「ねえ、たかし君」
「なんだい?」
情事の後のベッドの中でおれたちは天井のシャンデリアを眺めるでもなく眺めていた。
「あなたはやっぱりひどい人ね」
「いまさら…」
「最後の電話、覚えてる?」
別れを告げた、最後の電話のことだ。忘れてはいない。
「もう会わない方がいいって言ったのよ」
「そうだった」
「あたしにどこか、いけないところがあって?それとも、ほかに好きな人ができたの?って、あたし問い詰めた」
「そうだったね」
「でも、たかし君はなんにも答えてくれなかった…あたし、悩んだ。そして、切られた電話の前で泣いたわ」
「ほんとに、すまなかった…」
おれは、そういうしかなかった。

「あのとき、つけっぱなしたラジオからスターダストレビューの『追憶(おもいで)』が流れて来たの。ほんとにタイムリーで、さらに泣けて、あたし、二度と男の人を愛さないでいようと思ったの」

愛が消えてしまえば 友達にもなれない
電話さえもかけられず
長い夜が悲しい追憶(おもいで)の糸をたぐり
あなたをまだ探してる
心から出て行って ひとりで眠ることができる
あなたの夢の中で もう一度ふれられたら
許してしまう そんな気がして

愛が少しだけでも あなたにあるなら
昨日なんかいらないわ
胸のすき間 涙でうずめてもこぼれ落ちて
あなたをまだ好きでいる
身体(からだ)から出て行って ぬくもりなんかなくていいの
あなたに夢の中で もう一度抱かれたなら
拒みきれない そんなそんな気がして

あなたに夢の中で もう一度ふれられたら
許してしまう…
許してしまう そんな気がして


(荒木とよひさ作詞、根本要作曲)

備え付けのカラオケで、真由美がこの曲を歌ってくれた。
歌い終わって、真由美がマイクをテーブルに静かに置いた。
「あたしたち、もう会わない方がいい…あたし、吹っ切れた」
「え?」
おれは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろう。
今までに見たことがないような爽やかな表情を真由美がして見せた。
「もう、出ようよ」
「あ、うん」
「さっきトイレに行ったらね、たかし君のあれ、いっぱい出てきて、止まらなかったよ」
「いやぁ、まいったなぁ」
「ありがと。たくさんくれて…」
そういうと、真由美の方からキスをくれた。
「奥さん、大事にしなきゃ…あなたしかいないんだから…あたしは、一人でも大丈夫、心配しないで…」
キスの後、おでこをくっつけて、つぶやくようにおれに言葉をかけた。

姉が弟に言い聞かせるように…

(おわり)