池井戸潤の『下町ロケット』のドラマがいいですね。
どうかなと思ってましたが、ついつい引き込まれて。

特許訴訟をライバル会社からふっかけられて、窮地に追い込まれる下町の中小企業。
ロケットへの情熱と技術だけは、同業他社に引けをとらない。
阿部寛の「社長」も好演だ。
『テルマエ・ロマエ』で「クソ真面目」なおもしろさを、あのイケメン男優が醸し出していたけれど、その雰囲気もどこかただよっているように思うわ。

阿部寛も理系男子だったと思う。
そこがいいのかもしれない。

池井戸潤の作品は、勧善懲悪で、往年の時代劇を思わせる演出だ。
これも、日本人好みだろうから、高視聴率を取れるんだろうな。

『半沢直樹』でそれは実証済みだよね。

特許訴訟で、にっちもさっちも行かなかった佃製作所が「反訴」(劇中では「逆訴訟」)を提起して、起死回生を図るのね。
「反訴」とは、同じ訴訟手続の中で、原告と被告が入れ替わって訴え合うことを言うの。
民事訴訟や、特許訴訟ではよくある方法なんですよ。
訴訟経済(手間が省ける)上、好ましいとして許されているの。
刑事訴訟ではダメですよ。

大企業に有利なはからいをするという裁判官が訴訟を担当することになり、のっけから佃製作所は、相手の訴訟遅延行為に苛々(いらいら)させられます。
そういう行為を、裁判官も咎めないのね。
なんか、嫌な裁判官なのよ。
もはや、この反訴提起もダメか・・・と思わせて第一話が終わります。

次の週、実は「ものづくり」に造詣の深い、いい裁判官だったんです。
阿部寛扮する社長の、ものづくりへの情熱の弁論が功を奏したのは言うまでもないでしょう。
裁判官の心証を良くし、膨大な証拠資料(中身はほぼクズ)で遅延を図ろうとするナカシマ(相手側)は却って心証を害しました。
逆転勝訴を勝ち取るのよ(内容は佃に有利な和解案で、ナカシマには事実上の敗訴)。
なんか、『大岡越前』の大岡裁きみたいだわ。

融資元にそっぽをむかれ、資金的にもどうにもならない佃製作所が、これで生き延びて這い上がれることになり・・・
かつて融資元だった銀行の、東国原が扮する融資課長が、平身低頭で先般の非礼を詫びに来て、「今後もよろしく」なんて言うあたり、まるで「時代劇」ね。
もちろん社長はつっぱねるわよ。

見ている方の溜飲を下げるサービスも怠らない、池井戸潤の仕掛けです。

あの佃製作所が特許を持つ「バルブシステム」が、日本の宇宙ロケットエンジンに欠かせない部品なんだという設定が、「葵の御紋の印籠」になるんだなぁ。


ジェットエンジンに「アフターバーナー」という技術があるの。
ジェットエンジンは、燃料が燃える気流でタービンを回して推進力を得るんですね。
燃料と空気の最適混合比で燃やせば、効率は高いけれど、非常な高温になって、タービンブレード(羽根)は融解してしまうんだ。
だから、ちょっと混合比を落として、燃料が燃え残るようにするのね。
そうすると、燃えなかった燃料はタービンを冷やしてくれる。
でも、排気ガスは燃え残りの燃油が大量に含まれて、無駄なわけよ。
それを、排気口付近でもう一度点火して、燃やし、推進力に使う技術がアフターバーナーなんです。
こういった技術の特許でも、各エンジンの会社はしのぎを削っているはずよ。
アフターバーナーよりも、無駄の出ない方法で、燃料効率を上げるためにには熱に強い新素材でブレードを作るとかね。

アフターバーナーを使うと、燃費がすこぶる悪くなって、すぐにガス欠になるから、旅客機には使えません。
だいたい、旅客機に急発進や急上昇の必要性もないですから、アフターバーナーが必要なのは戦闘機だけです。
空戦能力を上げるのに、アフターバーナーは使われます。
また、空母などの滑走距離の短い施設からの離陸にアフターバーナーは有用です。

あたしも、すんごい特許を取ってやりたいと思っているんですがね。
中小企業って、いい発明をしても、実施能力がなくって、結局、大企業に技術を買い叩かれて持っていかれるのよ。
「専用実施権」だけを大企業に与えて、中小は特許権を守りたいけど「帝国重工」のように、やつらは「全部権利をよこせ」というのに決まっているの。
政府は「塩漬け」特許権は産業の足を引っ張るとかで、なんとか特許権を売らせようとするしね。

それでも中小企業に有利な特許政策もあったりして、特許庁も発明協会も頑張って支援してくれてます。
困ったら、発明協会に行けばいい。
懇意にしてる弁理士さんがいれば利用すればいいけれど、力のない弁理士も多いので、お金ばっかりかかって、結局、何も適切なアドバイスを受けられなかったってこともあったわよ。
訴訟になったら、弁理士より、特許訴訟に強い弁護士(ドラマでの恵さんみたいな)についてもらうほうがいいかもね。