なんでもコツコツやると最後には大きなものができあがるものだ。
日本人はこういったことが得意だとか、日本人の美徳はコツコツだと言い切る人もいる。
それは言い過ぎで、どこの国でもそういう人はいるものだ。
たとえば元素の周期表を作ろうとした帝政ロシア時代のドミトリー・メンデレーエフがコツコツの人だ。

彼のほかに元素の周期性に着目していろいろやってた人はいたのよ。
イタリーのカニツァロとかね。
でも、どうも途中でうまくいかなかったのか、投げ出してしまっている。

メンデレーエフはそれこそ、丹念に、原子量の順、酸化数とかに注目し、性質の似通ったものをああだ、こうだと並べていったのよ。
大変な時間がかかったと思う。
彼は、いわゆる古いタイプの化学者でね、あまり物理的な素養はなかったみたい。
だから、晩年は当時の日進月歩の科学の進展についていけなかったとも伝えられている。

メンデレーエフが、元素の並びには周期があって、どうやら原子量の順に並べていくと地球のありとあらゆるものはこれら元素で形成されていることに気づくのよ。

彼が周期表というものを作り上げ、それが名実ともに「正しい」と当時の人に思わせたのは「エカケイ素」の存在を予想し、のちに予想通りに「ゲルマニウム」が発見されたことかもしれない。
ゲルマニウムの物理的な性質は、メンデレーエフが予想した数値とほぼ同じだったんだ。
「エカケイ素=ゲルマニウム」となって、長らく空白だった周期表の部分が埋められたのです。

メンデレーエフは最初の妻との関係が悪化し、別居状態になってしまう。
彼女との間には二人の子がいたらしい。
その別居状態で、あろうことかメンデレーエフは若い画学生と恋に落ちる。
この道ならぬ恋は、彼女の父親の反対もあって、引き裂かれる。
画学生は、彼女の父によってロシアから遠いイタリーに退けられたのだった。
メンデレーエフは、なかなかしつこいところがあって、イタリーまで彼女を追っていくのよ。
周期表の仕事も道半ばなのにね。
好きな物事には無我夢中になるメンデレーエフの、良くも悪くも出てしまう性格なのね。
当然、先の妻との離婚問題が浮上します。
イタリーでどうにか、その離婚が成立し、画学生と所帯を持つけれど、大学の給料から先妻に生活費として毎月仕送りをしなければならい。
彼は『化学原論』という大著を著していたから、その印税は先妻にやらんでよかったので、せっせとそっちの改訂の仕事をやっていたというしたたかな部分もあったみたい。

メンデレーエフは「エーテル」の存在を信じていました。
だから、急速に発達した原子物理学についていけなかったのね。
「エーテル」とは真空中にも存在すると思われた光などを伝える媒質で、エーテル信者によれば光の振動はエーテルの振動が伝えると考えていたんだ。
麻酔性のある有機溶剤の「エーテル」とはなんの関係もないからね。

この「エーテル」は数学者レオンハルト・オイラーが提唱したんだ。
この天才がニュートンの光学の考え方に異議を唱えていたんだね。
オイラーもまたコツコツタイプの男で、スイスのバーゼル出身だけれど、ロシアのサンクトペテルブルクでずっと研究していたというから時代は違うにしてもメンデレーエフと縁があったんだね。

オイラーの等式e^(πi)=-1はあまりにも美しく、あたしなんか「ほんまかいな」と僭越にも疑ったくらいだった。

これは複素平面を使えばなんのことはない、三角関数から当然に導かれる式なんです。
そういうことを発見してくれたのがまさにオイラーだったんだね。

e^()=cosθ+isinθ
この式はオイラーの公式とも呼ばれ、複素平面の作図から明らかで、θ=πつまり180°と置けば、オイラーの等式になります。
オイラーは若いころ病で片目を失い、晩年にまったく光を失うのですが、盲目になってからの業績も半端なかったと言います。

交流理論の電気数学において、スタインメッツが複素平面を持ち込んで、あのややこしい三角関数の呪縛から解放してくれたのですから、オイラーさまさまですね。
スタインメッツは左翼運動家でもあり、ドイツでの「赤狩り」に追われてアメリカに亡命してGE(ゼネラルエレクトリック)の技師になったんですよ。
交流送電が有利か、直流送電かでエジソンと争った男です(世にいう電流戦争)。
天国のオイラーは交流電源のことなどまったく予想だにしていなかったでしょうね。
でもオイラーなら天上からすぐに理解して微笑んでいたことでしょう。

科学者は偉大です。
洞察の鋭い彼らは、人々に幸せをもたらしてくれたのです。

原発だってね、道半ばなんですよ。
なにも間違った理論じゃない。
人間がそれを扱うには、まだまだ洞察が足りないだけなのだと思いますよ。
科学には人類が扱えるものと、そうでないものがあるというだけのこと。
行き詰ったからといって、科学することをやめてはいけない。
あたしはそう思うのです。