お隣の奥さんのお宅に呼ばれて、お茶しながら話していたら、サランラップの話題になって、
「後藤さんやったら、わからはるかな」
と言いながら、台所からサランラップの「22㎝×50m」の新品を持ってこられた。
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そして、もう一つ、コーナンに売っているポリラップとかいう同じく「22㎝×50m」の新品で町内会の夏祭りの「福引き」で当たったやつを戸棚から出してくる。
「このふたつな、おんなじ(同じ)巻き数で幅もいっしょやのに、持ってみて」
「ああ、サランラップのほうが重たいなぁ」
私は、言いながらそのことを奥さんが不審に思っているらしいことに気づいた。
「木村さん、ポリラップのほうが、えらい(とても)軽いから、なんか“ごまかされてんのとちゃう”と思ってはるのかな?」
「そうよ、そうそう。すっごい重さが、ちゃう(違う)でしょう?おんなじラップやのに」
「まあ、たしかに、巻きも幅も同じやけどね、原料がちゃうのよ」
「原料?ポリラップのほうがくっつきにくいし、切りにくいから、まあ、ちゃうんやろとは思てたけどぉ」
「そうそう、そういう性質の違いもあるわね。とにかくね、ここ見て」
私は、2つのラップの箱をならべて原材料のところを指さした。
「えっと、サランラップはポリ塩化ビニリデン…こっちはポリエチレンやね」
「そやねん。まったくちゃうもんでできてるのよ」
「そんでも、そんなに重さがちゃうわけ?」
まだ木村さんは、解(げ)せないという顔だ。
※「ちゃう、ちゃう」うるさい、あたしたちですね。

この奥さんに、元素周期表とか原子量のことをどうやって説明しようか?
私は、「うーん」とうなってしまった。
「あのね、ここに塩化って書いてあるでしょう?」
「ごめん、あたし理科は苦手やねん」
「まぁ、聞いてぇな。この塩化ってのは、塩素という原子がこのラップに含まれてますよってことを言うてるねん」
「塩素って、ハイターみたいな?」
「あれも塩素が含まれてるわね。この塩素の原子量がだいたい35でね」
私は、奥さんのテーブルの上のメモ用紙に書いていった。
「ポリエチレンのほうは炭素と水素だけでできていて、それぞれの原子量が12と1なんよ」
「うあぁ、やめてぇ」
奥さんは悲鳴を上げてしまった。
「まあ、聞いて。これだけでも塩素の方がずいぶん重いってわかるでしょ?」
「そやね、35と、えっとこっちは足してええんかな、13かぁ」
ほんとうは、塩化ビニリデンのモノマー単位とエチレンモノマー単位の分子量を比較をすべきだけれど、まぁいいか。
「こうして比べたら、塩素原子を含むサランラップのほうが、同じ幅で同じ長さでもポリラップより重いわけ」
「なんか、そう言われてみれば、わかったような気がするわ」
「ちゃんと両方ともインチキはないから、好きな方を使ってよ」
「ポリラップのほうが、だんぜん安いからねぇ。くっつき悪いけどぉ」
木村の奥さんは、ふくよかな笑顔でよろこんでくれた。
「後藤さんは、そういうの、いっつもうまいこと説明してくれはるねぇ。うちの旦那なんか、こんなこと訊こうもんなら、いきなり不機嫌になって、逃げはんねん」
「ははは、そりゃ、まあ、わからんでもないわぁ」
「後藤さんは大学出てはるから」
「そんなん、関係あらしませんて。あたしは、そういうの好きやったから行っただけで、たまたまですわ。奥さんの方が料理も上手やし、こないだのかす汁、ほんまおいしかったわぁ」
「あれは、粕が良かっただけ。まだあるから分けたげるわ」
「いやぁ、悪いわぁ」
「ええの、ええの。城陽酒造に知り合いがいてね、たくさんくれはったんよ」
そう言いながら冷蔵庫から酒粕の入ったビニール袋を出してきてくれる。
近所づきあいも悪くない。