天気が良いので、溜まっていたお洗濯を片付けた。
このごろ、電気洗濯機なるものが売りだされて、この江尻家にも最新型がやってきた。
村に一軒しかない電気屋の「森田ラジオ店」が持ってきた。
「若奥様、すごいですね。これ」
「でしょう?やっぱりこれからは電気ねぇ」
加代子さんが、得意気に言った。
たぶん、村ではここにしかない物だろう。

あたしの一月分の給金の十倍はするだろうか。

ぴかぴかのその装置は洗濯槽という深い鍋のような部分があり、その底に水流を起こす羽根が取りついている。
これが電気で回るのだ。
あたしは見たことがないが、鳴門のうず潮のようだと大旦那様がおっしゃった。
そして洗いあがった洗濯物は、二本のローラーの間を通して搾るのである。
これがまた面白い。
いつだったか、演芸会で手品師がこんなローラーから「百円札」を出してくる芸を見せてくれたっけ。

さすがに音が大きくて怖かったが、もう慣れた。

お金持ちのお家は、どんどん新しいものが増えていく。
それが、あたしには楽しみだった。
若旦那様(加代子様の旦那様のこと)が、そういった新しいもの好きでいらっしゃって、いろいろ散財をなさる。
大旦那様もお嫌いじゃないから、お許しになっている。

テレビというものも、あたしは、このお屋敷で初めて見た。
ラジオはハリクラフターという舶来製のものがどっしりと居間に置かれていたが、その隣に電蓄(電気蓄音機)とテレビジョンが並べられた。
若旦那様は「ラジオ」とは言わずに「ハリクラ」と呼んだり、テレビも「テレビジョン」とおっしゃるのがかっこ良かった。

あたしは、加代子さんが弟の日出男さんの世話を内緒でしているのを知ってしまった。
でも、加代子さんは気づいていない。
いや、案外、気づいていないふりをなさっているのかもしれない。
あたしも加代子さんの目を盗んで、土蔵に通い、日出男さんとおしゃべりをし、秘密の関係を結ぶまでに発展していた。
日出男さんは存外、博識で、あたしの知らないことをたくさん話してくれた。
東京に絵の勉強に行こうとしたのは本当らしく、ただ体が不自由なので、父の八三郎様に反対されたのだそうだ。
不具者であることを世間に隠しているのは、日出男さんの意向だという。
だから、日出男さんは学校を出ていない。
それなのに、なんと頭の良い人なのだろうか?

土蔵には書棚がいくつかあって、書物で一杯になっていた。
書棚に入りきらない本はうず高く、床に積まれていた。
その隙間を自分たちでつくって、居場所を確保するのだ。

あたしは、加代子さんが「大師講」に大奥様とお出かけになるというので、洗濯を終えて、見送り、その足で土蔵に向かった。
殿方はみな役場に出勤されている。

南京錠を外し、日出男さんを呼んだ。
「やあ、今日は早いね」
「ええ、お洗濯が、洗濯機のおかげで早くすんじゃって」
「それはよかった。便利になったもんだ」
あたしが絵描がれたカンバスはもう仕上げの段階になっているようだった。
瞳や唇がつややかに白が入り、髪も艶を帯びていた。
「なんか、すごい・・・あたしじゃないみたい・・・」
「君だよ。おれの目を通してみた君だよ」
あたしは、恥ずかしくて下を向いていた。
車椅子から手をつかまれ、引き寄せられた。
そして口を吸う。
「あむ・・・」
あたしは、日出男さんの大事な部分に手を伸ばした。
そうしなければならないような・・・
いや、自分がほしいから、ここに来たのではないか。
一瞬の自己弁護。

手は、自らの意思で進み、もう硬くなった肉の棒を握った。
「おうっ」
彼が、うめいた。
被った皮を下げて、亀頭を露出させる。
にちゃっと湿っぽい感触が指の腹に触れる。
熱い・・・
「はぁ、はぁ」
日出男さんの吐息が耳元で大きくなる。
「じゃあ、そのまま」
あたしは、彼に負担にならないように、下着を脱いで後ろ向きに座るように挿入を試みた。
そうすればいいと、先だって、日出男さんに教えられたのだ。
どうも、日出男さんは童貞ではないような気がしていた。
上手なのだ。
にゅるり。
十分、潤っているあたしは、簡単に日出男さんを胎内に飲み込んだ。
若くて硬い樹(いつき)があたしを貫いたため、あたしの背筋が伸びたような気がした。
「動いてくれよ。尚子さん」
「はい」
中腰で、微妙に抜き去らないように浮かせては、沈めた。
「あひ」
「ううん」
粘液質な音がアトリエに響く。
「もっと」
あたしは、ねだっていた。
そんなことを言うのは初めてだった。
かつての夫婦の営みでさえそんなことを口走ったことはなかった。
日出男さんも、不自由な足を使って、腰を突き上げる。
「あっ。はっ」
胃の腑まで突かれるような錯覚を覚えた。
あたしはしばらく、彼のしたいようにしてもらった。
ふらふらと突き上げられるままに、揺れていた。
それでもしっかり、あたしの肉鞘は彼を絞っている。
後背からお乳を揉みしだかれ、声が上がる。
「あうん!いやっ。いっちゃうっ」
「おおおっ。締まる」
わかる。締まっているのが・・・
こんなの、初めて。
お実(さね)も同時にいじられた。
「ひいぃ」
吸う息が磯笛(いそぶえ)のように響いた。
日出男さんの手は、あの魔術師のように自在に動きまわった。
その、巧みさは天性のものなのか、鍛錬の賜物なのかはかりかねた。
しかし、童貞ではあるまいと確信させるような熟達の技を見せた。
口に指を入れられる。
舐めろということらしい。
あたしは、むしゃぶりついた。
テレピン油の香りのする指を舐めに、舐めた。
いったい、日出男さんの腕は何本あるのだろう。
観音様のようにあたしを絡めとる。

そして・・・・
「ね、ねえさん・・・・」
あたしは、耳を疑った。
「ひ、日出男さん?今、なんて」
絶頂を迎えた男は、忘我の世界にあり、禁断の交わりと区別がつかないまま、あたしの奥深くに放った。
いつ、終わるとも知れない、長い、射精だった。
どっく、どっくと血を注ぐような射精。
そして、硬さを失わない射精。

「す、すまない。尚子さん」
後ろで、日出男さんが我に返って口を開いた。
「ううん。いいのよ」
あたしは、すべてを悟っていた。
不具の弟を不憫に思うあまりに、お姉さんは愛を与えたのね。
でも、これからは、あたしがしてあげる。

あたしは、よろりと立ち上がり、硬さを失いつつある彼からのがれた。
あふれ、こぼれる二人分の液体。
内腿を生暖かいものが伝った。
そして彼に向き直り、頭を抱いてあげた。
「お姉さんとしていたのね」
かすかに日出男さんはうなずいた。
あたしは、嫉妬していた。
日出男さんは、あたしのもの・・・

あたしは、頭を落としていって、ぬらぬらと濡れる陰茎を咥えた。
加代子さんに負けじと、舐めあげ、思いつく限りの舌技を与えた。
射精直後にもかかわらず、にょきにょきと力を蓄え、立ち上がった。
完全に亀頭を露出させ、赤黒く変色し、その勇姿を蘇らせた。
日出男さんは目を見開いて、あたしの淫乱な仕草を見下ろしている。
あたしは、見上げて「どう?」という目をしてやった。
十分に硬くなったところを対面座位で繋がってあげた。
車椅子は二人の重みできしみ、悲鳴を上げた。
手すりに両足を上げて、日出男さんにお尻をかかえてもらっての無理のある体位だったが、深く密着できた。
「こんなやり方は初めてだ」
彼が、驚いた表情で言う。
いとしい彼が目の前にいた。
「日出男さん。好き」
「おれも」
どちらからともなく口を吸い合い、唾液を交換した。
糸をひくような口づけ。
着物の合わせからは双乳がこぼれ、尖った乳首を突き出している。
深い挿入が、徐々にやわらぎ、胎内をこする。
「あっ。いい。そこいい」
「なんか、すごいよ、尚子さん。ほんとにいやらしい」
「いじわる言わないで・・・」
「かわいいよ。なおこ・・・」
「ひでお・・・」
互いが、許しあった瞬間だった。
そして、一度出して余裕のある日出男さんの攻撃が始まった。
あたしは、翻弄された。
ゆさぶられ、突かれ、拡げられた。
首が後ろに折れるのではないかと思うくらい、のけぞった。
体が不自由な日出男さんのことも忘れて、彼の上で暴れてしまった。
「いっ、逝くぅ」
目の前が真っ白になって、あたしは脱力した。
それでも、日出男さんは許してくださらない。
どれだけ経っただろうか?
気がついたら、あたしは車椅子の下で伸びてしまっていた。
「尚子さん。尚子さん」
「あ、はい」
「だいじょうぶですか?」
朦朧とした頭で、上半身を起こすと、着物を整えて車椅子に座っている日出男さんが笑って見ている。
あたしは、半裸で、膣からおびただしい精液を垂れ流しながら、すさまじい格好でそこにいた。

「恥ずかしい・・・」
ちり紙が日出男さんから渡された。
あたしは、そそくさとそれで陰部を始末し、彼に背を向けて着衣を整えた。
「ありがとうね。またしようよ」
「え、ええ」
あたしは、生返事だった。
情事の後は、気まずい。
柱時計が十一時を打った。
「もう、こんな時間だ。姉たちが帰ってくるよ」
「すみませんでした。とりみだしちゃって」
「おれこそ、やりすぎた」
柔らかく笑いながら、あたしを見る。
「じゃあ、失礼します」
「じゃ、また」
戸を閉め、鍵をかけて土蔵を後にした。