K氏は夢を見た。

そこは砂丘だった。
おそらく寝る前に読んだ安部公房の『砂の女』が影響しているのだろう。
彼は少女を伴っていた。
あの白痴の少女だった。
屈託のない彼女は、終始、笑顔を絶やさないけれども、何もしゃべらない。
ただK氏に手を引かれて、さらさらとした白砂の上を当てどなく歩くのが楽しいらしい。
K氏は少女の声も聞いたことがないし、名前すら知らないのである。

空はどこまでも青く、一朶(いちだ)の雲もないのだった。
白金(プラチナ)のような陽光に包まれ、眼下の海岸はどこまでも白く、青海は鱗を立てていた。

二人は麻の貫頭衣(かんとうい)をつけて、粗末な縄で腰を縛り、獣皮の足袋(たび)を履いていた。
K氏は、半丈(約150cm)ほどの槍を手にしていた。槍の穂先は石鏃(せきぞく)が瀝青(れきせい=タール)で固定されていた。

二人はまろぶように、海岸へ砂丘を降りていった。
少女は足を砂に取られ、頭から突っ伏した。
「だいじょうぶかい?」
「あい…」
砂だらけの笑顔が愛らしかった。
思わずK氏は少女を抱きしめた。
「ふふふ」
少女は、何がおかしいのか、抱かれて声を上げて笑った。
波の音しかしない海岸で、少女の声はよく響いた。
海の向こうが、青い壁のように感じられ、この空間が限られているように見えた。
そう思うと、太陽と思っていた天体は、電球のようにも思えてきた。

K氏と少女は畳の部屋に場所を移していた。
夢では往々にしてよくある展開だった。
そこはK氏の四畳半に相違なかった。
少女と抱き合いながら、せんべい布団の上にいた。
K氏の高まりは少女の陰裂に当たっている。
少女のそこは濡れて、K氏を滑らせていた。
「ああ、いいのか?」
「ひひひ」
「入れちゃうぞ」
「あひひひ」
ぬるりとどこかに入る感触を得て、K氏は心臓が張り裂けるくらいに興奮している。
自分の鼓動が、外の音を遮断するほど大きく響いている。
K氏は布団と戯れながら、自身は少女と絡み合っているのである。
「うぐ…」
K氏が痙攣している。
布団の中に射精したらしい。

もう目覚めていた。
呆けたような顔で、K氏は布団から離れ、たったいま脳裏にこびりついている夢の破片を拾い集めていた。
股間がひんやりとして、強烈な匂いを発していた。
(おしまい)