さてと・・・
「どんな展開をお望み?」とだんなに聞いてやった。
「そうやな。優希がとことん落ちていく・・・」
「うわぁ。血も涙もないな、あんた」

続き・・・

あたしは、掲示板へのメッセージを続けた。
(最初は条件アリって書くんだよね。サポお願いでもいいか・・・)
千鶴に教えてもらったことや、昨日、調べた知識を使って、なんとか仕上げた。
「あ~、どきどきするなぁ。よし、送るぞ」
画面の送信ボタンをクリックした。
「いっちゃった・・・」

それからが、大変だった。
「どうしよ。メールが来たら。そだ、シャワーしとかないと」
どたどた、階下に下りていく優希。
「ゆうき、ご飯、どうすんの。母さん、もう出かけるよ」
パートに出かけようとする母の顔をまともに見ることができなかった。

「あとで食べるから、置いておいて。あたしシャワーする」
「え?これから?変な子」
「汗かいちゃったし。暑かったでしょ。今朝」

「じゃあ、鍵、閉めていくから、お留守番お願いね」
「母さん、あたしも出かけるかも。用事あったらケータイにかけて」
「わかったわ。ちゃんと戸締りとガスの元を切ってね。行ってきますよ」
母は、そそくさと出かけてしまった。そのほうが都合がいい。

朝のシャワーは気持ちがいい・・・はずだったけど、もう心臓がばくばくして、それどころじゃない。
「ここ、よく洗っとかないと」
生理後なので、少しにおうかもしれなかった。
初めてでも、耳年増なあたしは、それなりに、いろいろ考えていたんだよ。

風呂場から出て、バスタオルを巻いたまま、二階へ直行。
机の上のケータイが振動している。
「うわ、来てる。三件のメールだって・・・」
千鶴から、メールが来たら、その人のプロフとか、日記があれば必ず見ろと言われてた。
「ヨシさんからのメール・・・おはようございます。もうお相手は決まっちゃいましたか。まだなら、これから遊びましょう。だって」
「ゴッツからのメール・・もう決まった?おれ、車あるし、迎えにいけるよ。場所を教えてくんない。あと条件と。かぁ」
「こたろうからのメール・・これから、一緒に楽しみましょう。若い子が好きです。条件教えてよ。う~ん」

「どうしよう。お返事しないと。三人も相手できないよ~」
あたしは、頭をかかえた。
裸なのも忘れて。

とりあえず、プロフと
「ヨシさんは、三十代の男性で、既婚者。うわ、いいのぉ?タバコ吸いますかぁ。やだな」
「ゴッツは、二十代後半の男性で、未婚の自由業だって。なんなのこれ?タバコ、お酒たしなみますだって。○○してあげる。これって何?」
「こたろうさんはっと。四十後半のおっちゃんだ。離婚しましただって。タバコは吸いません。お酒少々。さみしいです」

千鶴は「最初は、おっちゃんがいいよ」って言ってた。
なんでもやさしくしてくれて、無理強いはしないそうだ。
「こたろうさんに、しよ」
あたしは、さっそく返信を書いた。
「こたろうさん。ありがとう。条件はホ別イチゴでお願いしま~す(≧∀≦*)ノ」

しばらくして、こたろうさんから
「了解です。では、車で迎えに行くんで、どこで待ち合わせましょうか」ときた。
千鶴からは、コンビニとか人目のあるところで待ち合わせろと言われた。
相手も車に強引に連れ込むことができないからだそうだ。
「危険を感じたら、ダッシュで逃げるんだよ」そう千鶴は教えてくれたよ。

「田無駅の前のコンビニの雑誌売り場で、白地に紺のボーダーのワンピース姿で行きます」
すぐに
「南口のローソンですね。十時に行きます」
と返ってきた。

十時まであと三十分もないじゃないか・・・
「パンツ・・・・」
あたしはやっと裸であることに気付いた。
一番お気に入りのブラとショーツを身につけて、鏡に映る自分をみた。
「娼婦・・」そんな言葉が頭に浮かんだ。
「ごめんね、母さん」
引き返すなら、今なのだけれど、走り始めたあたしは、約束を守らねばという気持ちのほうが強かった。

問題のコンビニに到着した。
何台か車が停まっているが、中に人影は無い。

身分を証明するものを一切、持たないこと・・・これが千鶴の最後の忠告だった。

雑誌売り場に行って、周りを見渡し、目の前の雑誌を見るでもなく、ただ立っていた。
「どんなおじさんだろう。四十ならお父さんぐらいだな」そんなことを考えながら。

ふと、背後に人の気配がした。
そっと振り向いた。

背の低い、汗だくの男が立っていた。薄い笑みを浮かべている。
「あちゃー」ハズレだと思った。
それに、すごい腋臭・・・

「ゆうさん・・ですよね」
「え、違います」もう逃げるしかない。
足早にコンビニの出口に向かう。
「ちょ、ちょっと」
おじさんは、呼び止めたが、あたしは無視して外に出て、一目散に走った。

ひたすら走った・・・
こんなに走ったことがないくらい走った。

気がついたら、学校の前に来ていた。
テニス部の部員たちが、大きな声をあげて、真っ黒に日焼けして、ボールを追っている。
「あ~あ、あたし、何やってんだろ」

千鶴に電話した。
「あはは、そりゃ逃げて正解だわ。ま、よかったじゃん。ユウキにはちょっとハードルが高かったかな」
あたしは、悔しかったけど、実際、車に乗ってホテルに行って・・・そんな自分を想像できないでいた。
「ユウキ、これから冷たいもんでも食べよっか。あたしおごるよ」
「うん。もうのどがカラカラ。でも駅前はやだよ。あのおっちゃんまだいるかも」
「わかった、わかった。学校の裏のファミレスでお昼食べよ。校門のとこで待ってて。すぐ行くから」
「は~い」

なんだか、あたしって、馬鹿みたい。

長い夏休みは始まったばかりだ。


ちゃんちゃん・・・

「てのは、どう」
「青春やね。優希ちゃん、ロストバージンしなかったか」
「かわいそうやんか。なんも知らんのに。あんなおっさんと」
「そのおっさんを登場させたんは誰やな。おっさんこそええ面の皮や」
「そやな・・・」

どうも、この手の話は今一歩や。
かっこいい男の子を相手に、ロストバージンさせてやってもよかったんやけどね。