化学が得意かどうかは「濃度計算でつまずかなかったか」でだいたい判断できます。
物質量(モル数)という概念を、困難なく受け入れられた人は、たぶん少ないのではないでしょうか?
教える方も、あまりわかっていないような気がしましたね。
あたしが高校の時に化学Ⅰ、Ⅱを履修したわけですけれど、あまりほめられた成績ではありませんでした。
そんなに得意じゃなかった。
まだ物理の電気のほうが点数が良かったくらいです。

化学という学問は、理論よりも実験に傾いた学問と言えます。
実験結果から、理論を導いて確認するというような歴史がありました。
錬金術師や密造酒の輩が作った学問ですからね。
夢はあったが、誤解もあった。
学問として未成熟なところもあった。

そこで共通の化学の言葉が「濃度」なんですよ。
だから計量の器具が多いでしょう?
天秤にメスシリンダー、メスフラスコ、メスピペット、ホールピペット、比重計などなど。
物質には三態あって、固体、液体、気体がありますね。
特殊な態として臨界状態という気体とも液体とも違う状態もありますが、まあ、それは置いときます。
固体は天秤で量り、液体はメスシリンダーやピペットで量ります。
しかし、天秤は重さであり、メスシリンダーなどが容量と、まったく異なる比べ方ですから同じ俎上に乗せて議論できません。
重さと容量をつなぐものが「密度」という概念です。
「みつ(密度)の家、上が爺(g)で下がセンチ三畳(三乗)間」と覚えましたね。
その単位は「g/立方センチメートル」だということを、この語呂合わせが示しています。
よく似たものに「比重」があります。
水1g/cm3と、比較対象の密度を持つ固体または液体の物質の比を比重と言って、単位はありません。
温度を一定にして比較するのですが、指定温度がないときは4℃の水の密度と比較しても、ほぼ1なので、比重と密度は同じと考えてよいということになっています。
ただし、密度には単位があり、比重には単位がないことはよく覚えておかねば、次元解析(単位を決める)のときにつまずきます。
※密度も比重も温度に依存しますので、精密に比較するときは同じ温度での数値を比較しましょう。もっと言えば大気圧にも影響されます。気体の密度は特にそうです。

粉薬は天秤で量って、重さで処方されます。
しかし、水に溶かして飲み薬にするものもあります。
そういうとき1%(パーセント)というような濃度表示に出会います。
簡単な例で1%食塩水という液体を考えます。
このパーセント表示は、特段の断りがなければ重量基準のパーセントです。
すなわち水99gに食塩が1g溶かされていて、全重量が100gだということです。
パーセントは日本語で「百分率」と言いますから、
溶質(食塩)の重さ÷(溶質+溶媒(水))の重さ×100
という数式の結果を表しています。
※溶質とは溶媒(液体)に溶かされている物質のことをいい、溶質が固体とは限りません。液体のエタノールを水に溶かした場合「5%エタノール水溶液」と言いますから。炭酸水のように気体が水に溶けている場合も同様です。

食塩は水への溶解性が悪いので、砂糖を水に溶かす例で考えます。
上白糖55gと水45gで水溶液を作ります。
55%の砂糖水ですね。
このように溶媒が溶質よりも少ない場合でも水溶液になれば、パーセント表示が可能です。
当り前のことを言っているだけですがね。

じゃあ、食塩5g、上白糖15g、水80gを溶かした水溶液という例ではどうですかね。
この溶液をどう表現するかです。
「5%食塩水」ですか?間違いじゃないけど、なんか十分でないような気がします。
しかしながら食塩がどんだけ溶けているかという問いにならば「5%食塩水」と言うほかない。
こういう混合溶液は溶質のどの成分に注目して議論するのかで、言い方が変わるんです。

察しのいい人は「じゃあ溶媒の濃度という考え方もあるんじゃないの?」と思うかもしれません。
上の例で水に注目して「水80%の水溶液」という言い方もできそうですが、「水の水溶液」というところがしっくりこない。
国語の問題だと思うのですがね。
こういう場合、化学では「水を80%含む溶液」と苦しい表現をします。

もっと鋭い人は「エタノール50%、水50%の溶液は水溶液なのか?エタノール溶液なのか?」と訊いてくるかもしれません。
「そうきたか…」
なおぼんは、ちょっと困ってます。
エタノールに注目する場合は「エタノールの水溶液」だし、水に注目するときは「水のエタノール溶液」と、あたしは言うてました。
基本的にね、どっちも液体の場合、成分の多い方が溶媒であり、少ない方が溶質と考えて差し支えない。
半々のときは、どっちを主に考えて議論したいのかで使い分けてください。

パーセント濃度は、実は業界によって、いくつかの表現があります。
前提として「%」は単位じゃありませんので、次元はありません。
なぜかというと、重量なら(g/g)ですし、容量なら(ℓ/ℓ)ですから、次元がない(単位が消える)でしょう?
ただ医薬の分野では(g/ℓ)のような「重量/容量パーセント」という表現もあるので例外がないとも言えない。

とにかく「重量%」と「容量%」という表現ができ、一部「重量/容量%」という表現もあるということです。

容量%は液体同士の溶液について使われるものです。
だからメスシリンダーやメスフラスコ、メスピペットなどの容量ガラス器具が化学の世界では重要なんです。
エタノール20mℓに水80mℓを混ぜると、100mℓに…ならへんのですわ。
必ず100mℓより少なくなるの。
水とエタノールの分子の大きさが互いにずいぶん異なるので、大豆に小豆を混ぜたときみたいに、大豆の間に小豆が入り込むようになって、容積が見かけ少なくなるのよ。
メスフラスコは非常に精密に「容量%溶液」を作るもので、エタノールと水の溶液を作る場合にはこの容積減を見越して、良く振り混ぜながら、フラスコの膨らんだ部分でほぼ均一にしておき、直管付近ではなんども振って、少しずつ溶媒を足していき、標線(メニスカス)付近にもって行くのです。
化学実験では「規定溶液」を作る際にメスフラスコが活躍します。

世間で濃度といったらパーセント濃度というくらい誰でも知っているものですが、なかなか正確に作るのは難しいものです。

化学実験ではパーセント濃度はあまり意味がないんですね。
特に、定量実験ではほとんど使いません。
なぜなら、化学の基本は物質量(モル数)であり、それを重さで正確に測って実験に供するものだからです。
定量分析はとても精密で、神経質な作業です。
Aという物質の未知の濃度を、それと反応するBという既知の濃度の物質を当てて、どれだけ消費されたかで、Aの濃度を知るのが定量分析です。
この場合、Bは安定で、計量しやすいものを選定します。
計量しやすいものとは、だいたい固体であることが多いです。
こうして物質量が正確に測定されている溶液を「規定溶液」といい、その濃度を「規定度(N:ノルマル)」といい、「1規定(N)」とか「0.5規定(N)」とか言い表すことがあります。
「1規定」の溶液には溶質が「単位モル」含まれているということです。
「規定度」は単位ではなく、あえて単位で言うなら「モル/ℓ」です。

水酸化ナトリウム(NaOH)の規定溶液を作るのはどうしたらいいでしょうかね。
水酸化ナトリウムは潮解性(ちょうかいせい)といって空気中の水分を急激に吸って、べたべたになり、その間、重量が増え続けるという不安定な物質です。
これでは天秤で量ることができません。
そこで安定な、水酸化ナトリウムと中和反応をしてくれる酸性の固体物質を探します。
経験的にシュウ酸(二水和物)を使うこととされています。
これはJIS(日本工業規格)でも定められています。
シュウ酸(HOOC-COOH・2H2O)は結晶固体で、あまり湿気を吸いませんし安定です。
シュウ酸の分子量は90.03ですが、水分子を二つ内包していますのでその分(18.02×2)を足しますと、126.07です。
シュウ酸1モルは126.07だということです。
これを用いて、水酸化ナトリウムの1N 水溶液を濃度標定してみます。

水酸化ナトリウム(式量39.99)の1N 水溶液は理論的に39.99g/ℓの濃度ですね。
潮解性があるので、上皿天秤でだいたい40gを時計皿に量り取り、蒸留水で500mℓビーカーに洗い入れます。
だいたい500mℓの蒸留水で完全に溶かし、1ℓメスフラスコに注ぎ入れます。
良く振り混ぜながら、標線(メニスカス)まで蒸留水を足していきます。
これでだいたい1N の水酸化ナトリウム水溶液ができました。
でも正確じゃないんですよね。
だから、正確な濃度のシュウ酸水溶液で中和滴定し、このいい加減な水酸化ナトリウム水溶液の正確な濃度を知ります。
そして、理論値からの隔たりである「補正係数(ファクター)」という係数を求めるんです。
※ファクターのことを力価(りきか)と呼ぶ人もいますが、力価はタイターのことで定義が異なります。

たとえば、この濃度標定された水酸化ナトリウムは1N (f=1.005)のような表示になります。
あとあとこの水酸化ナトリウム水溶液を使って、濃度未定の塩酸水溶液を中和滴定して濃度を求める時に、このファクターを掛けますと、正確な水酸化ナトリウム1N 水溶液を使ったのと同じ精度になるってわけです。

シュウ酸(二水和物)の水溶液を作るにはどうしましょう?
これが正確にできなければ、あとの濃度標定は信頼性が全くなくなります。
この分子量が126.07ですから、1モルは126.07gです。
この分子には2分子の水が含まれていますが、水溶液にするとその水は溶媒に含まれます。
ところが、シュウ酸の分子をみると「二塩基酸」、つまり酸性の部分が二つあり、もし水酸化ナトリウムが中和反応を起こすと、シュウ酸1分子に対し、水酸化ナトリウム2分子が消費されることがわかります。
つまり、シュウ酸水溶液は「0.5N」の濃さで構わないということです。
すると半モルでいいわけですから63.04gを測り取るんですね。
実際の実験で、シュウ酸(二水和物)を63.04gも量ることはやりません。
多すぎます。

適宜スケールダウンして、たとえば、100mℓのメスフラスコでシュウ酸水溶液を作るのでしたら、0.63gを正確に薬包紙を乗せた電子天秤で量ってください。
つまり0.63÷126.07=0.005モルになりますから、これをメスフラで100mℓにすれば0.05モル/ℓです。

薬包紙からメスフラスコにシュウ酸を移し、残った微粉も蒸留水で洗い入れ、胴の部分で良く溶かしてから、メニスカスまで蒸留水を足します。
これが濃度標定の基準になるのです。

中和滴定の式
 0.5nvf=NVF
nはシュウ酸水溶液の物質量(二塩基酸のため係数が0.5)、vは中和終点まで要したビュレットの読み(mℓ)、fはシュウ酸水溶液のファクター
Nは水酸化ナトリウム水溶液の物質量、Vは量り取った水酸化ナトリウム水溶液のホールピペットの容量、Fは水酸化ナトリウムのファクター
※シュウ酸水溶液の力価は、実際に量り取った天秤の読みを0.005×126.07で割ってやれば出ます。

この式でF(水酸化ナトリウムのファクター)を知りたいのですから、
F=0.5nvf/NV
で求まります。

※こうやって求められた水酸化ナトリウムの1N 水溶液も時間が経つと、空気中の炭酸ガスによる中和反応などで濃度が変わってくるので、その都度シュウ酸規定液で滴定し直し、変化したファクターを求めておく必要があります。
ファクターは常に最新の値を用いなければなりません。

こういった定量操作は中学校の理科の時間でおやりになったことがあると思います。
食品関係の品質管理部などでもおなじみ作業で、毎日こればっかりやってますという人もいるでしょう。
中には、あまり意味も分からず、マニュアル通りに、あるいは上司に言われたとおりにやってますという人もいらっしゃるでしょう。
でも意味が分かると、仕事のハリも出てきます。
また、改善の方法も見えてくるかもしれません。

ほかに「グラム当量(化学当量)」は酸と塩基を特に論じる場合に便利ですが、物質量の考え方と同じなのでそんなに難しいことではありません。

教える側に物質量や当量、アボガドロ数を根拠とした化学量論が基本概念としてしっかりあれば中学生でも十分理解できるはずです。