寝床に入り、仰向けに俺は、たばこをくゆらしていた。
「寝タバコは禁止」との貼り紙が枕元の和風スタンドについている。
紫煙が天井に吸い込まれていく。
木目がはっきりしているが年代物の天井板だった。

女将は、ああいうことを普段からしているのだろうか?
俺はさっき風呂場であったことを思い起こしていた。

寝られやしない…
童貞の俺には天地がひっくり返るほどの出来事だったからだ。
半身を起こして、灰皿に手を伸ばしてたばこを消そうとしていたとき、
「斎藤さん、もうお休みになりました?」
と、表で女将の声がした。
「へい」
返事をし俺は起き上がって、電灯の紐を引いて部屋の明かりを点けた。

この旅館の個室の玄関は格子の引き戸になっていて、そのすりガラスに人影が見えた。
「どうぞ、開いてます」
ガラリ・・・
浴衣姿の女将が盆を持って入ってきた。
「まだ起きてらしたの?はい、お夜食」
「え?頼んでないけど」
「いいのよ。サービス。お腹減ってるでしょ?」
「ええ、まあ」
お盆にはきれいな三角形の、おむすびがつややかに並んでいた。
上気した感じの熟女が、俺にこびるような仕草で寄りかかってくる。
ああ、こんな男にも、神が哀れんで「据え膳」をしつらえてくださっているのか?
「据え膳食わぬは男の恥」とは、なんかの本で読んだ言葉だった。
女将は明らかに俺を誘っている。


床(とこ)の横に、座敷机が壁際に寄せてあり、茶器などが乗っかっている。
そこに女将は盆を置き、
「お座りなさいな」
「はあ」
ぎこちなく、浴衣の前を合わせながら、俺は女将の横に座った。
女将は、おむすびに掛けたラップをはがしながら、
「さ、召し上がって」
「いただきます」
少し小腹が減っていたのだ。
すぐに二つを平らげた。

「美味しそうに食べるのね」
「えへっ。うまいっすよ。俺ね、大阪で一人暮らしなもんだから、こういうのたまんないな」
「まあ、そうなの?お一人?寂しいわね」
「寂しいですね」

「彼女とか、いないの?」
「いたことないです」
「どうりで・・・」
得心したように、女将が頷いた。
「え?」
「だって、触ってあげただけであんなに、お出しになるんだもの」
俺は急に恥ずかしくなった。

「すごかったのよ。全部、お湯を捨てちゃったわ」
「す、すみませんでしたっ」
「うふふふ。いいのよ、いいの。今晩は、お客さん、あなたしかいないんだもの」
「ほんと、そんなにたくさん出てました?」
「もう、かに玉スープみたいに」
「うへっ」
俺もおかしくなって噴き出してしまった。
「いいわ、今晩、あなたに教えてあげる。あたし、あんなの見ちゃったら体がうずいちゃって・・・」
女将は、上目遣いで、恥じらうように小さな声で言った。
なんという幸運!
こんな美しい女が俺に一晩を共にしてやると目の前で言うのだ。
湯上がりで紅を引いただけの素っぴんで、この美しさは、よほど高くつくのではなかろうかと不安にさせた。
それとも、明日になったら命を取られるんじゃないだろうか?
そんなことはそのときに考えれば良いことだ。

「脱ぎましょうよ。でなきゃ、なんにも出来やしない」
「そ、そうですね」
俺達は布団の脇で、浴衣を取り、下着になった。
女将はブラもショーツもしておらず、浴衣をはだければ全裸だった。
「お、おかみさん」
「やめて、そんな呼び方。ひでこって呼んで」
「ひ、ひでこさん」
「斎藤さんは、下の名前なんて言ったかしら?」
「達夫(たつお)です」
「たっちゃんね」
「あ、そう呼ばれてます。友達に」
「じゃああ、パンツ脱いじゃいましょう」
そう言って、俺のパンツの腰ゴムに手をかけてきた。
そのまま下に引き下げられたので、すでに勃起している分身がバネ仕掛けのように飛び出した。
「わお!」
「どうなんです?おれのって」
「どうって?」
「まあ、大きさとか・・・」
「男の人ってそういうの聞きたがるわね。たっちゃんのおっきいわよ」
お世辞でもうれしかった。
決して大きい物ではないはずだった。
銭湯でも引け目を感じている俺だったから。

あむ・・・
いきなり、ひで子は俺のモノを口に含んだ。
飴をしゃぶるように、丹念に、俺のが溶けてしまうんじゃないかと錯覚するような舐め方だった。
俺が立ち、ひで子が座って俺をしゃぶっている。
こんなことをしてもらえるなんて、無上の喜びだった。
思えば、風俗店にも行けなかった俺である。
そりゃあ、一度は行ってみたかった。
でも、勇気がなかった。

「ひで子さんには、ご主人はいないんですか?」
口を離して、
「いないわ」
「結婚しなかったんですか?」
「したわよ。別れたの…っていうか、逃げられたの」
「へえ」
こんな美しく、おまけに不動産まで持っている女を捨てるなんて。
俺は仕事柄、そういう見方が身についてしまっていた。

「借金があったのよ。今はもう返したわよ。あたしの体が目当てだったのね。飽きられたら逃げちゃった」
淡々とそう言ってのけた。
「さ、これを付けましょうか」
そう言うひで子の手にはピンク色の包みがあった。
避妊具だった。
ぴりっと端を破り、中から淡いオレンジ色のゴム製品が取り出された。
それをつまんで、俺の激しく勃起したモノにかぶせ、するするとゴムを下ろす。
ぴったりだった。
「こうしておかないとね。あたしも妊娠は困るの」
「ですよね」
「じゃあ、あたしが上になってあげるから、お布団に寝てくださいな」
「はぁ」
俺は、そのまま膝を折り、転がった。

女がかぶさってきた。
すぐに入れてはもらえない。
代わりに、長いキスがあびせられた。
生きた女の匂いが、俺を包み込んだ。
痛いくらいに勃起しているモノを彼女は上手に内ももに挟んで、邪魔にならないようにしている。
しかしその滑るような素肌の快感に、俺は再び外で、情けない最期を遂げそうな気がしていた。
避妊具がかぶさっているはずなのに・・・

「ひ、ひでこさん。おれもう、やばいかも」
「あらあら、もうだめ?」
優しい口調で、ひで子が耳元でささやく。
「じゃあ、入れて差し上げようかしら」
ひで子はそう言うと、身を起こして、見えるように俺をつまみ、草の茂った谷間に導いたのだった。
「じゃ・・」
にゅる・・・
「はあっ、かったぁい」
ひで子は顎を上げてのけぞった。
その煽りで、根本まで俺は呑み込まれてしまった。
熱い女の猛りを感じ、その深さにおののいた。
どこまで入るのだ?
しかし、じわりと締め付ける女の肉を分身に感じ、次第にひで子が動き出す。
「あふっ、久しぶりよこんな、いいおちんちん」
恥ずかしい言葉を惜しげも無く吐く熟女、ひで子。

俺の肩に手をついて、体重をかけて腰を振ってくる。
しっとりと汗に濡れた乳房が俺の胸に垂れかかる。
乳首同士が触れるか触れないかの微妙な距離感。
甘い女の汗の匂い。
はっ、はぁ、はっ・・・
「ひでこさん・・いいよ。きもちいいよ」
「そうでしょ?セックスはいいでしょっ!」
長くは持ちそうになかった。
もっとこうしていたかったが、刺激が強すぎた。
「あの、いっちゃいそうです」
「いいわよ。がまんしないで」
くねくねと器用にひで子の腰が振られて、亀頭を締め付けたまま肉筒でしごかれた。
何度も・・・
「あはっ、いぐっ」
どきゅん・・・

そんな感じで俺はゴムの中に大量に放った。
ひで子は優しく、それを感じながら俺にかぶさってくれている。
「よかったわよ」
息でそう言ってくれた。
おしまいのキスをして、俺達は離れた。
ひで子がゴム製品を丁寧に外してくれて、目の前に持ってきた。
「ほらこんなにいっぱい」
先が玉のように膨れたそれを見せられた。
俺ははにかんで、笑った。

(おしまい)