舞鶴に来る引き上げ船は昭和三十三年の九月七日の「白山丸」を最後に来なくなった。
朝鮮半島では動乱が興ったがそれも夏には一応の休戦を迎えたようだった。

日本は敗戦から復興を遂げ、まだまだ戦争の爪痕は方々に残るものの、表向きは「神武景気」によってあの悲劇は忘れ去られようとしていたのである。

西山多恵は夫の市蔵の復員を待ち望んできたが、もはや裏切られた気持ちの方が強くなっていた。
市蔵の戦友だった山下三亀男の話が頭にこびりついていたからだ。
「あたしらを見限って、よそで若い子と所帯を持ってるんやわ」と臍(ほぞ)を噛む毎日だった。
山村の戦後生活はまだ増しだったとはいえ、都市部が復興を遂げ好景気に沸いているのを尻目に、多恵や義弟の浩介は日々の暮らしに追われていた。
その上、義母のきねが体を壊し、寝込んでもいた。
彼女は息子の帰りを病床でひたすら待ち望んでいたのだった。
「生きとるんやったら、顔を見せてくれてもええのになぁ」
そう言いながら痩せ細った腕を蒲団の上に投げ出すのだった。
市蔵が九州の小倉(こくら)あたりにいるらしいことを、女物の下着の行商をしている住田えつという義母の友人が、多恵たちに話したことがあった。
「あ、博多やったかな」
えつも確かな情報を得ているわけではないらしかった。
「小倉と博多じゃ、えらい違いやないか」と浩介が怒気を含んで答えた。
「すんまへんな。あたしも、あの辺は、よう行くんやけど」とばつの悪そうなえつだった。
「あの辺」がどの辺なのか要領を得なかった。

その年、多恵は三十五になり、息子の昭太は中学三年生になっていた。
そして義弟の浩介は三十になろうとしていたが、まだ独り者だった。
多恵も、考えなくはなかった…夫の失踪を届け出て離縁し、浩介と再婚して暮らすことを。
戦争で連れ合いを亡くした片われがよくすることだった。
浩介は、昭太を息子のようにかわいがってくれており、足が悪いのにキャッチボールの相手をしてやってくれたり、父親以上に面倒を見てくれている。
ところが、酒が入ると、
「おれも、はやく昭ちゃんのような子供がほしいなぁ」などとこぼすのだ。
それは、普通一般に、結婚したいという意味ともとれるが、多恵には、そろそろ兄の代わりに自分を受け入れてくれとせがんでいるようにもとれた。
もちろん、浩介が五体満足ならば嫁の来てもあったろう。
なにしろひどい跛(びっこ)なのだから。
そんな義弟を不憫に思う多恵だった。

多恵は、浩介と再婚してもいいと思いかけていた。
少しでもその方が幸せに近づけると思った。
「あたしだって、今やったらまだ子供を産める。そしたら浩介さんの欲しがっている赤ちゃんを産んであげてもええ」
そう思うようになっていた。

もうだいぶ寒くなったその日の夜、浩介が湯に浸かっていた。
一日の農作業を終えて、飯も食って、疲れを癒すいつものひと時だった。
悪い足を自分でもみながら、痛みをやわらげていた。
この足のせいで、人より数倍、作業に時間がかかってしまうのだ。
そして、このせいで、女に見向きもされないのだ…
湯から出て、硬いひび割れた石鹸を手拭いに擦り付けて泡立てる。
そうして、首筋から洗っていった…すると風呂の戸がすっと開いたではないか。
「だれや?」
「あたし」
浩介は驚いた顔で振り向いた。
浩介の目に飛び込んだのは、手拭いで胸を隠した全裸の嫂(あによめ)の姿態だった。
「な、なにを…ねえさん」
「背中、流したげる」
「そんな、それやったらなんで裸なんや?」
「浩介さんといっしょに入りとうて」
浩介は頭が沸いてしまった。嫂の気が違ってしまったのだと思った。
母親のきねは寝たきりで気づかれないとしても、昭太に見つかったらえらいことになる。
「昭太は、今日から修学旅行やねん」
そうだった。昨日から浩介も昭太の旅行準備を手伝ってやったのだった。
多恵が、その豊かな裸体を浩介の前にしゃがませ、手桶で体に湯をかけている。
「寒いねぇ」「ああ」
浩介は言葉を失っていた。
「なぁ、浩介さん、あたしをお嫁にしてくれはる?」
「それは…」
「兄さん、もう、帰ってきはらへん。帰ってきはっても、あたし、もう許すことがでけへんの」
「わかる。わかるけど」
「それにな、浩ちゃん、あたしも早くあんたと一緒にならんと、赤ちゃん産めんようになるし」
「あ、はぁ」
その妖艶な嫂の口元に、浩介は金魚のように口をパクパクさせるだけだった。
湯船につかりながら、後れ毛を浩介に見せる多恵だった。
浩介は、初めての女の裸体を前に、ぐいぐいと下半身がみなぎってきていた。
烏の行水よろしく、形だけ体を洗い、前を手で押さえながら木の腰かけにつくねんと座っている浩介だった。
「さ、洗ってあげる」そういって、多恵が湯を磁器のような肌から滴らせて立ち上がり、ぱっくりと女陰を見せつけるように風呂桶の縁(へり)をまたぐ。
浩介は、じっとそこを見つめている。
「いややわぁ、そんな怖い顔をして」
「そんなん言うたかて…おれ、初めてやもん」
「わかってる。ごめんやで」そう言うと、多恵は浩介の後ろに回って、背中を洗い出した。
多恵の手はだんだん下に向かい、浩介の体のわきから、へそを越えて、硬く立ち上がった男性に届いた。
「あくっ」喉を鳴らす浩介、三十歳。
市蔵のものしか知らない多恵は、その記憶も薄れていたが、その大きさに驚いた。
「太いなぁ」「そ、そう?」
多恵は、浩介が女も知らずに三十を迎えたことが不憫に思えた。
かといって、娼婦のような技を知っているわけでもなく、ただ、こうやってしごいてやることしかできなかった。
「ねえさん、おれ、もう」
びくびくっと浩介の体が痙攣し、ねっとりとした液体が多恵の手を汚した。
多恵は、自分が浩介を気持ちよくさせたことに、喜びを感じていた。
「ごめん、がまんできんかった」と、浩介が詫びた。
「なんであやまるのよ。あたし、前から、こうしてあげたかったんやから」
「ねえさん…」
「続きは、浩ちゃんの部屋でやろ」「うん」
そう言うと、多恵は浩介の「男性」を丁寧に湯で流してやった。
「こそばい(くすぐったい)わ」
「きれいにしとかんと、臭くなるで」「ああ」
浩介は、満足した顔で、湯船に浸かった。
多恵は自分の体を、洗い出した。
「ねえさん、おれと一緒になってくれるん?」
「そうや。あたし決めてん」きっぱりと多恵が言った。

その夜、二人は結ばれた。
浩介の六畳間の寝床に、多恵がおとなった。
「起きてる?」「ああ、ねえさん」
隆々と勃起させて、浩介が蒲団の上に大の字になっていた。
「真っ暗やね」「電気点けるか」「はずかしいし」
なんてことを言いながら、二人は添い寝をして手を握り合った。
「キスしよか」と誘ったのは多恵の方だった。
そして唇をかぶせるように多恵が浩介の顏の上からくちづけた。
ちゅ…
多恵の手はもう、浩介のたくましい勃起に添えられている。
「ほんまに大きいわぁ」「兄ちゃんより?」「たぶん」
熱い肉の柱ともいうべき勃起で、多恵の手が火傷しそうだった。
「熱いやん」「外がさぶい(寒い)からやろ」
反り返った浩介の「男性」は、多恵の手の中で湿り気を帯び、ぬちぬちと音を立てている。
「ああ、気持ちええ」
「まだ、出したらあかんよ。今度は、あたしの中でな」
「ほんまにええんか?赤んぼがでけても」
「ほしいの。浩ちゃんの子ぉが」
「ねえさん!」そう言うと、浩介が多恵の体にむしゃぶりつき、ひっくり返してたっぷりとした乳房を吸った。
「ねえさん、おれ…ありがとう」
「ねえさんはやめて…もう、あんたのお嫁さんなんやから」
「多恵っ!」「そう、そう呼んでぇ!」
浩介は多恵を抱きすくめ、勃起を彼女の下腹部に押し付けていた。
どうやって、結合すればいいのかわからないのだ。
「待って。浩ちゃん」
そう言うと、多恵は足を広げ、浩介に体を割り込ませる。
「あんたの先っぽを」
暗がりで多恵が手を伸ばして、脈打つ先端をつまみ、自分に導いた。
「ここに差し込むの。見えへんやろ。ちょっと寄ってくれるか?」
おそらく真剣な表情で浩介は腰をかがめ、勃起を差し込むべき場所を探しているはずだった。
くちゅ…
「あ、わかった」そう言うと、浩介が先を押し込んできた。
多恵は、その高まりが体を押し広げる圧力に、小さな痛みを感じた。
長らく男を受け入れていない産道は、硬直していたのだろう。
太い浩介に割り裂かれるような痛みを感じている多恵だった。その痛みは、市蔵への後悔の念が含まれているのかもしれなかった。
もう後戻りはできないのである。
多恵は浩介にもっと密着するように抱き寄せ、足で腰を挟んだ。
足の不自由な浩介にとって、この体位は動きにくいようだった。
しばらくじっとしていたが、多恵が、
「浩ちゃん、ここに寝てぇや」
「え?」
「あたしが上になったる。そのほうがあんたもしんどないやろ?」
「う、うん」
一般には「茶臼」と呼ばれるそのやり方は、多恵が市蔵から教わったものだった。
市蔵はこのやり方を好んだ。
昭太を授かったのもこの方法だったのではと、多恵は思っている。
多恵が、浩介をまたぎ、帆柱のように自分に向けられている勃起を濡れそぼった膣の入り口に誘(いざな)った。
腰をゆっくり落としていくと、その太さが実感されるような圧力を多恵の体は感じ取った。
「うふぅ…」
息を吐きながら、多恵が腰を沈めていく。
浩介は、その結合部分を目を凝らして見つめていた。
「ああ、ねえさんの中に入っていくよ」
「ふふ、もういっぱいやわ。浩ちゃんので」
「多恵ぇ!」
そう言うと浩介は嫂の乳房にかぶりついた。
赤子に乳を含ませるように多恵はその行為を慈しんで眺めるのだった。
もう多恵の頭の中には市蔵の面影は薄れ、その弟の浩介に埋め尽くされていた。
「ああ、浩ちゃん…」
「こうやって、子づくりするんやなぁ」と、感慨深げに浩介が言うのだった。
「そうやで、そうや。あたしの中にくれたらええねんよ。産んだげるから。夫婦やねんから」
多恵は自分から腰を振り、浩介の射精を促した。
「ああ、あはぁ、いく、いくいく…いくぅ」
真っ赤な顔をして、こめかみの血管を浮き上がらせながら、浩介が多恵の下で叫んだ。
同時に熱いほとばしりを胎内に受ける多恵だった。
多恵は、浩介にかぶさって、そのほほの汗を舐めた。
「浩ちゃ…」
「多恵さん…」「多恵でええ」「多恵」…
しぼんだ浩介が多恵から抜け落ち、ごぼりと何かが中から噴き出てくるのを多恵は感じていた。

春、多恵のお腹はせり出し、だれが見ても妊婦であることがわかった。
多恵は夫の特別失踪の届を出したところだったので、二人はまだ婚姻届けを出せずにいた。
きねはもとより二人が夫婦になることを望んでいたし、昭太も母親が叔父と再婚することを喜んでいた。

元軍港に桜の並木が満開になるころ、男が一人、国鉄の東舞鶴駅に降り立った。
懐かし気にレンガ造りの旧海軍の施設の並ぶ道を散策しながら、飴色に時代のついた皮のトランクをぶら下げ、茶色の上着を肩にひっかけて、その男はタクシーを拾った。
この男こそ西川市蔵であった。
「栗田(くんだ)まで行ってくれるか」と運転手に伝え、タクシーは低いエンジンの音を響かせて発進した。
「東舞鶴まで乗られたんなら、栗田まで列車でそのまま行きなさったらよかったのに」と運転手が言う。
市蔵が舞鶴で降りたのは、少し街並みを見たかったからだと運転手に告げた。
「ここのお人で?」「宮津だ」「故郷に錦を飾りに」「そんないいもんじゃないよ」
市蔵はミシンのセールスを生業(なりわい)にしていた。
復員後、小倉の闇市で働いて生計を立てていたが、あるとき、アメリカ製ミシンの露店が出ていたのに出くわし、その美しい機械に惹かれて頼み込んで営業職にありついたのだった。
ちょうど神武景気に入ったところで、ミシンはおもしろいほど売れた。
女性が家庭でお針仕事をするときに、ミシンは高嶺の花だったが、市蔵が販売するミシンは値ごろ感があった。
ちょうど「ドレメ」という言葉が流行したころでもある。「ドレスメーキング」の略で、和装にはない魅力のある洋服の自作が婦人雑誌などで紹介され、型紙をつくり、布地を裁断してシンガーのミシンで縫製するということが女性の夢をかなえたのである。
近頃では、夫は新妻に洋服箪笥とミシンを買ってやるのが甲斐性だとされた。
市蔵は舞鶴あたりでセールスをするつもりで、宮津の栗田の実家に寄ろうとは考えていなかった。
もはや捨てた故郷である。いまさら多恵に合わせる顔などないのだ。
彼にとって宮津の地は敷居が高かった。
それが舞鶴に降り立ったとたん、市蔵は、一目多恵に会って詫びたいという気持ちが沸き起こってしまった。
後部座席で黙り込む市蔵に、運転手はもはや一言も無駄口を叩かなくなった。

市蔵には小倉に妻と子が、すでにあった。
泰子(やすこ)という多恵と同じくらいの女性で、満州で偽装結婚して内地に帰ってくることができたものの、道中で過ごすうちに愛情が芽生え、深い中に発展してしまったのだった。
泰子の両親も、二人の仲が自然にそうなるだろうと、それはそれで構わないと思っていたのだろう。
小倉に着いてから泰子の妊娠が発覚してしまい、泰子は女の子を産み落とした。
こうなると、市蔵は帰るに帰れなくなってしまうのだった。
女の子は貴美子と名付けられ、なしくずしに二人は婚姻届けを出してしまう。
市蔵の新しい生活が始まってしまったのだった。
法律上は重婚になり許されないはずだが、戦後のどさくさでそんなことを確認できる役所はどこにもなかったのである。

「多恵と昭太はどうしているだろう」市蔵は一時も妻と息子のことを忘れたことはなかった。
すると、
「お客さん、もうすぐ栗田の駅ですで」
「あ、ああ、その信号を左に曲がって、道なりに行ってください」「はいよ」
栗田の駅前は昔の通りだったが、やはり新しい店のようなものもできて、そこそこにぎわいを見せていた。
「この辺は変わらないね」市蔵が口を開いた。
「戦災に遭っとらんからねぇ」運転手が受けて答える。
田起こしが始まっているようだった。ひばりが高いところを不器用に飛んでいる。
「ここでいいよ。運転手さん」
「はい、じゃ、六百二十円になります」
市蔵は千円札を出し「おつりはいいよ」と言って車を降りた。
「まいどあり!」
そう言って、運転手はドアを閉め走り去った。

この舗装されていない、ところどころ穴が掘れて、水の溜まっている道には覚えがあった。
小さい頃、国民学校に通った道である。
あの校舎はこの先に小学校として残っているはずだった。
ひばりの声がぴーちくぱーちくと忙しく鳴いている。
のどかな田園風景で、振り返れば日本海が広がり、遠く丹後半島が霞んでいた。
東に小さく聳える青葉山の美しい山容も昔と変わらなかった。

ここまでくればもうすぐ実家である。
ふと見ると前から、おなかのせり出した妊婦が日傘をさして歩いてくる。
傘のうちにちらちら見える顔には見覚えがあった。多恵だった。
「ああ、多恵」
市蔵はつぶやいた。
「再婚したんだな…誰の子なんだろう」市蔵は気になった。
声をかけようか、このまま立ち去ろうか逡巡した。
でも、多恵の方が市蔵に気づいてしまった。
その驚きの顏、なつかしさがこみあげている口元…
「多恵!」
「市蔵さん」
もう二人は二メートルも離れていなかった。市蔵はトランクを地面に置いて、突っ立っていた。
「帰って来はったんやね」
「ああ、遅うなった」
「どうして連絡してくれへんかったんですか?」
「すまん。再婚…したんやな」
市蔵は多恵の腹を見てそう訊いた。
「ええ、浩介さんと」
市蔵は二度驚いた。なんと弟と再婚したというのだから。
「そのお腹の子は、浩介の子か」
「そうです」
「なんちゅう…」言葉を失う市蔵だった。
しかし、すぐに冷静になれた。
元はと言えば市蔵に非があるのである。
よくよく考えれば、多恵も浩介も一番良い選択をしたともいえるのだった。
「寄ってらして。お義母さんも、浩介さんも喜ぶわ」
「そうはいかんわ」「なんで?」「なんでもや」
市蔵の腹は決まっていた。
このまま立ち去ろうと…もう、思い残すことはなかった。
「あんさん、あちらでは幸せ?」
「おれが、小倉で所帯を持ってしもたことも知ってるんか?」
「たぶんそうやろと、山下さんから聞きました」
「山下?三亀男か?あいつ戻ってるんか?」「ええ、舞鶴にお住まいよ」「そうか…」
「ちょっと歩きましょか」多恵がそう言ってくれた。
「もう、何か月なんや?」
「もうすぐ六ヵ月ですわ。あんさん、お子さんは?」
「女の子が一人。そうだ昭太は?どうしている?大きくなったやろ」
「今年から東舞鶴高校に入ったわ」
「そうか、もう高校生か、昭太は」
「あんさんの娘さんも、もう大きいんやろねぇ」
「今度、中学生になるよ」
「お互い人の親になったんやね」「そうや」
二人は、栗田駅に向かっていた。
不思議と市蔵の知り合いには会わなかった。会えば、村でうわさになるからやっかいだった。
とはいえ、どこに人の目があるかわからない。
駅に着くと、市蔵は見納めとばかりに多恵に向き直り、
「ほな、体に気ぃつけてな、昭太と、それから、お袋と浩介をよろしくな」と声を絞った。
「あんさんも。気兼ねがのうなったら、いつでも帰ってきてくださいや。ここはあんさんのふるさとなんやから」
「おおきに。ほならな」
「はい」
東舞鶴行の各駅停車の気動車が駅に到着したので、あわただしく切符を買って市蔵は振り向かずに車内に消えた。
多恵は、あふれる涙をぬぐいもせず、気動車を見送ったのだった。
「ああ、市蔵さん…」
夕方にはまだ間があったが、北帰行前なのだろうか、数羽のゆりかもめが乱舞し、春の若狭湾に菜の花が映えて、皆で市蔵を見送っているようだった。

菜の花や 月は東に 日は西に (与謝蕪村)

(おしまい)