こうしてね、親の遺した古い本を片付けながら物思いにふけっていると、「あたしは、ずいぶん古い漢字に悩まされたなぁ」と振り返る。
河童ものがたり

小学生で、アマチュア無線技士国家試験の「難読漢字」にまず悩まされ、中学生になって、書道塾で「旧字体」に出会ったころ、父の蔵書に『河童ものがたり』(火野葦平)があり、また『ヂッケンス物語集』(中央公論社)があり、それらを手に取りだした頃で、当然旧字体でで書かれているから、父に訊きながら読んだ覚えがある。
※ちなみに「ヂッケンス」とは「チャールズ・ディケンズ」のことである。昭和初期にはこのようにカナ書きされていたようだ。

もちろん「戦記物」をプラモファンとしては図書館で借りたりすると、古い新聞記事にも出会うので漢字の旧字体(台湾では今も「繁体」漢字として使われている)を覚えなくては意味がつかめない。

高校時代には一通りの旧字体の漢字を読めるようになっていて、友人から不思議がられたものだ。
一口に「旧字体」と言っても、書道師範から訊いた話だが、「国」という漢字の旧字体は「國」だとされるが、江戸時代の書物では「国」と「國」が共存していたらしいし、「水戸光圀」の「圀」という異体字(武則天が考えた則天文字)もあるし、「邦楽」の「邦」も「くに」と読ませるほど複雑なのだった。

私が、特に旧字体(日本での異体字を含む)で、今の文字とは「別物」と思った感じは以下の通りである。なお異体字の場合は、正字も同時代に共存している。

医→醫
鉄→鐵、鉃(金を失うことを嫌って作られた異体字)
声→聲
旧→舊
広→廣
圧→壓
庁→廰
与→與
写→冩
予→豫
体→體
伝→傳
摂→攝
芸→藝
乱→亂
斎→齋
実→實
弁→辨
桜→櫻
胆→膽
党→黨
尽→盡
発→發
画→畫
図→圖
囲→圍
関→關
函→凾
台→臺
湾→灣
変→變
辺→邊
径→徑
学→學
売→賣
価→價
円→圓
応→應
挙→擧
※円山応挙→圓山應擧
まあ、ざっとこんなものか。
書けと言われたら、ちょっと怪しいが、読めることは読める。
書道では原則、旧字体で書くことになっているが、もちろん新字体で書いて構わない。
俳句や短歌の世界では、歴史的仮名遣いと旧字体にこだわる作家もいるので、好き好きである。

ただし、鑑賞する者や読み手はそれを知っておかないと楽しめないのである。