明治三十八年も暮れようとしている。
おれは「ホトトギス」を火鉢の前で拡げて読みながら、干し芋をあぶっていた。
夏目漱石という作家が『吾輩ハ猫デアル』という小説を連載していたのだった。
兄の宗太郎が置いていったものだった。
兄は、町の句会の発起人の一人だった。

「宗介さん、遊んでばっかおらんで、ちっとは家の片づけなど手伝うてもらえませんかの」
女中の「おふじ」が赤ら顔で白い息を吐きながら嫌味を言う。
おれは焼けた干し芋を割いて口に運びながら、おふじに顔を向ける。
おふじは雑巾を手に、障子の桟(さん)を拭いているところだった。
このおたふくのような小柄な女は上州訛りがまったく抜ける様子がない。
おふじも、今年で五十になると、ことあるごとに嘆いていた。
腰が痛いと言えば「もう五十だかんね」と、あかぎれが治らないと言えば「五十年もやってきたから」などと、聞こえよがしに言うのだ。

「おふじさんよ。下倉にちょいと出かけるよ」
「またですかぁ。女郎買いもほどほどになさいましよ。大旦那様からも言われてんですよ」
「なんて?」
「宗介を監督しろってね」
「ふん」
おれは、衣紋掛けの羽織をひっかぶると、冷たい手をこすり合わせながら、玄関に降りた。
近頃、学生の間ではやっているマントも羽織って行こう。
今日は小雪も店に出ているだろうか。
もう客が付いたろうか?

往来に出、市電に乗ろうと停車場で立っている合間、秋も深まった「あの時」をおれは思い出していた。
「陽炎」の女将に「小雪を呼びたいんだが」ともちかけた。
女将は小雪から聞いていたらしく、心づもりができているようだった。
別段「未通女」だからといって、吹っ掛けるようなこともなかった。
「兄さんなら、小雪ちゃんも安心だわね」
女将はそう言って、キセルを火鉢の縁(へり)にコンと打ち付けて灰を落とした。
おれは用意してきた一円札を五枚、懐から出して女将の前に差し出したのだった。
女将は一円だけを取り、残りをおれに返し、
「あとは小雪ちゃんに渡してあげて」と言ったのだった。

小雪は赤い襦袢に、白地に秋の七草をあしらった友禅を羽織っていた。
帯はしていない。
「小雪…」
「お兄さん。よろしゅう」
そう言ってぺこりとお辞儀をしたのだった。
髪は桃割れのままだった。そのほうが似合っていた。
ひとしきり、儀式のように、おれたちは盃を交わし、薄化粧をほどこした十六の少女の貌(かお)をながめた。
燭光はいよいよ暗く、あやしく影を揺らした。

高枕が二つ置かれた床(とこ)に、おれは小雪を誘い、寝かせた。
小雪は目をつむっている。
紅を引いた唇の間から、玉を並べたような歯が覗いている。
着物の下で鎌首をもたげてはじめている分身に痛みを感じていた。
さらしの下着をほどいて、硬直を解放しなければならなかった。
小雪に背を向けて、おれはほかの女とやるように裸になった。
小雪の方に向き直ると、おれはその襦袢の合わせ目から手を入れ、ふっくらとした胸肉に及んだ。
「はあっ」
小雪が大きく息を吐く。
「もう、こんなに大きくなってるんだ」
おれは、やさしく、乳房をもみしだきながら、そう言ってやった。
「お兄さん、いやらしい顔」
「なんだよ。その言い草は」
「ごめんなさい。でも…お兄さんとこんなことになるなんて」
「お兄さんはやめてくれよ。兄と妹みたいで、やじゃないか」
「あたいは、かまわないけど」
「こゆき…」
おれは、なんだかとても愛おしくなって、小雪に抱き着き、唇を奪った。
襦袢ははだけられ、小雪の裸体が闇に溶けるように浮かび上がった。
脂粉の香りにまじって、女の体臭がしっかりと感じられた。
おれは首筋から腋、へそへと舌先を這わせ、じらした。
未通女なのだから、いきなりの挿入は無理に決まっている。
おれも、どうしていいのかわからないのだった。
指先で、小雪の秘め処をなぞる。
小さな声を漏らす少女、小雪。
指先がねとねと、ぬるぬると湿り、その潤いが増してくるのがわかった。
複雑な肉の襞(ひだ)がおれの指にまとわりついて離さない。
ほかの遊女でもそうだが、この小雪も男を狂わせるような仕掛けが備わっているようだった。
ぷつりと指先が何かを破って中に入っていく感触があった。
「あっ」
「痛いか?」
「ううん。少し」
破瓜(はか)だったかもしれなかった。
小さな乳房がふるふると震え、何かに耐えているような小雪の姿だった。
おれは小雪に高まりを握らせることにした。
おそるおそる握る細い指が、次第に男根の形を確かめるように力を増してくる。
「硬いわ。お兄さんの」
「そうだろ?小雪のせいだよ」
「あたいの?」
「小雪の中に入りたいから、こんなに硬くなってんだ」
「ふふふ。うれし」
「そろそろ入れようか?」
「うん。でも怖い」
「大丈夫だ。おれにまかせな」
「あい」
おれは起き上がり、小雪の足を開かせ、間に陣取った。
暗がりだが、裂け目はそこにあった。
まだ毛がほとんど生えていない幼さだった。
一寸ほどの太さの肉棒をおれは裂け目にあてがった。
「ひっ」
小雪の喉が鳴る。
おれは先をほんの少し押し込んだ。
めり…
小雪が高枕を倒してのけぞった。
「あうっ」
「がまんしろよ」
「ううっ」
歯を食いしばって、小雪が耐えている。
割くように己が侵入していくが、小雪は顔をしかめて、声を殺して耐えていた。
冬なのに、玉の汗が小雪の肌から噴き上がる。

市電がやってきていた。
「お客さん、乗るのかい?」車掌が怪訝な顔でおれに尋ねる。
おれは、妄想から現実に戻された。

(つづく)