昨日の毎日新聞夕刊の三面にアルベール・カミュの『ペスト』(新潮文庫)が品薄になっているというニュースが載っていた。
どうやら新型コロナウイルス流行と関係があるらしい。
私も、実は新型コロナウイルス禍に触発されて『ペスト』を書庫から引っ張り出してきた。
ペスト
これね。
けっこう分厚いので、政府が「出歩くな」と言うのなら、引きこもってこういう本を読んでみるのも一興だろう。
たぶん、Amazonでぽちっと買った人々は、テレワークの合間に読もうかと思ったに違いない。
それが相当数いたようで、ネットは情報の拡散が早いなとあらためて知らされた。
「検索」さんが、多いんだね。

毎日新聞にも書いてあったけど、とても現在の世界の様子に『ペスト』は似ているのです。
人々の疑心暗鬼、公僕のためらい、町の封鎖、あきらめ…
ペストは新型コロナウイルスと比較しようもないほど恐ろしい伝染病であり、現在では、発生が確認されていない。
ペスト菌が撲滅されたのかどうかは、不明です。

カミュとは関係ないけど、科学史の立場から面白いエピソードがあります。
アイザック・ニュートン(1643~1727)のことです。
彼がケンブリッジ大学で学位を得た若者だったころ、イギリスでペストが流行してしまいます。
それは1665年のことで、ダニエル・デフォー(1660~1731)がまだ幼かったころのことなのに、彼は私ぐらいの年(57歳)に『疫病の年』という小説でペスト禍のことを書いている。
このペスト禍は翌年のロンドン大火で「災い転じて福となす」のことわざの通り、ネズミの大量焼死で収まってしまうのです。

ペスト禍の間、ニュートンの在学していたケンブリッジ大学は閉鎖となり、学生たちは疎開し、蟄居させられる。
まさに、今の学生さんのように「学校閉鎖」状態ですね。
ニュートンのような思索好きにとっては、またとないチャンスであり、普段から疑問に思っていたことについて、一人静かに考え抜くことができ、その成果が『光学』や微積分法の証明、逆二乗の法則(万有引力の法則)への到達という成果につながったと言われています。
ニュートンは、大学では研究の傍ら、まだ若かったので教授陣の雑用係に忙しかったらしく、じっくり考えることがなかなかできなかったようで、ペスト禍による蟄居命令によって彼は「禍を転じて福と為した」のでした。

だいたいペストが流行したのは不衛生が原因でしたから、ネズミを退けるために、猫を飼うことが奨励されたり、下水道の完備が行政の仕事になったのです。
汚物をベランダから歩道にぶちまけていたヨーロッパ人は、生活態度を改めることでペストを克服しました。
ジャン・バルジャンが逃亡に使った下水道は、パリの地下をめぐっていました。
これもペストを克服した例だと考えられます。

さて、わたしも『ペスト』をもう一度読みつつ、蟄居いたしますかい。