昨日観た映画『2012』もパニックものだった。
これは、ついこの間(あいだ)にもあった太陽フレアの巨大なものが地球を襲うというお話で、大量のニュートリノが地球に降り注ぎ、地球のマントルやコアが電子レンジで加熱したようになって活発に流動し、地殻のあちこちが破れてマグマが噴出し、大陸は沈降、隆起して大地震を起こし、陸上には巨大な津波が押し寄せるという荒唐無稽な世紀末作品です。

VFXがすばらしいので、大地震を経験した人には毒かもしれません。

アクション映画につきものの「カーチェイス」ならぬ、次々に街を襲う巨大な地震の裂け目を避けながらリムジンで突破して逃げ切るシーンは圧巻です。
それにとどまらず、双発機による崩れ落ちる飛行場からの危機一髪の脱出。
パイロットは医者だが、ペーパーパイロットで、ひやひやものです。

そして、とにかく人が死にます。
ずいぶん簡単に。
そりゃまあ、こんな大災害ですからね、死なない方がリアルじゃないわね。

『ディープインパクト』という映画でも描かれた「生き残る人々」と「そうでない人々」の軋轢(あつれき)をこの作品でも描かれます。
やはり「ノアの箱舟」作戦なんですね。
アメリカ主導なのも同じ設定。
そして有色人種のアメリカ大統領であるところまで同じ。
ダニー・グローバー演ずる米大統領は、しかし、自分が犠牲になる道を選びます。
アメリカ主導で選民して、生き残りをかけるのではなく、世界の国々(G8と言っていた)と協力して、中国にもお願いして、チベットの奥地に「ノアの箱舟」現代版を数隻つくって、人類や動物を救おうというものです。

『ディープインパクト』は彗星の地球激突で、北米大陸限定みたいな災害でしたが、『2012』は地球規模です。
日本列島なんか、韓国のピョンチャン五輪のHPのいたずらじゃないですが、こっぱみじんこに無くなっちゃう。
G8のテレビ会議でちょろっと日本人が出ただけ。

監督が『デイアフタートゥモロー』『インデペンデンスデイ』のローラン・エメリッヒであり、同じような仕上がりになっています。

好き嫌いの分かれる映画だと思います。
『デイアフタートゥモロー』が異常気象による爆弾寒波でニューヨークが氷漬けになる話でしたし、『インデペンデンスデイ』は異星人に侵略されるアメリカが、アメリカ人の手で撃退するという自慰的作品でした。

VFXだけですかね。
見どころは。
お金持ちが、カネにあかせて、「ノアの箱舟」の切符を手に入れ、貧乏人は死を待つのみというわかりやすい設定は、トランプ政権になって笑えない風刺に見えます。
黒人大統領も残された市民とともに、津波に呑まれます。
「選ばれなかった者」の不公平感をもっと描けば社会派映画になったろうに。
チベットの僧侶や中国人の兵と、「ノアの箱舟」建造にたずざわったチベットの人々、インド人の地球物理学者、など人種的にダイバーシティ(多様性)を描いているんですが、どこか胡散臭い。
だって中国人は働くだけ働かされて、箱舟には乗せてもらえないのですよ。

売れない作家ジャクソンと元妻ケートと子(ノアとリリー)、ケートの再婚相手、整形外科医ゴードンの奇妙な一家が天変地異から逃避する話を軸に、アメリカ政府の科学顧問で黒人のエイドリアン、ウィルソン大統領の「国民へ知らせるかどうか」の逡巡、金持ちが我先にとノア計画の既得権を買いあさるエピソードを交えて、ブルドーザーのように物語が進んでいきます。
長いんですよ、上映時間が二時間近い。
だから途中、だらけてくる。
余計なシーンも多いと思います。
海賊放送局のチャーリーはそれなりに重要な人物なのに、あっさり死んでしまう。
作者が人物をあまりにもたやすく消してしまうので、未曽有の災害なんだから仕方がないのかもしれないけれどね。
ロシア人の金持ちで、もとプロボクサーのユーリが、双子の息子を可愛がるがゆえに、カネでノアの箱舟に乗る権利を買うのね。
ユーリ一家が自家用機で中国に向かう便に、ジャクソン一家も乗る僥倖に預かるのだけど、チベットで燃料切れで不時着し、動物を空輸していた中国軍ヘリ部隊に助けられるのかと思いきや、切符を持つユーリ親子しか助けてもらえなかった。
つまり、ほかのジャクソンやユーリの妻は置いて行かれる。
どこか嘘くさい展開でね、こっちも疲れてきてるから、どうでもいいやっていう投げやりな気分も手伝って、最後まで観てしまう。

ま、そんな映画ですわ。
時間つぶしには長すぎるので、よほど暇なときにお勧めします。