱線でさえも、鏡の裏には透過しない。
これが、魔法瓶の内部に鏡で囲った理由である。
つまり、鏡に囲まれた空間に閉じ込められた熱源(飲み物など)から発せられる熱線は、魔法瓶の中を全反射させられ、魔法瓶の外へは出られないから、保温できるのである。
もっとも、理想的にはそうであるが、実際は、構造物への伝導により外へ熱は徐々に逃げるから、魔法瓶と言えどもしまいには冷えてしまうのだった。
※私たちが得られる鏡の反射率はだいたい9割反射が最高であり、完全反射ではないから熱のロスを防げない。また真空と言っても、完全な真空は無理で少し気体が残るから対流もある。

デュワー瓶は、ガラスで真空の壁を作り、そのガラスも鏡にして対流と輻射の熱の移動を最小限に抑えた優れものなのであった。

ジェイムズ・デュワー(1842~1923,イギリス)が考案した魔法瓶は、すぐに世界に広まった(サーモス社が商品化し現在に至る)。

デュワーは低温物理の専門家でもあり、気体の液化によって水素の液化に成功した。

気体の液化には「ジュール・トムソン効果」が利用される。
これは「気体を断熱膨張させると温度が下がる」もしくは「気体を断熱圧縮すると温度が上がる」というものである。
「断熱膨張」や「断熱圧縮」の「断熱」とは「外から温めたり、冷やしたりできない状態で~」という意味である。
つまり、注射器に空気を吸い込ませて、注射器の先端の口を閉じてピストンを引くと「断熱膨張」であり、ピストンを押すと「断熱圧縮」である。ただし、注射器全体を室温になじませておき、熱の、外からの供給(出入り)はないようにする。

精密に実験すると、上の注射器の例ではピストンを引いた時、注射器内部の空気は容積が大きくなるが同時に温度が下がるのである。これが断熱膨張であり、この原理を利用して、低温を作り出すことができるのであった。
冷蔵庫やエアコンの冷房はまったくこの方法で冷気を作っている。
(もちろん断熱圧縮を用いれば暖房にも使え、ヒートポンプはそうやっている)

液体が蒸発するとき気化熱(蒸発潜熱)を奪うので、冷たく感じるだろう。
熱に注目すると、「気化熱を奪って気体になる」と表現されるが、熱力学的には「断熱膨張」によって液体分子が空気中に(真空中に)飛び出すとき熱が下がると表現できる。

反対に「断熱圧縮」によって気象で言う「フェーン現象」が起こる。
山の反対側で雨を降らせ、乾燥した空気が山を越えて反対側に吹き下ろすとき、大気圧で圧縮されるから気温が急激に上がり、山火事を起こすほどになる現象だ。

デュワー瓶から話題が反れたが、輻射や反射を調理に利用できないだろうか?
この季節、焼き芋がおいしい。
家庭のグリルで、焼き芋を作る場合、アルミホイルに芋を包むだろう。
そのアルミホイルに鏡面側と鈍いくすんだ面があり、どちらが表だ?とかどちらを使うかという話題は昔からある。
アルミホイルの業界ではアルミホイルに表裏はなく、どちらを好みで使っていただいていいとしている。
アルミホイル製造時に、ローラー圧延をかけるのだが、昔はどちらも鏡面だったそうだ。
それは鏡面加工したローラーを上下から押して圧延していたからだが、こんにち、より薄いアルミホイルが望まれ、従来法ではアルミホイルが破れやすく歩留まりが悪くなった。
そこでアルミ原板を二枚重ねてローラー圧延することで機械的強度を上げて厚みを稼ぎつつ、製品一枚は薄くできるという改良が加えられ、一工程で二枚分取れるようになって現在に至っているそうだ。
すると、鏡面ローラーに当たる部分は鏡面であるが、アルミホイル同士が向かい合っている面が、くすんだ面になるのは致し方ないということである。

そこで、この鏡面を積極的に調理に活かすのである。
アルミホイルの鏡面側を内側にして芋を包み、グリルで焼くと、アルミホイルの内側の熱線は鏡面で閉じ込められ、反射しながら芋を何度も通過して芋を内部からじっくり焼いていくだろう予測した。
まさにデュワー瓶が熱を外に逃がさないという原理をアルミホイルに応用してみたのである。

ところが、アルミホイルは薄く、デュワー瓶のように真空層もないので、熱伝導のほうが強く出て、くすんだ側で芋を包んだ場合と大きな差にはならなかった。ひいき目に見て、すこしだけ鏡面側包みのほうに甘さが出ていたように感じた。
まさに科学はやってみなければわからないものだ。