長崎に戦艦武蔵などを建造した三菱長崎造船所のドックがあります。
世界遺産に登録されている「ジャイアント・カンチレバー・クレーン」などがあります。
この造船所の歴史は三菱の歴史と言ってもいいくらいです。
というのもあの「グラバー邸」のトマス・ブレーク・グラバーに遡るからです。
トマス・グラバーは若干二十一歳で日本にやってきます。
1859年の今頃だったそうです。
スコットランドの故郷でトマスの父は沿岸警備隊員を辞めて造船所を作ります。
そういった環境でトマスも若くして実業に目覚めたのでしょう。
※彼の父も「トマス・ベリー・グラバー」といい、「トマス」ではどっちの人物を指すのかわからないのですが、この記事で「トマス」と言えば日本に影響を及ぼした「グラバー邸」の主人のことを指します。

皆さんもご存知のように、トマス・グラバーは「武器商人」とか「死の商人」などと後年呼ばれています。
それは以下の事実からもうかがえます。
トマスは日本に来る前に上海に訪れています。
彼の用向きは「東インド会社」から業務を引き継いだ「ジャーディン・マセソン商会」の営業でした。
この会社は「広東システム」のもと、アヘンの中国への密輸と茶の輸出で荒稼ぎをしていた会社です。

そこで開港したての日本の長崎を次の商売の目的地に選び、すぐに日本に渡ってくるのです。
若い実業家ですからフットワークが軽い。
ジャーディン・マセソン商会はアヘン戦争を裏で資金的に操ったロスチャイルド家から融資を受けていたと言われます。
その潤沢な資金は、なるほどと思わせます。
トマスは、日本に革命、武器の需要が生まれると感じ取っていました。
最初はおとなしくお茶や生糸、陶磁器、漆器などの商売をやっていたのです。
長崎にしばらく逗留するにつれ、その商人の嗅覚を発揮して「まさに動乱が起こる」と予感したんですね。
当時は幕府と尊皇派が対立して、日本が割れていた最中(さなか)です。
亀山社中(海援隊)、幕府軍艦奉行などと相手を選ばず武器弾薬を手配し、さばきました。
グラバー邸に坂本龍馬や岩崎弥太郎なんかを招いて商談していた記録も残っています。
ここに岩崎の名が出てくれば、長崎が造船、三菱財閥発祥の地であることもうなずけましょう。

トマスは長州五傑(伊藤博文、井上馨など)や五代友厚らの渡英留学(ほぼ密航である)の手配もしたとされています。

三菱造船の前身は小菅修船場という五代友厚らとトマスが計画して建設した「そろばんドック」とよばれる小さな造船所でした(これも世界遺産)。

坂本龍馬が不可能とされていた薩長同盟を成立させたのも武器とカネでした。
犬猿の仲と言われた薩摩と長州も龍馬(亀山社中)の話術とカネ、最新兵器の豊富さで「倒幕」という共通目的が簡単に達成できると思ったのです。
「今やらねばいつやるのだ?」
そう言われて、なびかなければ「志士」とは言えまい。
龍馬は彼らの琴線に触れる殺し文句でうまく瞞着したのです。
幕府を目くらましにする方法(偽装工作)は、武器弾薬を薩摩名義で亀山から買い、長州が兵糧を薩摩にバーターするというものでした。
この案もどうやらトマス・グラバーの指図のようですがね。
グラバーとしては武器が売れれば文句はないのです。
「最新兵器」というのも日本人にとってであって、実はイギリスでは旧式のアメリカ南北戦争の在庫品だったと言います。
NHK大河ドラマ「八重の桜」でそんなようなエピソードがあったような記憶があります。

英国大使ハリー・パークスとグラバーは薩長同盟を自分たちがなしえたと豪語していました。
坂本龍馬は傀儡だったと言わんばかりの発言ですが、あたしはそうは思わない。
龍馬の熱心さ、人となりが桂小五郎らを説得しえたのだと思います。
外国人がそのままやってきて薩摩や長州の人物に何ほどの熱弁が通じましょう?
坂本龍馬なしには、やはり薩長同盟は成らなかったと思いますよ。
その後ろに資金や兵器という「実弾」が見え隠れするから話に信ぴょう性が生まれるのです。

グラバーはしかし、日本の近代化において重要な九州炭鉱の開発に資金を流し、明治期の殖産興業の一翼を担う拠点の礎を築いたのです。
明治期の日本での商売が行き詰まり(投下資金の回収ができなくなった)、グラバーは倒産してしまいますが、日本にとっては三菱などの財閥の種を蒔いた重要な人物と捉えられています。

近年、坂本龍馬が「倒幕」から「公武合体」に思想を変更したのはなぜか?という問いかけがなされています。
不思議ではありますが、あの時代、折衷案という和平工作も必要だったと彼が感じていたのではないでしょうか?
勝海舟の「無血開城」などはそういった考えの表れと思います。

平和主義者の龍馬が「公武合体」に傾斜するのはわかるような気がします。
ただそうされると困るのはトマス・グラバーなどの武器商人ですね。
それから龍馬の意見に従った薩長の連中でしょう?
「話が違うではないか」と。
龍馬暗殺はおそらく彼らの差し金だと思います。
佐幕派の犯行ではないような気がします。
とはいえ龍馬は京都に散り、薩長は会津を滅ぼし、五稜郭まで佐幕派を追い詰めます。

さてフランス革命やアメリカ独立戦争など動乱の裏には「フリーメーソン」が暗躍していたなどという話も聞きます。
明治維新も例外ではないと。
あたしはその真偽を見定めることはできません。
トマス・グラバーもフリーメーソンリーであったから、そうだと言えるのか?
ロスチャイルドの影響があるのは認めます。

三菱という財閥はたしかにトマス・グラバーなしには生まれなかった。
日本に企業とか財閥という資本主義の申し子を植え付けたのはトマス・グラバーだと言ってもいい。
そうして、お金が国を作り、国を経営する近代の「国家像」をいち早く明治日本になじませたのです。
「富国強兵」「殖産興業」と歴史の授業で習う四字熟語はそれを表しています。
資本主義軍事国家がここに現れたのでした。
強さは「お金」と「軍隊」であると、日本は言いきって、太平洋戦争が終わるまで実践してきたのです。
ただ、悲しいかな、この考えは現代も連綿と日本の奥底を流れています。
いつかまた、地表に穴を穿って噴出するのでしょう。