私はトリチウムがβ崩壊して³He(ヘリウム3)ができると前に書いた。
β崩壊とはβ線(電子線、つまり電子)を放出して異なる核種になることだと教科書には書いてある。

私はこのことに疑問を持った。
いや、私がわかっていないのだ。私の頭では、次のように考えていたからだ。
トリチウムの崩壊(誤り)
この図は、誤りなのである。

β崩壊は電子とニュートリノ(中性微子)を放出するらしい。
これでもよくわからないが、最初にα崩壊(ヘリウム原子核の放出)が知られていて、これは質量保存則(量子力学では運動エネルギー保存則)が崩壊前と崩壊後で成立していた。
ところがβ崩壊の観察では、運動エネルギー保存則ならびに角運動量保存則と質量の不変現象が釣り合わなかった。
この不都合は科学者を混乱させたらしい。私のように。

ニルス・ボーアは「エネルギー保存則の破れ」だと主張した。
ヴォルフガング・パウリは、運動エネルギー保存則が成立するように、修正を加えた。
つまりβ崩壊では、観測されないエネルギーが電荷を変えずに、中性の「ある粒子」によって持ち去られているのだというのだ。
実はこの1930年ごろには中性子という粒子はまだ発見されていなかった。
1932年にイギリスのジェームズ・チャドウィックが発見したことをきっかけに、エンリコ・フェルミはβ崩壊では、中性子が陽子と電子を放出し、さらに「中性の粒子」も放出しているのだろうという仮説を発表する。
その「中性の粒子」は質量が極めて小さいか、質量を持たないかもしれないというのだった。
それがのちに「ニュートリノ」という素粒子だということが発見され、日本の梶田隆章によってニュートリノに質量がある(ニュートリノ振動)ことが証明されたのだった。
私の理解を越えているので、以後、ニュートリノがあるということは疑わない前提で検討する。

β崩壊には次の二点が起こる(後で述べるが、これはβ⊖崩壊のことである)。
①中性子が陽子に変わる
②そのときに電子が放出される(β線)

そうすると質量数は崩壊前と後では変化がないということになる。また、陽子の数より中性子の数が多い不安定原子核(中性子過剰核)にβ崩壊が起こることもわかっている。

さらにβ崩壊には大きく分けて、
①β⊖崩壊(中性子が陽子になるときに電子を放出する崩壊)
②β⊕崩壊(陽子が中性子になるときに陽電子を放出する崩壊)
の二つがあるらしいが、ここでは①のみを取り上げる(ほかに電子捕獲崩壊など特殊な事例がある)。

すると正しいトリチウムのβ崩壊は次のようになる。
トリチウムの崩壊(正しい)
私がつまづいたのは、ヘリウム3の電子一個がいったいどこから生まれたのか?という点だった。
すると、奈良で高校物理の先生をしている友人が「周囲の原子から奪ってくるんだよ」と教えてくれたのだ。
ヘリウム3はβ崩壊で生まれた瞬間は、ヘリウムカチオン(正イオン)なわけで、そのままでは電気的に不安定だから、安定原子から電子を「失敬」して安定化するのだそうだ。
なんとも拍子抜けの答えだった。
たとえば電子を奪われた酸素原子はイオンになる。それだけのことらしい。
どこかに奪いやすい状態にある電子があるもので、そういったところから補填するらしい。
静電気の発生と消滅や、ラジカル重合やイオン重合での重合の連鎖と不均化による反応停止などでも、私たちが見てきたことではなかったか。
これで、β崩壊が起こると、崩壊前と崩壊後の質量数の変化がないことと、β粒子(電子)の発生については疑問が氷解したわけだ。

それでも中性子が陽子に変化する機構やその過程で反電子ニュートリノというわけのわからない粒子が発生していることの説明が私にはできない。

そのためにはクォークという概念を学習せねばならないらしい。
クォークは「素粒子」という仲間で、中性子や陽子より小さい粒子だそうだ。
そしてその中性子や陽子を組み立てている部品がクォークなのだそうだ。
クォークはじゃあ、何でできているのか?
その友人によれば「クォークには今のところ内部構造は概念できないので単に粒子だというほかない」のだそうだ。
そしてクォークが作り出す大きな粒子、たとえば中性子や陽子をハドロンと呼ぶと教えてくれた。
ハドロンのほかに重粒子(バリオン)や湯川博士の発見した中間子(メソン)なんてのもクォークが作り出す。
大事なのはクォークの種類なのだそうだ、いくつかあって、それらの組み合わせでハドロンの種類も決まるのだと。
クォークには、
①アップクォーク
②ダウンクォーク
③チャームクォーク
④ストレンジクォーク
⑤トップクォーク
⑥ボトムクォーク
の六つが知られていて、たぶんそれだけしかないのだろうということだった。
六個もあったら、私にとっては十分複雑だった。だいたいネーミングがふざけているではないか?
「チャーム?なんやそれ?」
どんなチャーミングなお嬢さんが出てくるというのだ?

友人の先生によると、中性子は「アップとダウン、ダウン」の三つのクォークで成っていて、このダウンクォークの一つがβ崩壊でアップクォークに変化し、陽子の「アップ、アップとダウン」の三つのクォークになるというのだ。
このときに電子一つとパウリの予想した電子ニュートリノ(反電子)が生まれるわけである。
電子ニュートリノの存在がはっきりしたことによって、運動量保存の法則が壊れないで済んだのだった。
※ニュートリノという言葉はエンリコ・フェルミの造語である。

ニュートリノという素粒子は電荷を持たない。質量もわずかだがあることがわかっている。
電子の反粒子が電子ニュートリノだということで、ニュートリノには必ず反粒子が存在するらしい。
β崩壊で電子が生まれると必ず反粒子の反電子ニュートリノが同時に生まれる対生成(ついせいせい)という現象が起きるという説明だった。
この反電子ニュートリノは陽子を中性子と陽電子にすることができ、この陽電子がチェレンコフ光を発して消滅することから、この結果を持って反電子ニュートリノが存在したことを示唆できる。
これがスーパーカミオカンデの役割なのだそうだ。
電気的に中性のニュートリノを捕捉することは極めて困難で、地球など簡単にすり抜けられるほど小さく、その質量は極めて0に近い。
スーパーカミオカンデは大量の純水と無数の光電子倍増管によって地球の裏側からはるばるマゼラン雲より発生したニュートリノを捕らえ、チェレンコフ光を私たちに見せてくれたのである。

クォークが中性子や陽子の中でどうやって結合しているのかなど、興味が尽きないが、もうすでに私の頭がパンクしそうなので、また今度、お願いしたい。