今日は、この火のついたロウソクの炎の部分にガラスの筒(昔の人はホヤと言います)をかぶせて、炎の形を観察しましょう。
こうすると、炎が風で揺れないのでじっくり見ることができます。
ロウソクの炎無題

ホヤがないと、炎は周りの空気の流れによってじっとしていませんから、このように観察することは難しいのです。
炎は芯をまん中にして、だいたい長い楕円形をしているように見えます。
そして、炎は先端が最も明るく、下へいくほど暗いように見えます。
芯の近くの炎の底面に当たるところが最も暗く見えますが、それは明るい部分より燃え方が不完全なためだと考えられます。
ここに私の友人のフーカー先生が鯨油ランプの炎を研究していたときのスケッチがあります。
この絵はロウソクの炎にも当てはまります。
ロウソクのカップの形が、ランプの鯨油が溜まっている皿の部分になります。
芯はロウソクと同じ、木綿糸です。
フーカー先生は芯の上に小さな炎を描いていますが、皆さんには見えない部分まで忠実に描かれています。
炎に向かって昇っていくかなりの量の物質がありますが、それが描かれています。
科学にあまり関心のない方にはピンと来ないかもしれませんが、少しばかり科学に興味がある、ことに理科の時間が得意だった人には自明のことかもしれません。
つまり、炎にとって必要な、いつも炎とともにある「空気の流れ」をフーカー先生は描いておられるのですよ。
気流が発生し、それが炎をかなりの高さにまで、上に引き上げているんですね。
炎を日なたにおいて、白い紙に影を落としてみましょう。するとその気流が見えるはずです。
明るい炎が太陽の光を浴びて、炎の影を作るということ自体が不思議ですよね。
このようにして、私たちは、炎の部分ではなく、炎を上に引き上げる流れを見ることができました。
では、室内でそれを再現してみましょう。
部屋を暗くして、電池につないだ電球を点けます。
これが太陽の代わりです。
※ファラデー先生は自作のボルタの電池を使ったようだ。電球はエジソンランプだろうか?

この電球と白い投影版(スクリーン)の間にロウソクの炎を置きます。
ほら、スクリーンに炎の影が映し出されましたね。
フーカーさんの絵のように、暗い部分と、もっとはっきりした部分があることが分かりますか?
とても不思議なのは、炎が一番明るい部分の影がいちばん濃いんです。
つまり暗くスクリーンに映っているでしょう?
それからフーカー先生が描いていた上への気流が見えますか?かげろうのようにゆらゆらと立ちのぼっているでしょう?
この空気の流れが炎を上に引き伸ばしているんですね。
これを上昇気流と言います。
上昇気流が、炎に新しい空気を引き込んで与え、さらに遠くにあるとけたロウを冷やすことでカップの縁ができあがっているのです。

気流によって炎が上にも下にも動くことを示してみましょう。
これは綿にアルコールを染ませたものです。
このアルコールには炎をよく見えるようにするために塩化銅という炎を緑色にする物質を少し溶かしてあります。
このJ字型のパイプは気流を下向けにすることができる簡単な装置です。
ではこの綿に点火しますよ。
緑の炎が見えますか?これをパイプの短いほうの口に持っていき、もう一方の背の高いほうの口を真横から私が息を吹きます。
どうです?上に向かっていた炎がパイプの口のほうに引き寄せられて下向きになりませんでしたか?
私が息を筒口の真横から勢い良く吹いたので、パイプの中の空気が吸い上げられ炎に近い低い方の筒口には下向きの吸い込む気流、つまり下降気流が生じたのですね。
このように、気流の向きによって炎の向きも変わるのです。
ロウソクの炎がゆらゆらと揺れてじっとしていないのは、炎の周りが作り出す気流のせいだったということですね。
私たちが炎をより詳しく観察するために、炎をじっとさせたいと思うなら、それは写真に撮る事しかないでしょう。
もうひとつ、重要でおもしろい実験をお見せしましょう。
綿の玉に、さっきと同じようにアルコールを染ませて火を点けますよ。
この火は、ロウソクの火とどこが違いますかね。
まあ、炎の大きさがまず違いますね。
よくみると、ロウソクでは筆先のような尖った感じの炎だったけれど、綿玉に灯した炎はあちこちから舌のように炎が上がっています。
なんでこうなるんでしょうかね?
この秘密が分かれば、この後の私の話にも、たやすくついてこられるでしょう。
みなさんは「スナップドラゴン」という遊びをしたことがありますか?
スナップドラゴンほど、炎の科学を究めるのにふさわしい遊びは無いと私は思いますね。
ここにお皿を用意します。
スナップドラゴンを上手に遊ぶには、お皿をよく温めておくことが肝要です。
それから干しブドウも、ブランデーも温めておきましょう。
このお皿にブランデーを少々注ぎ、干しブドウをここに入れます。
もうみなさんなら、このブランデーがロウソクにおける、とけたロウに当たり、干しブドウが芯に当たるものとおわかりでしょう?
ブランデーに点火します。
※この遊びはハロウィンでよくおこなわれるもので、火の中の干しブドウを素手で拾い上げて食べるという肝試しのようなもの。

私がさっき言ったように、干しブドウの集団に火が回って、炎の舌があちこちから不規則に上がっていますね。
これは皿の中の気流が、乱立したそれぞれ炎のせいで一様になれないからです。
つまりたくさんのロウソクの炎が密集したことと同じです。

炎は、同時に見えるからと言って、特別な一つの炎と考えてはいけません。
炎はその場の条件でさまざまに変化する、まったく「みかけ」の姿に過ぎないのです。
一つとして同じ炎はないのです。
私たちには一時に見える炎も、連続して生まれ消えていく炎の状態を切り取っているにすぎません。
ただそう見えているだけで、一時も炎は休んでいないのです。

第一講 おわり