和之は鍵を開け、家の玄関で靴を脱ぐと、その足で自分の部屋に急いだ。
家に誰もいないことを知っていたので、ベルトを緩め、ズボンとパンツを脱ぎ棄て、シングルベッドの上に仰向けに倒れる。
そして赤く勃起した分身を握りしめ、さと江の移り香を嗅ぎながら、激しくしごいた。
「おおおっ!さとえっ!」
あえなく噴射された精液は、和之の顔に降り注いだ。
「うっぷ」
青臭い精汁の匂いが、締め切った部屋に満ちる。
和之は、情けない気持ちで、ティッシュペーパーの箱を引き寄せ、後始末をした。
「ようけ、出たわい」
あまりの興奮に、しばらく勃起が収まらなかった。普通なら、もうしぼんでしまっているのに。
精液を吸って重くなったティッシュのボールをくず入れに放り入れると、パンツを履いて、パジャマの下に履き替える。
まだ、ずきんずきんとペニスがパンツの中で鼓動していた。血が集まっているという感じだった。
「さと江の匂いって、なんか、すごいな」
女の子の匂いというより、もっと野性的な感じがした。
さと江をもっと好きになった和之だった。
「でもなぁ、おれのほうが背が低いしなぁ」まだ、そのことを気にする和之だった。
実は、背だけでなく、性器も貧弱なんじゃないかと密かに悩んでいたのである。
「おれの、小さいもんな。やっぱ」
比較対象がないのに、取り越し苦労だと自分では思っていたが、中学の修学旅行のとき、同級生のもののほうが立派に見えた記憶があった。
チラ見しただけではあったが、自分より体格の良い彼らの股間には、重そうに揺れるペニスが誇らしげに見えた。
その頃に比べれば自分も成長しているはずなのだが、どうもコンプレックスが勝ってしまう。
「マスをかきすぎると成長が止まるって本に書いてあったな」
「そうや、背が低いのもそのせいかもしれへん」
和之は一人煩悶していた。
「頭まで悪くなると書いてあったような」
いろんなマイナスな面だけが、和之の脳裏に渦巻いていた。

中川みどりに言われた「背の低いのは遺伝する」という言葉を和之はひどく気にしていた。
「おやじも背が低いし、アレも小さいみたいだし、親子で似てるよな」
和之の父と風呂屋に何度か行ったことがあるが、父のそれは、毛の中に埋まっていた。
父も恥ずかしいのか、タオルで隠していたっけ。
「たぶん、おやじのは包茎やな」
そういう和之も、普段は陰毛を巻き込んで痛い思いをする仮性包茎だった。
このあいだ散髪屋で読んだ『ホットドッグプレス』の記事で包茎は短小になるとか、普段から剥いておくと包茎は治るとか書いてあったことを和之は覚えていた。

さと江と、もし「関係」を持つことになったら、自分の性器を見てどう思うだろう?
そんなことまで考える和之だった。

二人の関係はしかし、さほど進展はしなかった。
さと江は依然として、木で鼻をくくったような受け答えしかしなかったし、和之もどう話しかけてよいのかセンスも技術もなかった。
たとえば、手紙を渡すとか、意を決して電話を掛けるとか、そういうことがまったくできない男だった。
はっきりいって、普通の女からしたら何の魅力も感じない男が志木和之だった。
さと江も、あの慈光寺の石垣での告白で、和之に心を動かされたものの、だんだん冷静さを取りもどしていて、和之の「幼い一途さ」に期待などしていなかった。
和之は自慰で、悶々とした想いを昇華させて満足し、さと江はというと好きな漫画の世界に没頭し、十七の夏が過ぎていった。
さと江は、いつしかポニーテールを止めてしまい、元通り左右に振り分けている。
ただ、オナニーだけは続いていて、ヤングアダルト漫画を「おかず」にしていた。不思議と和之を妄想に登場させることは無かった。それよりも、妹のみち子に見つからないようにすることに注意を向けていた。

秋空が高くなるころ、二人の心は、それぞれに離れていき、秋の修学旅行でも何一つ進展がなかった。
三年進級に向けて、進路別にクラス替えがあるということが、二年生のもっぱらの関心ごとであり、和之も大学受験を目指し、志望校や模擬試験の資料などを取り寄せていた。
さと江はしかし、皆が目指す大学に、さほど興味を持っていなかった。
むしろ、就職組に入って、はやく親から独立したかった。

(つづく)