バーボンを飲みながら、こういうのを書いてみました。

久しぶりに落語を一席。

ここ二、三日、朝方が涼しなって、小便が弾んで目が覚めますやろ。
みなさんもそんなことありませんか?

今日は、小便にまつわる商売についてのお話でございます。

商売とはおもしろいもんで、何が商売になるか常人には見当もつかんもんです。

「さぁ、こっち上がんなはれ。おまん(お前)なんぞ商売してんねんてな。最近はどうや?」
と、ご隠居さん、坪庭の見える部屋に、ハチ公を案内(あない)いたします。

「どないも、こないも、えらい損を出してしもて、元も子ぉもなくしてしもてから」
ごま塩頭をかきかき、ハチ公が言います。

「そら、あかんがな。元があって金儲けをするんやったら、金持ちばっかりが得して、わてら貧乏(びんぼ)人はいつまでもビンボしてんならん」
「さいでんなぁ」
「昔から言うやないか。裸で、物を落としたためしがないてな」

ハチ公は、タバコを一服つけながら、自分の吐いた煙に目をしばたたかせて、
「あんさん、そない言わはりまっけどな、わて、こないだ、裸で物を落としましてん」
「ほぉ。何を落としたんや?」
「風呂屋で、屁ぇ、落としまいた」
「ようそんなアホなこと言うてるわ。真面目に聞いてたら」
呆れ顔でご隠居さんが言います。

そして続けて、ご隠居さんがハチ公に顔を近づけて
「そんなして遊んでんねんやったら、ええ商売を教えてあげよ」
ぱっと、明るい顔になったハチ公です。
「おおきに。わてにできる商売がありまっか」

「そやな、ま、この日本も戦争に負けて、平和になってきたけど、まだまだ戦災の痕が癒えてないやろ?そんでや、一番先に復興させたいのが温泉地や」
「はぁ、温泉でっか」
「そや、温泉や。温泉地の旅館は昔ながらの二階建てで、二階には便所がないねん」
「たいていそうでんな。下まで降りていかんと用を足せへん」

「そやろ?ああいうとこへ遊びに行かはるひとは金持ちや。懐にどっさり金を入れて女と遊ばはんねん。そういう人らにな、下へいちいち用足しに降りんでも二階にいながらにして小便をさしたげよちゅう商売はどや?」
真剣に聞き入るハチ公です。

「なぁるほど。ご隠居さん、えらいわ。つまりやね「小便さし屋」てなわけやね」
「ちょっと語呂がようないけど、そういうこっちゃ」
「その商売するとして、どないしてさしたげます?」

「せやな、二間の竹おば、こうして節(ふし)を抜いてな、ほんで右手に小便担桶(しょうべんたんご)を持って歩くんや」
「ああ、わかります、わかりますよぉ」
「二階から声が掛かって、小便をさしてくれと言う人があったら、竹の先をタンゴに入れて、もう一方の竹筒の中へ、こう、小便をしてもらうんや」
手真似でご隠居さんが説明を付けます。

「あはは、こらおもろい」
「ほんで、金をもらって、溜まった小便は肥え(肥料)にして売るねん」
「二重に儲かるって寸法でんな」
「そや。ええやろ」
ご満悦のご隠居さんです。

「ボロい商売でんなぁ。なんぼほどもろたらええかな」
「そやなぁ、はじめての商売やし、十六円でどや?」
「十六円?どういうわけで」
「わけなんかあるかいな」
「半端な数字でっしゃろ?十六円てな金額、なんかその根拠がいりまっしゃろ?」
「ええねん、細かいことは。つまりや、シシの十六や。文句あんのか」
気色ばむご隠居さんに恐れをなしてハチ公は
「わ、わかりました。十六円でやらしてもらいます。わて、この商売やってよろしいねんね」
「やる限りは一生懸命にやるんやで」
「へい。おおきに、ありがとさんでした」
そう言って、ハチ公はご隠居の家をあとにしました。

あくる日、ハチ公はご隠居に言われたとおりに二間ほどの竹を竿屋からタダでせしめてきて、節まで抜かせてもろうてきます。
それで、法被(はっぴ)と腹掛けのいっちょ前の格好で、右手にたごを下げて、有馬(兵庫県有馬町)の温泉町にやってまいりました。

「しかし、どない言うて、客を取ろうかいなぁ。ご隠居は立前(たちまえ、売り言葉)を教えてくれんかったしなぁ」

「え~、誰ぞ、しょんべん、溜まってるひとおりまへんかぁ?」
これはおかしいかなぁ・・・
「え~、しょんべんのしたがってるひと。これも変や。二階からしょんべんさせまひょか?これがええな。え~二階からしょんべんさしまっせ、しょんべんのご用はございませんかぁ?どっからでもしょんべんさせまっせぇ」

旅館の二階で将棋を指す二人の温泉客がいます。
「徳さん、えらい長考でんな、そんな考えるほどの将棋でっか?早よ行きなはれ」
「そないぽんぽん言いないな。わかってんがな。さっきからしょんべんがしとうてな」
「ほなら、下の厠(かわや)にいてきたらよろしがな」
「そんなん言うて、わたいが下でしょんべんしてるうちに、あんたが駒をちょこっと動かしたら負けてまうがな」
「そんなことしまっかいな。早よ、行ってきなはれ」
すると、通りの方から、
「え~、二階からしょんべんさせまっせ。しょんべんのご用はおまへんかぁ?」
という声が聞こえてきました。
「徳さん、けったいな商売があるもんでんな。ここからしょんべんできるそうでっせ」
「んな、あほな」
「ほら、下に来てまっせ。わたい、呼んだげまっさ」
「ちょ、ちょっと待ちいな」
それには構わず、
「お~い、しょんべん屋ぁ」
と呼んでしまいましたよ。
「へ~い」
「ここからでもできるんかぁ」
「どっからでもできまっせぇ」
「徳さん、こっからでもできるて」
「ほんまにぃ」
「お~い、どないしてしたらええねん」
「簡単でおます。この筒の中にあんさんの筒をはめて、してもろたらよろしねん」
「おもろいな。ほなら、それこっちに貸してんか」
「へい、そっちにやりまっせ」
「あら、ええ具合に穴が空いて、ほならここにするで」
「どうぞぉ」
「ちょっと待ってや。いくでぇ。こら、痛い。下から押すなや。もうちょっとで怪我するとこや。自分で入れるさかいに」
「すんまへん」
じょろじょろじょろと勢い良くしょうべんが筒の中を流れて、用意した小便タゴに溜まっていきます。
「終わったで。なんぼや?しょうべん屋」
「へい、十六円です。その筒から落としておくれやす。ちょっとお待ち・・」
ちゃらちゃら、ちゃぽん
「待ってて言うてんのに、あんたのしょんべんの中に十六円が落ちてしもたがな」
「あ、すまんね。まだ先がタゴに入ってたんやね」
「ま、よろしおま。汚う働いて、きれいに食えと言いまっさかい。洗ったら元の金には違いないしね。もう一回りして、溜まった頃にまた伺います。おおきにさいなら」

母と娘の温泉客が二階でなにやら言い争ってます。
「おかあちゃん、わたい、もうさっきからおしっこしとうてたまらんねん」
「せやから、言うてまっしゃろ。あんた近いねんから、顔洗う前にしといなはれって」
「そやかて、おとうちゃんがこんな便所の長い人やと思てへんかったもん」
「おとうちゃんは、おしっこのキレが悪いんどす。なかなか終わらんのどす。ちょろちょろ後からにじんでくるんどす」
「おしっこしたいわ。もう出かかってんねん」
「こないなとこで、したらあかんがな」
すると、前の通りを
「どっからでもでけます。しょんべんのご用はおまへんかぁ」
としょんべん屋。
「ちょっと、ちょっと、おしっこ屋さ~ん」
「へ~い」
「こっからでもできまんのかぁ」
「へい、どっからでもできまっせ。この筒の中にしてもろたら」
「ほな、ちょっと娘が催してまんので。ほら、あんた、ここにしぃ」
「ええ~っ。ここにぃ?あのぉ、上見んように、下向いてておくんなはれ」
「へえ、わかりましたぁ」
そう言って、しょんべん屋は下を向きました。
「おかあちゃん、わたい、したいねんけど、出えへん。こんなとこ初めてやし」
「おかあちゃんも初めてや。けど、おとうちゃんまだかかるで。はよしぃ」
「丸見えやんか。もう」
「だあれも見てしまへん」
「なんか、違うなぁ」

「あのねぇ、うえで、ごちゃごちゃ言うてんと、はよしてくださいよぉ。下で待ってるもんの身にもなってくださいよぉ。外にこぼさんよおにね。ちゃーんと穴の中にして・・・え?あ・なんか暖いもんが伝ってきたで。わちゃぁ。顔に、かかったで」
そうして上をむいたハチ公は
「うわ、でっかいオメコ。こんなんやったらジョウゴを持ってこなあかんなぁ」

ちゃんちゃん

どやさぁ?