季節外れの風鈴が寒風になぶられている。
まるであたしのようだ。
「なおぼん!DHLはいつ来るねん?」と社長。
先週末から輸出業務に忙しくしていた。
こんな零細企業でも、この世の中、海外からの引き合いはあるのだ。
「十一時にネットで予約入れたぁります。ほんで、コマーシャルインボイスは用意できてますの?」
「プロフォーマとちゃうのかいな」
「コマーシャルですって言うてましたやろ。プロフォーマは無償の場合やて」
「たぶん…こんでええのとちゃうかな」
中村君がA4一枚のインボイスを持ってきた。
「あ~、ちゃんとFOBになってるな…これでええわ。ここ、社長のサインを書いて、コピーを三部取っといて」
「はぁい」

「Hello! Naoko Yokoyama speaking. I sent out baggage on February thirteen. And…Just moment…」
ここんとこ、香港からの電話が一日何回かかかってくるので、応対はあたしがする。
林(リン)さんからだ。
電子関係の商社の男性で、声でしか知らないが、若い人だと思う。

Itemやら、数量が合ってるか検算して、日本円でいくらで、重さがどれくらいで、
そんなようなことを午前中に書類に書き込んでおしまい。

あとはアルミの部品を表面処理の会社にアルマイトをつけてもらうように送りつけなければならない。
アルマイトとはアルミの地金が錆びないように酸化被膜(アルマイト)をつけてもらうのだ。
だいたいメッキ屋さんがやってくれる。
アルミの電気酸化という実験を学生のころ、やりませんでしたか?
工学部の出身者ならぜったいやってると思うけど。あれです。

このアルマイト処理は日本独自の技術で、戦前に理化学研究所が開発したの。
だからか、日本にはアルマイトのお弁当箱やらヤカン、お鍋が多いわけ。
ヤカンや鍋はちょっと黄色いアルマイトで、あれはたぶんシュウ酸を入れるんだよ。
アルマイト処理をしたアルミは電気を通さない。
酸化被膜が絶縁体だから。
この性質を利用した電子部品がチップコンデンサーです。
キャパシタとも言うね。
導体(アルミ)と不導体(アルマイト)を交互に重ねるとコンデンサーといって静電気を溜めることができる。

と言うているまにDHLが派手な黄色の車で品物を取りに来た。
※DHLというのは国際運送会社の一種で、FedExとかUPSとかの同業者。

風鈴のベロにぶら下げてあった短冊はちぎれ、却ってせわしく鈴(りん)を鳴らす。