今日の妄想・・・

あたしは、前日に陸攻隊員と寝て秘密を聞き出し、彼を薬で眠らせ、彼の飛行服を着て、白布で顔を隠し、目だけを出した。

早朝のラバウルの飛行場。
滑走路に二機の一式陸攻が翼を休めている。
護衛のゼロ戦もそばにあった。

山本五十六連合艦隊司令長官と宇垣纏(うがき まとめ)参謀長が搭乗のために滑走路を歩いてくる。
同行予定の黒島亀人(くろしま かめと)参謀は原因不明の熱を出して臥せっていた。
護衛のゼロ戦を増やせといわれてたのに、長官は断ったらしい。
(何を考えてるんだ?このひと)
外は見送りの兵員で黒山である。

機内は長官とあたしの二人だけだ(なぜか、ほかの搭乗員がいない)。
もう一機の陸攻に宇垣参謀長が乗った。
先にゼロ戦六機がが離陸し、後から私たちが続いた。

尾輪が上がるまでの三点支持状態で滑走するんで前がよく見えない。
※副操縦士がいれば見てくれるんだけど、あたしだけだから滑走路の縁を見ながらまっすぐを確認するほかない。
滑走路の地面がでこぼこなので、かなりバウンドする。
やっと機首が下がり(お尻が上がった)、視界が開けた。
マークが見えたので、スロットルを全開にして操縦桿をゆっくり起こして機首を上げる。
地面から機体が離れた、とたんに振動が無くなった。
脚(きゃく)を仕舞い、上昇を続けた。先発のゼロ戦は上空で周回しながら待っててくれている。

あたしからは、真後ろに長官が座っているので見えない。
「君は、この任務をどこまで知っている?」
最初に口を開いたのは長官だった。

「わたしは、長官の南方視察のお供をして、ブイン基地までお送りするようにと」

「ん?貴様は女か?」
声で、わかったらしいが、もう空の上だ。

「だれの命令で操縦している」
「だれでもいいでしょう。長官も、もう観念されたらいかがですか?」
「なんだと!貴様、すぐに引き返せ、さもないと」
長官は腰の拳銃に手をかけようとした。

「じゃあ、お撃ちになりますか?墜落しますよ。あたしはかまわないが」
しばらく沈黙があった。

「どこまで知っている・・・」
陸攻のエンジンの音でかき消されそうな声で、長官がつぶやいた。
「ハワイ作戦からあたしは気付いてました」
「なんで、貴様のような一兵卒にわかる。いったい何者だ?」
いくぶん、長官の声が大きくなった。

「長官は、対米開戦を直前まで反対された。なのに、真珠湾を攻撃するという説得力に欠ける作戦を強行なさった。ハワイ作戦をミッドウェーより優先させたこと、米内(海軍)大臣と諮って東条大臣をねじ伏せたこと、みんな知ってますよ」
「たわけたことを・・・」
「それに、ルーズベルト大統領と懇意にし、暗号を漏らし、奇襲作戦を表向きは成功させ、米軍に日本への報復の口実を与えた・・・」
※B-25によるドゥーリットル空襲は日本への報復の第一弾だった。

「何を根拠にそんなことを言う」
「フリーメイソンですよ。長官」
長官の顔は見えないが、凍りついた表情をしていたに違いない。

「外患誘致(刑法八十一条)は死刑ですが、長官。あなたこそ売国奴だ。真珠湾にポンコツ戦艦だけを停泊させ、ルーズベルトは体よく日本軍にスクラップにさせて、アメリカ国民も騙したのよ。新鋭空母はみな避難させてね」とあたしは続けた。

「もういい。そこまでわかっているのなら、無駄な弁駁(べんばく)はよそう」
「この視察で、長官はわざと米軍機に撃たれ、墜落を装い、秘密結社の人に助けてもらい、消えようという魂胆でしょう?」

「暗号を解読したのか?」

「ええ、離陸前に無線手のゴミ箱から、長文の覚書を見つけました。こちらの様子もつつぬけでした。ニミッツ提督もグルなんですって?」

「ふん。もうすぐブーゲンビル上空だ、知っての通りP-38が16機こちらに向かう。そうして空戦となる。陸攻はすぐ発火し、操縦不能になり不時着する手はずだ」

「また犠牲者を出すんですか?ついにガダルカナルは撤退です。長官はいつも高みの見物だと揶揄されているのはご存知ですか?」

「聞いているよ。ハワイのときは後方の長門にいた。自分が言い出した作戦なのに、陣頭指揮をとらずにってね。ミッドウェーのときも空母が四隻も沈められてるのに、後方の大和で将棋を指してたとかね。指揮官は安全な場所で大局を伺うものなんだ。君らにはわからん」

「本当のことでしょう?南雲中将一人に押し付けて・・・。山口(多聞)少将は見殺しでしたね。珊瑚海でレキシントンを沈めずに手心を加えさせたとか。どの作戦も、おかしいじゃないですか。とても名将の策とは思えません。自分の作戦が採用されなければ司令を辞めると駄々をこねて、押し切られる・・・」
※レキシントンは結局、爆発炎上し、味方の駆逐艦によって沈没処分させられた。

「言うてくれるな。おれだって、人の子だ。つらかった」

「表面上は仲違いを装っていらした宇垣参謀長もお仲間でしょう?」
「宇垣君と逃げるつもりなんだよ」と小さく言った。
この人がほんとうに連合艦隊司令なのか?
「まだそんなことを言ってるんですね。自分たちだけ助かろうと」
※宇垣は玉音放送の後に、自ら飛行機を駆って沖縄に特攻を企て、米軍のキャンプに突っ込んだというが死体を見た者はいない。かれもフリーメーソンだったために助けられ、どこかで生き延びていたのかもしれない。ここで許せないのは、この特攻を宇垣一人でやらずに道連れを何人か連れていってしまったことだ。

「わたしは、ハーバードに留学して知ったんだ。この世の中の血なまぐさい戦いが無くなって、平和を築くにはどうしたらいいかをね。いま、一握りの軍人が政府を動かして、大東亜共栄圏だの、八紘一宇の名目でアジア諸国を日本が取り込もうとしている。また、ヨーロッパではナチスがユダヤ人を殲滅して自分たちの国家を築こうとしている。これでは憎しみが憎しみを呼び、戦争は絶えない。陛下もそれは望んでおられない。すべて陸軍を中心とした軍属のしわざだ。だから、世界的なフリーメーソンの力でこの世に恒久の平和をもたらすために、日本の偏狭な軍事国家を叩き潰さねばならんのだよ」
長官は、ついに正体を現した。そして雄弁に語りだしたのだ。
※昭和天皇もフリーメーソンだったという噂がある。だから、天皇の後ろ盾によって、無謀な山本の作戦も通ってしまったのだとも推測できる。山本は、最後まで日独伊三国軍事同盟に反対し、暗殺される危険もあったが、その真意もフリーメーソンなら理解できよう。

「もういいです。ご高説は十分承りました。でもあなたのせいで、太平洋に散った幾万もの兵隊さんたちのことを考えたことはありますか?」
「大儀の前に犠牲はやむをえん。軍人とはそういうもんだ。そのあとに訪れる平和の理想郷こそ人類の夢だ」

あたしは、知っていたからさほど驚きはしなかったけれども、いくらフリーメーソンだからといって、無辜(むこ)の人々を犠牲にして恒久平和もないもんだと思った。
その上で、のうのうと生きようというのだから。

「おめかけさんと、南の島で楽しくお暮らしになるんでしょう?」
イヤミたっぷりに言ってやった。
※河合千代子が愛人として有名。外にもフランス女と子供までなしたとか・・・

「貴様は、いったい・・・」
「なおこと言います。なおぼんと呼んでいただいてけっこうです」
「なおぼん、じゃあ、おまえも一緒にこないか?もはや、戻れまい」
この野郎、この期におよんで・・・

「いやです。あたしは、長官とともに自決します」

そうこうしているうちに入電。
無電は長官の後ろの席にある。電源は入れっぱなし。
しょぼいヘッドホンから聞こえたのは
「敵機、来襲、ガガガ」
無電の調子が悪い。潮でアンテナが錆びているんだろう。
三時の方向に機影がみえた。十機はいるだろうか。

「どうする、なおぼん」と長官
「精一杯、戦いますよ。あたし」

ロッキードP-38、双胴の怪物・・・散開した。
ゼロ戦が追う。

南方の空はどこまでも青い。
そして空と見まがう海の色。

太陽を背にして敵機は向かってくる。
逆光で見えない。
ガンガンと、貫通する敵弾。一部は跳躍弾となって、機内を跳ね回る。
12.7mmの開けた穴はでかい!

一式陸攻には銃座がいくつかあるが、この機にはあたしと長官しか乗っていないので使えない。
ただ、かわすのみ。
長官は静かになった。
「くっ。操縦桿が重い・・・」
機首を上げようと桿(かん)を引いた。後ろにぴったり付かれた。
「もう、だめかも」
閃光が走った。
「曳光弾?」
右翼に被弾、発火はしていないが、燃料が漏れて霧のようになっている。
翼内タンクはゴムで防弾されているんだけど・・・
左に旋回して高度を取る。
強く、外に体が振られた。
ほんとに一式陸攻は舵がよく利く。

護衛のゼロ戦が火を噴いて落下していくのが見えた。

下はブーゲンビル島のジャングルだ。
今度は正面から、撃ってくる。

あたしは、目をつぶってしまった。風防のアクリルガラスが飛び散った。
「左エンジン被弾!」
エンジンが火を出し、プロペラが止まってしまった。
機体が左へ回り始めるんで、ペダルを右に踏む。
再度、被弾、今度は左翼が火災だ。
ライターと揶揄された機体は、簡単に火災を起こし、炭酸ガス消火装置があるがぜんぜん効かない。
しかし、急所を外しているのはなぜ?。
「あいつら、あたしらを不時着させようとしてる。長官、あんたを生け捕りにするつもりよ」
「どうする?なおぼん。あきらめるか?」
長官が口を開いた。
「ねえ、長官、覚悟できてます?」
「いいよ、おれはもう生きていてもしょうがない。恨まれるだけだ」
「アメリカ人には、あなたはテロリストとして憎まれてるもんね!あの山の中腹に突っ込みますよ」
「かまわん、行け、なおぼん!」
「じゃ、さよならです」
残った右エンジンのスロットルを全開にして昇降舵を下げて、傾きながら山腹に突っ込んだ。
どんどん山が近づく、葉っぱの形まではっきりおおきく見えてきた。
一瞬、目の前が黄色の炎に包まれた。

あたしは、そこで目が覚めた。
※一式陸攻とゼロ戦は山本長官の肝いりで生まれたお気に入りの飛行機でした。陸攻の安定性は抜群で、不時着なんてお手の物。「一式ライター」といわれてすぐ火がつくような記述があるけど、搭乗員らは決してそんなことはなかったといいます。だからこの機に乗って、ずらかろうと考えても不思議じゃない。実際、彼の遺体は見つかっていない(囮説)。検視も行われていない(検視させてもらえなかった)。

そして戦争は終わった。
二個の原爆と、無数の人々の屍を作って。

平和憲法がフリーメーソンのマッカーサー元帥によって作られた。
昭和天皇が戦犯にならなかった理由は言うまでもない。

憲法前文はフリーメーソンの理念そのものを日本語にしたものだった。
「自由」、「平等」、「友愛」、「寛容」、「人道」の五つの理念。

鳩山一郎がフリーメーソンだったからか、その孫が「友愛」を政治理念にして、人々の嘲笑をさそった。

安倍首相の「戦後レジームからの脱却」は、そのままフリーメーソン思想からの脱却にほかならない。
(そうすると軍事国家に逆戻りなんだけれど)

フリーメーソンの思想は決して悪くない。
ロータリークラブやライオンズクラブ、ボーイスカウトにそれは生かされているからだ。
ただ、一握りのエリートが人心掌握して世界を支配するようなやり方は間違っている。
彼らが忌み嫌う、ナチズムや軍国主義とさして変わらないではないか。

依然として、白人のセレブ(名士)のステータスシンボルはフリーメーソンなのである。

あの有名人は、どう?きっとフリーメーソンだよ。