主人は「ムショ帰り」だった。
あたしたちは、それを隠していたが、人のうわさというものは不思議なもので、ここで店を構えたその年の暮れには、町内で「そのこと」を知らないものはいなかった。

とはいえ、街の人々は優しく、ごく普通に接してくれていた。
「散髪屋」という仕事は、人との関わりなくしてはやっていけない商売だった。
お客もそこそこやっていけるだけは付き、常連さんも十数人はいた。

あたしは美容師の免状を高校を卒業してすぐ専門学校に入って取得したけれど、主人は理容師免許を刑務所で取ったという。
そういうことはよくあることらしい。
彼に言わせれば、「千円散髪」なんて看板掲げて駅前で営業しているやつはみんなそうだと言う。

主人は、若いころ大工を目指して丁稚みたいなことを工務店でしていたらしい。
そこの「おやっさん」はいい人だったが、その息子がどら息子で、ことあるごとに主人をいじめるのだった。
二年目の春だったか、その息子と足場組みの仕事の最中にトラブって、取っ組み合いの喧嘩になり、鉄パイプで息子を殴り殺した・・・二十歳になって一週間しかたってなかったから、当然、名前は新聞に載るし、六年の刑を言い渡された。
執行猶予がつかなかったのは、主人に傷害致傷の前があったからだったと言っていた。
頭に血が上ると何をしでかすかわからない男で、あたしも殺されかけたことがあった。
そんな男とどうして一緒になったんだろうって人は思うかもしれない。

普段は本当にいい人で、アレがたまらなく上手なのだ。
あたしは、主人と最初のセックスで逝かされ、失禁してしまった。
主人が最初の男ではなかったけれど、女の喜びを与えてくれたのは彼だった。
太く、しっかり硬い、松茸を彷彿させる主人のモノは惚れ惚れするくらいだった。
いつもじらして、なかなか入れてくれない。
一旦、入ったら、もう抜き差しならない緊迫感で、あたしは突き殺されるのではないかと錯覚した。

あたしたちには子供が出来なかった。
妊娠はしたが、授からなかった。
主人は、子供を欲しがらなかったので、その分、彼が子供のような役割を演じていた。
二人で切り盛りする散髪屋は、世間の噂をよそに繁盛していたのだった。

ただ、ちかごろは、あたしを抱いてくれなくなった。
もう五十に手の届く年齢の主人も、寄る年波には勝てないのだろうと思うことにした。
しかし、それは違っていたのだ。

ある客の口から、「あんたの旦那、女を作ってるぜ」と言われた。
にわかには信じがたかった。
「あの人に限って・・・」
聞けば、スナックのチーママだという。
主人は、よく商店会の仲間と飲みに行っていた。
その行きつけのスナックの女だというのだ。
松井佳奈というらしいこと、三十過ぎのいい体の女だとまでべらべらとその客はしゃべった。
「気をつけなよ」
客は、さっぱりした表情で勘定を支払ってそう言葉を残して出て行った。
あたしは、ほうけたような顔をしていただろうか。
裏切られたという気持ちと、寂しい気持ちが、ないまぜになったそんな感じだった。

主人を問いただしても、あの人のことだ、逆上されたら殺されかねない。
あたしは、そのほうが怖かったので耐えることにした。
努めて明るい表情で主人に接することにした。
でも体は正直で、主人の帰りが遅い晩は切なくて眠れなかった。
「いまごろ、あの佳奈とかいう女とやってるんだわ・・・」
あたしは、閉経前の四十の身体をもてあましていた。
だれでもいい、あたしも可愛がられたい・・・

結局、その晩は主人は帰ってこなかった。
眠れぬあたしは、よろよろとトイレに立った。
狭い、店と兼用のトイレの小さな窓は開けてあった。
冬の早朝の五時はまだ暗い。
用を足して、ふと立ち上がって窓の外を見上げると、裏の家の二階の物干し台に立つ人影が見えた。
年格好から藤堂さんの息子だと思った。よくうちの店に頭を刈りに来る子だったから。

「何?」
彼は、パジャマの前を開けて、小学生にしては立派なおちんちんを出して勢い良く放尿したのだった。
夜気に湯気を立てながら液体が裏手に落ちていった。
「こらっ、何しよんの」
あたしは、腹が立って声を荒らげてしまった。
「ご、ごめんなさい」
少年の消え入るような声が上からした。
彼は、はっきりあたしを見ていた。
そして謝るように手を合わせている。
「ばか」
あたしは急におかしくなって、そう言ってしまった。
男の子は、そそくさと引っ込んだようだった。
たしか、真司くんとか、言ったっけ・・・

寝間に戻って、まだ体温の残る蒲団に身を包んだ。
もう、目が冴えてしまった。
あの子の、おちんちんが生々しく瞼の裏に残る。
「やだ、あたし、あんな子供にまで欲情しちゃって・・・」
恥ずかしいことだった。
いくら主人に可愛がってもらえないからって、よその、それも小学生にそんな気を起こすなど・・・
それにしても、たくましい一物だった。
もう、精通もあるのではないかしら。
最近の男の子は成長も早いから・・・
大人のように皮は剥けておらず、子供っぽいたたずまいだったけれど、もし、自分が貫かれたらちゃんと逝けるような気がした。

あたしは、めったにしない自慰行為をしてしまった。
ショーツの中に指を忍ばせ、乾いたクリトリスに這わせた。
谷間は排尿後で湿り気を帯びていたけれど、膣の奥底より清水が湧きだしていた。
「はぁっ・・・ううっ・・むぅん、いやっ」
独りだから、気兼ねなく声を出した。
人差し指と中指を二本、突っ込んでかき回した。
手前に折って、押す、掻く、回す・・・
「あふっ」
内ももがつっぱり、つま先が伸びて、あたしは高みに達した。
全身がこわばり、震えが襲った。
「くっ・・・」
喉の奥が鳴る。
寒いはずなのに汗が噴き出している。
夜が白々と明けてきていた。