母の手紙、あたしは納得いかなかった。
だから、あたし、破いた手紙を、もう一度貼り合わせた。
(あたしは、いつものなおぼんではない、今日から科捜研の女になった)

おかしかないですか?

おかしいじゃないですか。

科学は疑うことですよね。
あたし、何度かそう言ったと思います。


どうして、「なおこは、私の子ではありません」という文だけが、はっきり読めたのですかね?

ここに、あたしがとても引っかかった理由があります。

水性インクのために、霧吹きで濡らして糊を溶かそうとしたから、流れてほとんど読めなかったはず。

だんなに、経緯を話しました。
「そやねん、この文だけ、油性のボールペンで書いてあるねん」とあたし。
「不思議やな」とだんな。

「にじんだとこは読めへんけど、ハイターで漂白したった。ほんで乾かして貼り合わせたんや」
「これがそうか?しかし、これやったらもう消えてしもてなにがなんやらわからんがな」

「ところがや、おかしなことに、書いたあとが残ってんねん。何か硬いもんで書いたようや。たぶん、つけペンやろな」
「ああ、カブラペンか。昔の人はよう使うてたな」

「ほんで、鉛筆でこするで」
こしこしこしと2Bの鉛筆でこすり出してみたら、くっきり字が浮き上がってきた。
「ああ、読めるなぁ、読んでみ、お前」

以下、本文を引用します。若干読めないところもあったけど前後から補いました。
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ご無沙汰です。

やっと見つけてくれましたね。

なおこ、あなたがこの文章を読んでるということは、母さんの仕掛けを解いたということですね。

きっちり糊付けしてあったのを、染み抜きではなく、ちゃんと水で溶かしたましたね。

よくできました。

でも、インクがにじんでしまったでしょう。

漂白剤を使って白くしたのかな。

鉛筆でペンあとをこすり出せたから、今、これを読んでいるんでしょう。

あなたなら、そうすると、母さんは思ってましたよ。

たぶん、「なおこは、私の子ではありません」(注、ここが油性で書いてあった)の文字で気づいたはずです。

しかし、あなたはこの手紙を破り捨てたんでしょう。
そして、また貼り合わせた。

だから、こうして、もう死んでしまった母さんと、再び会うことができましたね。
もう何年経ちましたか?あなたは、今、どうしていますか?
いくつになった?
元気ですか?

あなたは、あたしの子ですよ。安心してください。
そして、父さんとの間に生まれた子です。
あなたが疑っているようなことは決してありません。

「私の子ではない」という文は、あなたに謎を解かせる仕掛けだったの。

だから、そこだけ油性のボールペンで書いてたでしょう。

もし、あなたが間違って染み抜きを使ってたら、ここがにじんで読めなかったはずですし、第一、糊が溶けなかったはず。

ごめんなさいね。
こんなまどろっこしいことをしてしまって。

ありがとう、なおこ。
あなたがいてくれてほんとうに楽しかった。

先に逝く母より。
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以上で、引用を終わります。

あたしは、涙でもう、読めません。
「母さんは、あたしのすることみんな、お見通しや」


一度、退院してきたときに、死ぬのを予感してつくったんやろう。

母さんは、推理小説の好きな女性でした。
こんな、仕掛けを考えて、あたしが小さい頃から気にしてたことをメッセージにしてくれたんやね。

あたしが、解けなかったら、おしまいやった。

母が後ろにいて、なかなか手紙を見つけへん、あたしを突き動かしたんかな。

みなさん、お騒がせいたしました。