化学実験器具にはその使用方法が目的によって決まっているものがあります。
液体を測る「体積計量器具」を見てみます。
みなさんは「ピペット」というガラス器具(ポリエチレンでできたものもある)をご存知かしら?
目盛を打った、太い温度計のようにみえる「メスピペット」と、標線が一本だけ入って、お腹の膨らんだ「ホールピペット」がよく使われます。
メスピペットホールピペット

上がメスピペットで、下がホールピペットです。
いずれも液体を吸い上げて、吐き出すという操作で使います。
メスピペットは最大目盛までの計量ができます。
液面の見方は、もっとも低いところを標線に合わせて読みます。
メスピペットで注意すべきは「出し切らない」ことです。
実は、0目盛より下のテーパ部分をふくむ容積は不明なんです。
必ず目盛のある部分で量り取りましょう。

反対に、ホールピペットは「出し切る」ことで正確な計量値が得られます。
最後の一滴を出し切るには、ホールピペットの後端を指で塞ぐか、ピペッターを閉にして(そのままで閉)膨らんだ部分を手で握ります。
すると体温で内部の空気が膨張し、先端の一滴が吐き出されます。

ホールピペットには膨らんだ部分に数字が書いてあるはずです。
その数字の容量が標線まで液を吸わせ、完全に排出させたときの容量です。
決まった容量を何度も量り取るときにホールピペットは便利ですし、メスピペットよりも精度が高いとされています。
欠点は、容量に応じてホールピペットを多数用意しなければならないことでしょうか?

メスピペットもホールピペットも基本的に「ピペッター」というゴム球を使いましょう。
安全ピペッター
安全ピペッターの使い方は、写真の下の口(黒いパッキンのはまっている部分)にピペットの上端を差し込み、ゴム球の上の「A」を指でつまみながらゴム球を押して排気します。
「A」から指を離して弁を閉じるとゴム球はへこんだままです。
この状態で、ピペット先端を吸うべき液体の中に浸けて、今度は「S」の部分を指でつまんで弁を開きます。
すると、液体がピペットの中を吸いあがります。
このまま標線まで吸い上げますが、行き過ぎたら、「S」を離して「E」を押すと空気が入って液面を押し下げます。
こうして微調整しながら欲しい容量を吸い取るのです。
ピペッターから手を離すと液は落ちませんのでそのまま吐き出す場所まで運べます。
排液するときは先ほどの「E」を押せばいいのです。

ピペットを口で吸って使うのは、本当はいけないのです。
理由はいくつか考えられますが、まずは安全のためです。
毒物や劇物を含んだ水溶液、有機溶剤を吸うのが本来のピペットの仕事ですから、口で吸うのは危ないです。
もうひとつはやってみればわかるんですが、目盛りが見にくい。
余計に吸っておいて、大気圧で戻すという方法になります。
慣れれば、そうやっている化学者も多いかと思います。
生物学実験では「汚染(コンタミネーション)」の原因になる可能性もあります。
つまりピペットの口から唾液などが入らないとも限らないからです。

つぎに、あまり精度の必要ないピペットを紹介しましょう。
「駒込ピペット」です。
「こまごめ」は地名です。
東京の人なら知っているところなんでしょうよ。
都立駒込病院があってそこのお医者が考案して広まったらしい。
(MonotaROのアイコンを拝借)
このピペットはホールピペットのように膨らみが目盛りの後方に設けてありますが、これはトラップです。
感染症患者の体液などを吸い取るのに使われたようです。
そしてこれを考案した二木(ふたぎ)先生は二次感染を防ぐために「口で吸わない」ようにゴム球を後端にかぶせてそれをスポイト式に押して排気してから液を吸引するようにした安全なピペットなんです。

つまり原型はスポイトなんですよ。
今のスポイトはポリエチレン製で本体と球が一体型ですが、昔はガラス管とゴム球で構成されていました。
そうねパスツールピペットなんかがその原型をとどめているかしら?
パスツールピペット
これがパスツールピペットです。
ガラス製ですが使い捨てです。
生物学実験で使います。
上方にくびれがつくってあり、脱脂綿で栓ができます。

メスピペットの精度で、滴定に使うのがビュレットです。
ビュレット
ビュレットはメスピペットの出口に活栓がついたものです。
中学校などで酸と塩基の中和滴定で濃度を標定する実験をしませんでしたか?
あれに使ったのがビュレットです。
ガラス製で、中に入れる液が光に弱い「硝酸銀水溶液」を使う場合には褐色のビュレットを使います。
ビュレットがない場合にメスピペットを使うことができます。
COD(化学的酸素要求量)やBOD(生物化学的酸素要求量)を酸化還元滴定で測定して水質を評価しますが、フィールドで測定するときにビュレットのような大層なものを持っていけないので、同じ精度のメスピペットで滴定することがあります。