こないだの日曜、合宿から帰ってきたKちゃんがお土産もって来てくれた。
「そうかぁ、お母さんに聞けへんか」
「うん。おばちゃんやったらなんでも聞けるし」
Kちゃんが、あたしに相談してきた。子宮頸がんワクチンについて。
合宿でお友達とそんな話になったみたい。
「あたしもこのガンについてはあまり知らんのや」
「ふうん。みんななるの?」
「そんなことないよ。子宮がんのうちの一部がこれやと聞くね。それより、このガンはワクチンで防げるから、国もうるさく言うねん」
「ガンて、うつるの?ワクチンってウィルスなん?」
なかなか、的を射た質問をぶつけてくるな。

「ウィルスによる病気は多々あるけど、一部のガンもそうや。ウィルスやからというて、うつる病気とそうでないものがあるのよ。ガンはウィルスが発病させるけど、ガン自体は他人にはうつらない。けれど、ウィルスをうつすことがあるから、まあ、Kちゃんには早いけど、セックスでうつることがあるんや。それからお母さんから胎児にうつったりな」
「そやから、あたしらでも子宮頸がんになる可能性があるんやね」
「そゆこと」

「あのワクチンって、副作用があるって、新聞にでてたけど」
「そうらしいね。まだ、ええやろ、あんたは」
「そうかなぁ」
「ちょっと、Kちゃんはまだボーイフレンドとかいいひんやろ?」
「うん」
「ほんまやな」
「なんで、おばちゃん、恐い顔して」
「あんたらくらいの子が危ないねん。簡単にセックスするからなぁ」
「しいひんって。キモイし」
「キモイかぁ。まだ、お子様やな、君は。ほな、生理のことちょこっと教えたろ」

「あんたは、もう毎月、生理来るか?」
「ちょっと遅れたりする・・・」
「まあ、最初はそんなもんや。女の卵子はな、400個くらいしかないねん。それを生涯、毎月一個ずつ、産むちゅうか、排卵するのが生理や。そやから、400個出してしもたら、打ち止めで、おばちゃんみたいに生理なくなってまうの」
「え?おばちゃん、もう生理ないのん?」
「ない」ときっぱり

「そうなんやぁ。あたしのお母さん、まだあるよ」
「まだ四十なってはれへんやろ?お母さん。そんなん、まだまだ女ざかりや。まだ妹か弟産みはるわ」
「えへへ。弟がほしいな」
「頼んでみ」
「頼めへんわ」とぽっとほほを赤らめるKちゃん。

「血が出るのは、子宮の内膜が剥がれるからやと習ったと思うけど、妊娠できなかった卵子を排出する意味もあるんや。毎度毎度受精しとったら、400人の子持ちや。シシャモやあるまいし」
「あはは、おもしろーい。でも十ヶ月もおなかに赤ちゃんいるんやろ?400年も生きられへんね」
「まじめに計算すんなって。そんなもん、おなかが擦り切れてしまうわ。そんでや、子宮の内膜は赤ちゃんのベッドになるように厚くなってだいたい一ヶ月かけて準備しよんねん。それは脳下垂体という司令塔が命令を出してちゃんとするんや」
「へえ」
「で、セックスしないで、受精がなかったら、いらんようになった卵子と子宮内膜は剥がされて、血液とともに膣から流れてくる。この血は固まりにくくなってるはずや。そやろ?」
「うん、どろどろ」
「固まったらえらいこっちゃからな。生理のとき痛いことない?」
「おなかがきゅっと痛い」
「あれは、子宮がプロスタグランジンによって収縮して内膜の排出を促してる証拠や。これは出産のときの陣痛と同じメカニズムやで」
「もっと痛いんやろ?陣痛って」
「そら、赤ちゃんを出すんやからなぁ。おばちゃんは経験ないからお母さんに聞き」

「子宮内膜の細胞はちょっと変わってんねん」
「どんなふうに」
「あの細胞だけで、一ヶ月ごとに増えたり、死んだりするんや。タイマー内蔵型の細胞なんや」
「ほんまに」
「子宮内膜症という病気があるやろ」
「知らんけど」
「あの病気は、その子宮内膜の細胞が体のあっちこっちに飛んで、生理周期に合わせて、そこで増えたり、剥がれたりするからやっかいなんや」
「うわ、ガンみたいやん」
「そうや、ガンそっくりやけど、もともと健康な細胞やから、悪性腫瘍にはならんねん」
「その細胞がほかのひとについたらうつる?」
と心配顔のKちゃん。
「は?そらないわ。ガン細胞もそやけど、その人の細胞やからその人の中でしか生きられへん。他人の体内では異物として、ナチュラルキラー細胞に食われて死んでしまうよ」
「よかったぁ」
「がん細胞は、自分に栄養分を引き込むために血管を作らせるんや。そして大きくなる。子宮内膜細胞はそこまでできひん。時間が来たら、栄養分の供給も途絶えて自死(アポトーシス)して剥がれて流れていく。でも子宮以外でそれが起こったら病気になるんや」
「こわいんやね。なんでそんなことが起こるんやろ」
「それがわからへんねん。一種のエラーやろな」

「子宮頸がんはウィルスでなるけど、がん自体が人にうつることはないということはわかったよ」
「それがわかればよろしい」

「抗がん剤で頭の毛が抜けるのはなんで?」
「健康な細胞までもやっつける薬やからかな。がんの細胞分裂を抑えるから、細胞分裂の活発な毛根細胞もやられるんやろうね」
「そっかぁ」
「がんの攻め方にはいろいろあって、兵糧攻めにする、つまりがん細胞への血管を作らせない薬とかね」
「そんなんもあるの」
「あるらしいよ。微小管重合阻害薬っていうのがね。心配やったらあたしの同級生で産婦人科のお医者さんがいるから紹介したげよか?女の先生やから安心やろ」
「うん、お願いします」
「お母さんにも言うときや」
「ええ~っ」
「内緒はあかんよ。おばちゃんの名前だしてええから」
「はあい」
と不満そうだったけど