会社の同僚のメグちゃん(彼女は三十代ですけど)が
「なおぼん、キャッシュカードの暗証番号な、あたし誕生日にしてんねん、ここだけの話」
「あたしに、言うてどうすんのよ。で、どうしたんさ」
「ATMでいっつも「あなたの暗証番号は推測しやすい番号です」とか出るねん」
「そやなあ、誕生日はあかんなあ」
「あたしな、十一月二十八日生まれやねん」
「だから、言うなって。あたしは聞きたくない!」
この子は、何を考えてるんやろ。自分の暗証番号を他人に言うやなんて。
「変えたいんやけど、変な数字やったら覚えられへんし」
「わかった、こうしよ」
「いい方法あんの?」
「補数を取るんや」
「ホスウ?なにそれ」
「たとえばな、1に何を足したら10になる?」
「9や」
「1と9は補数の関係にあるんや。つまり、鍵と鍵穴や。このカラクリをあんたの誕生日に施す」
「ふーん」
「1128なんやな?あんたの暗証番号」
あたしは、周りを見回して小声で言った。
うなづく、メグ。
「補数を取ったら、9982や。これが新しい、あんたの暗証番号や。もう一度補数を取ったら誕生日がわかるやろ?戻すことを復号って言うねん」
ひそひそ声で、女二人が頭付き合わせて、何をやってんねん。
※メグの誕生日は、本当は11月28日じゃありません。個人情報なので変更しました。

これは簡単な暗号を作り出す方法だけど、知ってる犯人はまず補数をとってみて、三回以内のトライでATMを破るやろう。
知らんかったら、安心やな。

めぐの話はこれで落着した。
※「0」の補数は0なので、何も変わりません。
あしからず。