新緑を通して青空が高い。
この草いきれには覚えがあった。

「ふぅ」
あたしは、山の斜面で寝転んでいるようだった。
「なおぼ~ん」
遠くであたしを呼ぶ声がする。
あれは、従弟の浩(こう)ちゃんの声…
「え?ここは…」

「なおぼんてば…」
後ろの切り通しを背に、小学生くらいの浩ちゃんがダイヤ柄のセーターを着て立っている。
「浩ちゃんやね」
「あったりまえやん。何言うてんねんなぁ、なんでそんなとこで寝てんの」
あたしは立ち上がった。
「あら?」
この赤いカーディガンとタータンチェックのスカート…
あたしが六年生のときに着ていたものだ。
よく覚えている。
それに、あたし…小さい。
「なあって。なおぼん見てぇな」
「ええ?」
彼の手には石ころが乗っかっていて、彼が言うには「葉っぱの化石」だという。
「な?ここ、葉脈やろ?」
確かにそう見えた。
どうも、椎の木の葉のようだった。
そんなことより、あたしはどうしてしまったのだろう。

ここは、高安の裏山だ。
間違いない。
ぼって(拂底)の谷すじの切り通しだ。
そして、あたしのこの姿、そして生きている浩ちゃん。

そういえば、すっごく高いところからあたしは落っこちる夢を見ていた。
暗くなったり、明るくなったり。
落っこちるスピードがおさまったら、目が覚めた。
「浩ちゃん、教えて」
「何を」
「今年は何年?」
「昭和四十九年やったと思う。なんでそんなこときくの?」
鼻をすすりながら、浩ちゃんが怪訝そうにあたしを見上げる。
「あたしな、今、寝てたんや」
「そやろ。寝ぼけてんもん。あそこの黒い地層にこの化石があってん」
指差す彼は化石のことで頭がいっぱいのようだった。
あたしは、もうどうでもいいやと思った。
何かとっても苦しい夢を見ていたみたいなんだけど、覚えていないのだ。

なんか、うれしくなった。
今までのはみ~んな夢で…
「浩ちゃん、行こう。どこにあったん?その化石」
「こっちこっち!」
あたしは駆けた。
体が軽い!
こどもの、あの際限ない元気が湧いてくる。

たぶん、あたしは、やり直せるのかもしれない。
もうヘマはしない。

『手のひらを太陽に』
https://www.youtube.com/watch?v=5BbiEbV173A