横溝正史の原作映画で『蔵の中』という佳作があります。
松原留美子という「ニューハーフ」の俳優さんがヒロイン役として抜擢され、そこそこ話題になりましたんで、ご存じの方もいらっしゃると思います。
大学生の多感な頃にあたしなどは観たものですから、その影響は大きいです。
夏休みになると再び観たくなる映画です。

あたしの創作に、土蔵や近親相姦がよく出てくるのもこの作品の影響が大きいですね。
※もっとも、高安の土蔵のある旧家で、従弟と早いセックスを経験したことも影響大です。

松原留美子扮する蕗谷小雪と弟の笛二(ふえじ)は仲の良い姉弟です。
小雪は胸の病気で蔵の中に閉じ込められています。
姉が喀血して喉を詰まらせ、それを弟の笛二が自らの口で吸いだすという、えげつなさが、二人のただ事ではない関係を示唆します。
小雪は聾唖で、読唇術を会得し、笛二もそれが使えるから、二人の会話が成り立つらしい。
その読唇術によって、ある男女の不倫をあばくことから、もうひとつの物語を構築します。

男女が姉弟とはいえ、年頃でかつ密室で生活をともにすれば、肉の関係になってしまうのは火を見るより明らか。
おまけに、病弱な姉を献身的に世話する弟が、その柔肌に情欲をかきたてられ、過ちを犯すのよ。
バックに流れるのが「遊びせむとや生まれけむ」という梁塵秘抄の有名なフレーズ。
「遊び」とは「戯れ」、「肉欲の戯れ」よ。
人はそれをするために、生まれてくるのだという「業(ごう)」。

女優がニューハーフということで、この映像は男の子同士のカラミという点でも新しい切り口でした。
だから嫌らしくなく、むしろ美しさが増すのです。
あたしなんかには、彼女(?)の横顔は岸田劉生の「麗子像」を彷彿させるのよ。
そう、怖いの…

並行するお話(大事な伏線)は中尾彬扮する、磯貝という出版社の代表、そして吉行和子扮する彼の情婦の愛憎劇。
どちらも若いから、吉行さんはきれいだし、ちょっと上戸彩に似てて、気の強い、淫乱な体当たりの演技です。
濡れ場はシルエットとかを使って、この映画はどこにも女性の裸はでてきません。
吉行さんは、首を絞められてエクスタシーを感じる女性らしく、中尾さんも絞めるんです。
裸といえば最後に、弟の男優さん(石川遼に似ているけど名前がわかんない)が全裸で出てきます。
男より女の観客へのサービスが旺盛なのね。
『ビリティス』という洋画がそうであったようにね。

さてその磯貝らの情交が、主人公姉弟の隠れている蔵からまる見えなんだ。
さらに、蔵にあった「遠眼鏡(とおめがね)」で若い二人は、磯貝たちのあられもない情交をずっと覗いているんだよ。

胸を患って喀血する姉と肌を重ねる弟は、次第に同じ病に蝕まれていく。

磯貝(中尾彬)は妻を毒殺し、その財産をほしいままにしたと情婦(吉行和子)が責め、自分と入籍することを迫る。
もとよりそんな気のない磯貝はのらくらと取り合わない。
磯貝は彼女から金を借りており、返していない。
ある日、もめて激昂した磯貝は情婦を絞殺してしまう。
もちろん、その一部始終を蔵の窓から姉弟は見てしまった。

姉の小雪は弟、笛二に「あのように首を絞めて殺してくれ」と懇願するの。
もう先は短いと悟った小雪は、愛する弟に綺麗なうちに死にたいと言うのよ。
泣けるわね。

笛二は、逡巡した結果、自身も不治の病に犯されて喀血したことから「もはやこれまで」と思ったのか、姉の首に手をかける。

この話は本当にあったことなのか?
笛二の書いた小説「蔵の中」の世界なのか?
しかし、その中には原稿を持ち込んだ先の磯貝の凶行の顛末がつぶさに描かれていた…
笛二は磯貝に追われる。
磯貝は笛二を追い詰め、絞め殺そうとするが、途端、笛二は消え失せる。

蔵の中では化粧して女装し、変わり果てた姿の笛二の死体があった。
首にかんざしを突き立てて事切れていたんです。

すべてが夢のなかの出来事だったのでは?
姉の小雪なんていう娘は最初からおらず、その蔵の中には笛二という少年だけが住まっていたと女中は言う。
小雪と笛二は同一人で内面と本人のあわせ鏡のような存在だったのか。
ならば松原留美子というコスプレイヤー、クロスドレッサー、ナルシストを笛二の内面像として持ってきた監督の手腕に拍手を送りたい。