受精とは神秘的な現象です。
生物の発生の起源ともいうべき化学反応です。

受精に至るまで、私には次の二つの疑問がありました。
① 精子がどうやって卵子と出会うのか
② 受精した途端に、遅れて来た精子が卵子に拒否されるメカニズム

順番が前後するが②から、わかっていることを述べていきましょう。
卵子に最初に到達したチャンピオンの精子は、すぐに「表層顆粒放出」という現象を惹き起こします。
これによって「多精子受精拒否」が起こり、受精卵はある種のバリアーに包まれて、次々に到達する精子を中に入れさせません。
これが②の解答です。
もう少し詳しく述べると、「表層顆粒」というものが受精前の卵子の「表層」に準備されており、最初の精子が卵子に到達し、その精子が「表層顆粒」を活性化させて卵子の外に「顆粒」をまき散らすのです。

その「表層顆粒」は活性化すると、卵子の表面を覆っている多糖類の膜を「硬化」させるらしい。
その硬化反応は素早く、硬化終了した膜を「受精膜」と呼びます。
それでも「同時受精」などの、受精膜の硬化をすりぬけた多精子受精が起こることも稀にあり、そういった発生現象は「準一卵性双生児」などと呼ばれます。
普通の「一卵性双生児」と「準一卵性双生児」は異なりますし、「準一卵性双生児」はかなり珍しい発生であり、ヒトでは数例しか知られていません。
「一卵性双生児」は正常に一つの精子と卵子が受精したのに、受精後に多胎となるものをいい、染色体異常や二重体児という奇形も起こりやすいと言われています。

受精前後における表層顆粒の形成と分泌の時間的制御機構(佐藤健 群馬大生体調節研究所)

受精後、ただちに精子は表層顆粒の放出以外に、卵子が停止させている減数分裂を再開させるように促し、前核形成の準備をおこなっています。
卵子は排卵後、減数分裂をはじめているけれど、受精するまで分裂抑制因子によって停止させているらしく、受精とともに、その分裂抑制を解くことによってふたたび減数分裂が再開されるのです。
この一連の反応を「卵活性化」と呼ぶようです。
哺乳類における「卵活性化」に必要な化学種がカルシウムイオンだというのが次の論文です。
受精時におけるカルシウムイオン制御機構(伊藤潤哉 麻布大学獣医学部動物繁殖学研究室)

反復的なカルシウムイオンの濃度上昇(カルシウムオシレーション)が「卵活性化」に必要なのだということが明らかになりました。
カルシウムオシレーションを惹き起こす因子は精子側にあるとされます。
ゆえに受精卵であることが必要条件となるのです。

カルシウムオシレーションについては理研の次の研究があります。
受精カルシウム波

「受精カルシウム波」とは、受精後に卵子内に生じるカルシウムイオン濃度変化が伝搬していく現象です。有性生殖一般に見られる現象で、その伝搬は一過性の場合も、振動性の場合もあるそうです。

さて①の精子がどうやって卵子をめざして泳いでいくのかという疑問です。
これは東京大学のチームが次のような発表をしています。
精子走化性運動におけるカルシウムの役割

「精子走化性」という現象がまさに、目を持たない精子が卵子を目指して、あたかも見えているかのように到達することをいいます。
卵子の発するカルシウムイオンが精子の鞭毛運動を制御し、その濃度の濃い方向に誘導するように精子の鞭毛に働きかけるというのです。
つまり精子が能動的に動くというより、卵子が精子を誘導しておびき寄せているのだというのです。
しかし、精子のほうも、競争に勝たねばなりませんから、卵子のカルシウムイオンが示す情報にいちはやく反応せねばなりません。
そう言ったやり取りには、どちらが能動的でどちらが受動的という当てはめは成り立たないのかもしれません。
精子の鞭毛は卵子の発するカルシウムイオン情報によって、あるときは全速力で回り、あるときは急旋回して方向を変えるなど、ダイナミックに運動するそうです。
鞭毛は「むち」のように動くのではなく、らせんに動いて、粘性のある体液の中をネジのように「掻いて」いるのだといいます。

受精とは、おどろくべきドラマなんですねぇ。
オナニーばかりしていてはいけませんぜ。