ソケットレンチを発明した「スナップオン」という工具メーカーはクルマを趣味にしている人なら知らない人はいないだろう。
この会社はアメリカの法人で、日本ではスナップオンジャパンが輸入を一手に引き受けている。

ソケットレンチに縁のない人は、知らなくても生活に困りはしません。

日本にもスナップオンを意識して、ハイレベルな工具を提供している会社が京都にあります。
KTCブランドの、京都機械工具株式会社です。
これもまた機械工やクルマを趣味にしている人なら知っているはずです。
ここのスパナやレンチは耐久性、外観、精度においてすばらしいものがあります。

京都機械工業の前身である、京都機械という会社は、染色機を作っていました。
戦前からあった会社で、戦時中は海軍航空隊で使う整備工具を提供していたらしい。
染色機は京都ならではの機械であり、平和なころは需要もあったが、戦時色が強くなるにつれ、やっていけなくなったそうです。
創業者の齋藤喜一氏は津田駒工業の出身で、津田駒といえば、織機(ジェットルーム)のトップメーカーです。
豊田織機や日産織機よりもシェアがあります。
日本の自動車産業は自動織機が前身だったのです。

私も、以前は化学工場でウォータージェットルームの合繊用糊剤の研究に携わっていましたので、良く知っているのです。
織機というのは経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を撃ち込んで布地に織っていく機械です。
緯糸を撃ち込むには、手織りの場合、杼(ひ)、つまり「シャトルルーム」というものに巻いた糸を経糸に対して直角に左右に往復させて織ります。
そのシャトルを力(りき)織機(機械織り)では、エアガンのエアで糸先を飛ばすもの(エアージェットルーム)、高圧の水で糸先を飛ばすもの(ウォータージェットルーム)の二種類が存在します。
エアガンやジェットの出口は左右に備えられ、交互に射出されるので糸先が往復することができる仕掛けです。
これだけでは織れないので、経糸にも仕掛けがあります。
平織(ひらおり)の場合、経糸を一本おきに上下に分けて、緯糸が縫うように撃ち込まれなければ織れません。
この上下に分ける機構が「
綜絖(そうこう)」といい、手織りでもペダルでその操作を行います。
緯糸が通った時点で、筬(おさ)で締めていきます。
筬は櫛状の仕組みで、これも手織りの場合は、職人が手前に手で引いて「トントン」と緯糸を締めていくのをご覧になった方はあるかと思います。
力織機ではすべて自動でこれを行います。

で、私たちが研究していた糊剤は原糸に糊をつけて固めることで、織りやすくするためのもので、織物に必須なんです。
糊付けのない糸を織機に通せば、糸はたちまち摩擦で切れて
切れなくてもケバ立ってしまいます。
糊もただの糊ではなく、油剤という潤滑剤が配合されています。
筬(おさ)でこすられると、糸から糊剤が削げ落ちて、それがトラブルになることもあります。
「落ち糊(のり)性」「筬摩耗性」は糊剤の性能を表すのにとても重要な項目です。
エアジェットとウォータージェットでは糊剤の構成も異なります。

何の話でしたっけ?
そうそう、工具の話でした。
京都機械工具の齋藤社長は、津田駒の出身ということもあって、豊田自動織機やトヨタとの関係も持っていたのかもしれません。
戦後はトヨタの車に搭載されている付属工具を一手に引き受けます。
クロムメッキの手磨きによる、すばらしい輝きの工具は、一度手にしたら手放せないとも言われます。
お値段が高いのは仕方がない。
みなさんもKTCの工具を一度手に取ってみてください。
いい仕事してますよ。