勃起力がペニスの「廃用萎縮」を防ぐのだと、吾妻厚生病院泌尿器科の石橋銑十郎医師がおっしゃる。
「陰茎ちゅうもんは、さながら風船みたいなもんでな、中から圧力をくわえたらなんぼでも膨らむんや」
「はあ」
還暦は超えておられるだろうが、年齢不詳のお医者だ。私は冷めたコーヒーをすすりながら、診察室を見回した。
「やっぱり、使わんと、縮むんですか?」
「そや」ときっぱり。
「そんでも、大きさは大きならないんでしょ?」
「陰茎の外の膜は硬い白膜でおおわれてるから、圧力で硬くなるんやけどな、始終内圧が加わってると伸びてくるから、少しずつ太くなるんや。わしはそのことに気づいて東亜医大にいたころ、一本の論文を書いた」
「へえ」
「つまりや。あんたに言うのもなんやけど、男はいっつも勃起させとらなあかんちゅうこっちゃ」
「いっつもって…」
「女と見たら勃起、手ぇでいじって勃起、満員電車でこすれたら勃起、ネコの交尾を見ても勃起。そういうこっちゃ」
「そんなに立つもんですかね」
「立つ、立つ。想像力よ」と、医師は自分のハゲ頭を人差し指でこつこつと叩く。
そして、
「あんたでも立つでぇ」
と、いやらしい目つきで言うのである。
「あたしでもって、せんせ、失礼やわぁ」
「いやいや、あんたはなかなかベッピンさんや」
「べんちゃら、言わんといてください」
「ほんまやで、ほら」
そういうと、先生の股間が山になっている。この年齢で、この高さはすごい。
「あらま。元気」
「ここの看護師のおばはんでも、あの、お尻で立つねん」
奥にいる、わたしくらいの年齢の看護師さんが後ろ向いてなにやら仕事をなさっている。
大きなお尻をして、パンツスタイルの白衣がぴちぴちに張り切っていた。
「あんまり立たしてばっかりやから、ハタチくらいのとき短小で悩んでたのが嘘みたいに、巨根になってしもたで」
「そんなに大きいんですか?」
「言うても十五センチあるかないかやな。でも太さがやっぱり違うな。あんたの手首ぐらいにはなるよ」
「うわ、ふっとぉ」
あたしは自分の手首を握ってみた。
「ハタチくらいのときは、勉強ばっかりしてたから包茎で、ほっそいペニスやった。風呂に友達と一緒に行くのがいやでなぁ」
「そうですかぁ」
「四十前かなぁ、あの論文を実践して五年ほどたったら、もうこんなに大きなってた。わしの予想は当たったわけや。機械は使うたらあかん。あくまでも自分の力で圧力をかけるんや」
「身をもって証明されたんですね」
「まぁな。とにかく硬く保つこっちゃ。この年になると、さすがに硬さが出んから、バイアグラの力を借りとる」
「へぇ。薬を使うんでっか?」
「少しな。するとどうや、朝立ちしよんね。もう中学生みたいにな。ははは」
「いややわぁ、せんせ」
私はいったい、ここへ何しに来たんだろう?
石橋先生のバカ話をうかがいに来たのだろうか?

「とにかく、今の男どもは、本当の自分のサイズを知らん。ぱんぱんに勃起させたことあるか?バイアグラでも飲んで、痛いくらい立たせてみぃ。こんなに太く大きかったかと見直すはずや」

そう、ほとんどの男性はフル勃起の自分の実力を知らないでいるようだ。
いつも短小だなと思っているひとは、まだまだ硬くなる余力が残っているのだそうだ。

良いオナニー、良いセックスとは、興奮がいや増して、痛いくらいに勃起しているかどうかで判断される。

私は、汽車で帰社した。