封切られた時にはたいそう話題になった映画です。
いろいろ受賞した作品でもあります。
これほど美しく不倫を描いた映画をあたしはしらない。
ミルトンの「失楽園」ではなく、渡辺淳一の原作「失楽園」であることは、言わなくてもわかりますわね。
濃厚なベッドシーン、ファックシーンに世のまじめな観客は生唾を呑みながら観たことでしょう。
AVの世界ならソフトもソフト、しかし森田芳光監督のキャメラワークは巧妙です。
局部の接写なしでもここまで「いやらしく」撮れるものか…
大島渚の「愛のコリーダ」に比肩する作品だと思います。
そしてAVにはない脚本のすばらしさ。
セリフが生きている。
黒木瞳の演ずる「松原凛子」は書家であり、「楷書の君」とあだ名されるほどの腕前。
その妖しい美貌は男たちの垂涎の的です。
もちろん彼女は人妻ですよ。
夫は柴俊夫が扮する大学病院の医師「松原晴彦」という設定で、お互い干渉しない仮面夫婦(子供はいない)。
不倫相手は役所広司が演じます。
彼の濃厚なセックスシーンは、黒木さんともぴったり息の合ったものです。
役所さんの「久木祥一郎」は敏腕な編集者という設定ですが、個性が強く営業部ともめて、じつは社内で干されている。
そして調査部という閑職に追いやられているらしい。
久木もまた妻も子もある。
彼らも家庭内ではお互い干渉しない夫婦で、その妻文枝(星野知子)はタイルのデザイナーとして忙しい。

久木と凛子は会えば必ずセックスするんです。
そして、着物姿、喪服姿、スーツ姿と殿方の妄想を掻き立てる書家「凛子」…
あたしが「筆おろし」で奇しくも似た(?)設定でお話を書いたことを思い出します。
凛子の友人の今井美都里(金久美子)が偶然にも、あたしのお話の師範、今井凌雪の娘で蒲生譲二の内縁の妻「今井美智代」に重なります。
あたし、まったく渡辺さんの「失楽園」を読んでいないのにね。

それはそれとして、こうまで不倫を美しく、そしてはかなく描いた作品は見たことがありません。
不倫をしてみたくもなりますわね。
久木がいやらしく凛子をなめまわす。
シャワーを浴びたいと申し出ても、「そのままがいい」と言われる。
あのアップの黒木瞳って綺麗は綺麗なんだけど、年相応の劣化もあって、これが中年不倫のリアルを表していて「あたしもこんなんかな?」と思わせてくれる。
正直「濡れました」!

凛子の「抱かれるごとに深くなっていく」とか、逢引の別れ際に駅で、久木が「送っていこうか」と誘うと「かえって離れるのがつらくなりますから」と反対の気持ちを伝えるところ。
こういったセリフが「クサく」ない。
二人だけの泊りの旅路で、海の見える露天風呂で交わるシーンは、凛子が久木の上になって、腰を入れつながることを「湯船の中」で観客に想像させるニクい作りです。
これはやったことある人が撮っていると思いましたね。
あたしも彼とはお風呂で必ず、ああやってつながりますもの。

ハンドキャメラを使った撮影など、のぞき見的な手法も織り交ぜて、秘密の逢瀬の雰囲気をかもしだしているのもよいと思います。

さっきの露天風呂の前のシーンで浴衣の凛子に、素っ裸の久木が「ここがよかった」とおまんこを浴衣の上から撫でていうんですよ。
「ほかの人とはできない。だってこんなにいいんだもの」と凛子が応じます。
すっごく即物的で、いいセリフ。
「もう一泊しようか」
言われてみたい。

しかし、こんな蜜月が長く続くほど世間は甘くなかった。
ばれるんですよ。
そりゃそうだ。
凛子の夫は興信所を使って妻の不倫をあばきます。
しかし、彼は離婚を受け付けず、そのまま凛子を苦しめることで腹いせをするのね。
一方で久木のほうは、妻の文枝がうすうす感じていたのでしょう、あっさり離婚を受け入れます。

最後は悲しい結末になりますが、二人のとった行動は純愛だったのだと気づかされます。
つながったまま、死を選ぶなんて。
腹上死じゃないですよ。言っときますけど。

いやぁ不倫っていいですねぇ。
世の夫さん、奥さん、よほどお相手のことを考えないと不倫されますぜ。