ぼくは、この坂を上り切った。
あの子と、この坂を上るつもりだった…

この坂どこまで続くのか
上り坂お前と登りたかった
誰でも一度は上る坂
風来坊一人がよく似合う

(『風来坊』作詞作曲 山木康世 歌 ふきのとう)

高校生になった初めての学園祭、ぼくはギター部に所属してミニフォークコンサートをやった。
中学の時からフォークギターを兄の影響で始めていたことが幸いして、一年生にしてギターヴォーカルを任せられたのである。
「なごり雪」や「海岸通り」、「赤ちょうちん」と続けて「二十二歳の別れ」でしめた。
先輩の高田源治さんが「なごり雪」と「赤ちょうちん」を歌い、残りをぼくが弾きながら歌った。
パーカッションは軽音部の郡隼人(こおりはやと)さんがセッションしてくれた。
高田さんへの友情出演ということで。

わが校のギター部と軽音楽部が別々に活動していたのは、顧問の先生が違うことと、それぞれの成り立ちが違うからだった。
軽音楽部のほうが古く、この岡井谷高校創立のころから西洋音楽部という厳めしい名前のクラブがあって、消滅の危機に瀕していたそうだ。なんでも、クラシック音楽を主に演奏するクラブだったらしい。
それが昭和45年ごろだったか、顧問の先生が定年退職で入れ替わったのを契機に軽音楽部として、がらりと内容が変わって、グループサウンズ、特にビートルズに影響を受けた先輩たちが今の形にしてしまったと聞く。
ギター部はというと、今から五年ほど前の昭和50年に創部のフォークギター中心の同好会から始まった。
顧問の今川淑子先生が当時の生徒たちに推されて部を興したと、先輩たちから聞いた。
今川先生は本校の音楽の先生で、ギターとピアノが得意なのだった。
ギター指導も今川先生がなさる。
今川先生は、声も姿も山本潤子にどこか似ているとみんなで言っていた。

そんなわけで、音楽の方向性が似ていることから、我がギター部と軽音楽部は交流が盛んだった。
軽音楽部にもギター奏者がいるが、彼らはアコギではなくエレキなのだった。
どうしてもアコギがいいという生徒は軽音部からギター部に編入してきたり、掛け持ちだったりするのである。
実は高田先輩が編入組だったのだ。
「拓郎はいいよなぁ」
が口癖の高田先輩だった。

今年の、セッションは大成功だった。
ぼくは、初めて観衆の前で演奏して、舞い上がっていた。
「海岸通り」の冒頭で、ピックを取り落とすハプニングもあったが、指で続けて事なきを得た。
ギターヘッドにぶら下げたマスコット「ノエル」を揺らせながら「海岸通り」を人前で弾くのは最高だった。
「ノエル」とはフォーク歌手のイルカの絵本に出てくるキャラクターだ。
行きつけのレコード店で兄が手に入れて来てくれたのだ。
高田さんのギターヘッドは、わざとペグから余分に弦を出している。
それが先輩のスタイルだった。
演奏が終わって、体育館の裏手にギターを抱えて出てきたところで二人の女の子に声を掛けられた。
「西田亮さん…ですよね」
ぼくは、自分の名前を聞かれて振り向いた。
「ああ、ぼくだけど」
「演奏、すばらしかったです」
同い年ぐらいの女の子で、見慣れない顔だった。
「そりゃ、どうも」
ぼくは、照れて、そう言うのが精いっぱいだった。
どうやら事前に、駅前で配ったガリ版のチラシを見て来てくれたようだった。
「あたしたち、ここの生徒じゃないんだけど」
「そうなの?わざわざ来てくれたんだ。ありがとう」
歩きながら、少し話した。
高田さんは「先行くぜ」と言って校舎の中へ消えた。
一人は山口真紀子、もう一人は関谷理沙(せきやりさ)と名のり、市内の町工場に勤めているということだった。
「あたしたち、ほんとはここの高校に行きたかったんだけど…家の事情でね…働いてんの」
「そうなんだ…でもえらいな、君らは社会人なんだろ?」
「社会人だなんて…中身はまだまだ子供よ」
そう言って真紀子が笑った。
「西田さんはいくつからギターやってるの?」と理沙という女の子が尋ねる。
「そうだなぁ、中二のときからかな。兄貴が今、大学でバンドを組んでてね」
「すごいなぁ。いっぱしのギタリストだわ」
「ほんと、プロも顔負けよ」
次々に彼女たちが褒めるので、ぼくは気後れした。
「よしてくれよ。ぼくなんかまだまだへたっぴだよ」
「うそうそ。今日の演奏、とってもよかったよ」
と目を輝かせて理沙が言うのだった。
ぼくは、なんか自分がひどく特別な人間なのだと錯覚してしまうほどだった。

関谷理沙とはその後も会う約束をしてしまった。
理沙の方が積極的だったから、おくてなぼくはされるがままに、付き合い始めてしまった。
その年のクリスマスは、ぼくにとって忘れられない日となった。
街にはジングルベルが流れ、巨大なクリスマスツリーが出現し、若者はみな浮足立っていた。
イブの日、東雲坂(しののめざか)という、この界隈では有名な坂道の下でぼくと理沙は待ち合わせた。

ぼくは、彼女を家に招いた。
母親もよろこんで、もてなしてくれた。
兄も交えて、ささやかなクリスマス会をやったのだ。
「理沙の好きな曲を弾いてあげるよ」
「ええっ?うれしい。じゃ、少年時代がいいな」
「夏の曲だな、季節外れだけどいいか」と兄貴。
「いいよ。ちょっと楽譜取ってくるわ」とぼく。
「いらねぇよ」兄が言う。
そのやりとりを、笑いながら理沙が見ていた。
井上陽水の「少年時代」をぼくら兄弟でつま弾きだした。
理沙も歌う。
合唱になった。

夏が過ぎ 風あざみ
誰のあこがれに さまよう
青空に残された
私の心は夏模様

(作詞作曲 井上陽水 歌 井上陽水)

兄は夜から仲間とクリスマス会を大学の近所でやるとかで出かけて行った。
ぼくも理沙を送るつもりで街に出た。東雲坂の登り口の前で、ぼくらは立ち止った。
「ほんと楽しかった」
「そうかい。よろこんでもらえてうれしいよ」
「お母さんのポトフがおいしかったわ」
「普段はあんなの作らないんだけど、はりきっちゃって、母さん」
「あたしね、ほんとは高校、行きたかったな」
「だろうな。まだ働くには早いよな」
ぼくは、理沙が不憫に思えた。
「うち、お父さんがいないから…」
「そんなこと言ってたね。でも人それぞれなんだよ。ぼくたちはこれからじゃないか」
「そうよね」
「いっぱい、いいことあるさ」
「ありがと」
ぼくらは手をつないで、坂を上った。
「真紀ちゃんは?」
「山口さんは、彼氏がいるんだ。結婚を考えてるんだって」
「ほぉ…」
そういう人もいるのだ。
「寄っていかない?」
「え?いいのかい?」
「母さんは、夜の仕事だから帰ってこないの」
ぼくは、どぎまぎした。
女の子の家に上がる事なんていまだかつてなかった。
「なんか、悪いな」
「悪くなんかないよ。あたしが誘ってるんだから」
なかば、強引にそう言い張るのだった。
坂の途中の路地を入っていくと、奥の二階建ての文化住宅の一階の端が彼女の家だった。
ぼくの家よりずっと質素なたたずまいだった。
「ここで、お母さんと二人暮らし?」
「うん、五つ上の姉さんがいるんだけど、今は赤堀(あかほり)で男の人と一緒に暮らしてる」
赤堀は隣町である。薄暗い部屋にぼくは招き入れられた。
「なんにもないけど」と言いながら、コーヒーを作ってくれた。
寒いが電気ストーブで顔だけだんだん暖かくなってくる。
だから、お互いに外套を着たままだった。
「殺風景でしょ」
「あ、いや、きれいにしているじゃないか」
「モノがないから」
「ギターもってくればよかったな」とぼくが言った。
「歌おうよ?」理沙が受けてくれる。
「なにがいい?」
「赤ちょうちん」
「暗いの好きなんだね」
「深夜放送で聞いて、こんな暮らしもいいなって。ほら文化祭の時、弾いてくれたでしょ」
「ああ、でも別れる歌だよ」
「いいの…」
「さん、はい」
ぼくらは歌い出した。

あのころふたりのアパートは
裸電球まぶしくて
貨物列車が通ると揺れた
ふたりに似合いの部屋でした

(作詞 喜多條忠 曲 南こうせつ 歌 かぐや姫)

まさに、このアパートの雰囲気にぴったりだった。
鉄道が裏には通っていなかったが、近くに駅はあった。

歌い終わって、ぼくらは自然に見つめ合っていた。
遠くで踏切の警報が鳴っている…

理沙のほうから唇を求めて来た。
ぼくはその愛らしい唇に自分の唇を重ねた。
もう寒くはなかった。
初めてのキッス。
心のどこかで「やばいよ」と聞こえた。
理沙の髪の香りがぼくの鼻腔をくすぐった。
やわらかい女性の体とその重み…
実体をともなった女がぼくの手のうちにあった。
彼女のブルゾンの上から感じる胸のふくらみは震えていた。
ぼくのダッフルコートがじゃまだった。
長いくちづけが終わった。
理沙が手の甲で唇を拭う。
ぼくは下を向いていた。
「ごめんね」
理沙が謝った。
「ぼくこそ…」
下手なキスだったろうか?
「初めて?」
「君だってそうだろ?」
意外にも、理沙はかぶりを振った。
「だれかほかにいるの?」ぼくは訝しんで尋ねた。
「いた…でも別れたわ」
嘘でも「いない」と言って欲しかった。
急に、理沙が遊んでいる女に見えてしまった。
「軽蔑してるの?」
「べつに」
「ごめんね、初めての人があたしで」
慰めてくれているのか、しかし、それはかえって嫌だった。
反面、この子なら少しくらい羽目を外してもいいのではないか?という打算も働く。
「理沙、抱いていいかい」
「…」
彼女は一瞬、戸惑ったように見えた。
キスまで許しておきながら、なにをためらうことがあるのだろう?
幼稚なぼくは、そういうふうに考えてしまった。
誘っておきながら、遊んでくれないのか?という不満。
察したのか、理沙は取り繕うように、
「いいわよ」
ぼくには、投げやりな感じにも受け取れた。
構わず理沙の肩を抱き、自分の方に引き寄せた。
やり方をまったく知らないぼくは、勢いに任せていた。
「ま、待って」
理沙の方が、立ち止った。
ぼくは、勃起していた。
それなのにどうしていいのかわからなかった。
「あたしにまかせて…」
小さくそう言って、リードするそぶりを見せた。
「今日は、クリスマス。亮君にもプレゼント」
そう続けて、理沙がぼくのズボンのファスナーに手をかけた。
同い年とはいえ、先に社会に出て、恋も経験した女性の方が先に大人になるということを、ぼくは頭の隅で考えていた。
みるみるペニスが彼女の手によって外に引き出され、硬く聳(そび)えた。
「すごい、こんなになって」
「知ってんだろ?男がこうなるって」
ぼくは、つっけんどんに答える。
それには理沙は答えずに、細い冷たい指で握り、ぼくが一人でやるようにしごいてきた。
「ああ」
思わず声が出る。
他人に、それも異性に性器をなぶられるなんて、男にとって最高の時間だった。
正直、やばかった。
彼女の手の中でますます熱を帯び、硬さを増していき、感覚も研ぎ澄まされていった。
剥けあがった先端は、今にも破裂しそうに膨らんでいる。
理沙は自分のつばを吐きかけて、ぼくを濡らして手指で刺激を加えてくる。
男を知った女はこんなにも大胆なのだろうか?
「もうだめ?いきそう?」
そんなことまで知っている理沙…
「ああ、やばいよ。理沙」
「出してもいいよ」
「ティッシュかなにかないかな。汚しちゃうよ」
「わかった」
そう言って、ティッシュの箱を引き寄せて来た。
理沙の指が、縦笛を握るように動く。
ぬめりが拡げられ、ぼくのペニスがびくびくと弾む。
射精に備えてぼくの腰が浮く。
パンと頭の中がはじけて真っ白になったようだった。
びゅくびゅく…
粘(ねば)い、白い塊が尿道から噴き出し、理沙の手を汚した。
「あ、あったかい…たくさん出たよ」
「もう、やめてくれよ」
射精後も握られ、こすられるとくすぐったくて仕方がなかった。
「ごめんね。拭こうね」
ティッシュが数枚、取り出され、ぼくの勃起が包まれた。
なんという恥さらしな姿だろう。
女の部屋に上がって、勃起させて、精液をまき散らしたのだ。
湯気の立つ精液を理沙が眺めながら、ティッシュで拭いている。
その姿が妖艶だった。
「まだ、小さくなんないね」
確かに、自慰ならすぐにしぼむはずが、今日は珍しく大きいままだった。
「たぶん、理沙が欲しいんだよ。こいつ」
擬人的にそう言った。
「まぁ…」理沙が顔を赤らめる。
「理沙は、その人と経験があるんだろ?」
「…あるけど」
「じゃあ、いいじゃないか」
ぼくは、自分勝手な言葉を吐いたが、理沙もそう思ったらしく、
「そうよね。こんなになっちゃってるんだし」
と、勃起を見ながら答えるのだった。

「寒いけど、ここでいい?」理沙が気遣ってくれる。
「でも、お母さん、帰ってこないか?」
「来ないわ。まだ六時になってないじゃない」
壁の丸い時計を見て言う。
理沙はブルゾンを脱いでセーター姿になり、スラックス風のズボンを脱ごうと前ボタンを外しにかかる。
ぼくも、コートを脱いで端に置き、セーターも脱いだ。
とうとう、お互い、下着姿で狭い部屋の中で向き合っていた。
理沙のほうが拳(こぶし)二つ分くらい背が低い。
見上げて、ぼくに笑顔を向ける。
「りさ」
「りょう君」
「もう、その人のことはいいんだよね」
ぼくは念を押した。しつこいと思われようと…
「いいの。もう会えないんだから」
「会えない?」
「別れたんだからいいでしょ?もう」
やや、怒気を含んで理沙が早口で言った。
そしてキスをせがんだ。
ぼくは、彼女の肩に手を置いて首を傾げて唇を重ねる。
「寒いわね」
口を離すなり、理沙はそう言って押し入れから蒲団をひと揃え出してきた。
「ごめんね、寒いでしょう?お蒲団でしようよ」
「いつもここで寝ているの?」
「そうよ。母さんが玄関に近い方で、あたしが奥」
蒲団を敷きながら、理沙が答える。
ぼくは下着姿で、つったっていた。
「さ、入って」
「あ、うん」
赤い柄の蒲団に二人でもぐりこんだ。
「脱ごうよ」理沙が言う。
「ああ」
ぼくは、理沙の匂いのしみ込んだその狭い布団の中でシャツを脱ぎ、パンツを取った。
理沙もブラを取って、胸の谷間をぼくに向ける。
小ぶりだがちゃんとプリンのようにふるえている半球の乳房を眺めた。
「はずかしいな」
「き、きれいだ」
ぼくの喉はからからに渇いていた。
そしてたぶん、下も彼女は脱いでいるはずだった。
「抱いて」
理沙が求めた。
ぼくは、その柔らかい生物を両手に抱え込んで抱きしめた。
「うっ」
「ごめん、痛かった?」
あまり強く抱きしめたので、理沙が呻(うめ)いた。
「ううん。だいじょうぶ」
勃起が理沙の下腹部に当たっている。
理沙が足を絡めてくる。
ぼくの膝頭が、湿った部分に触れた。
そこはぬるぬるとしていて、さくさくした毛の部分とともにぼくの膝を刺激する。
「ああん」
甘やかな声を理沙が漏らす。
濡れ方がすごかった。
膝頭全体に、尿を漏らしたように広がっている。
理沙が足を挙げて股間をぼくの膝に押し付けてくる。
理沙が感じていることは明白だった。
「いいのかい?」
「いい、すっごく」
ぼくの勃起も最大限に圧力を高めている。
理沙が手を伸ばして勃起を握る。
「ああ、熱い」
「りさ」
「それにこんなに硬い」
「好きだ」
「あたしも好き」
そう言い合って口を吸った。
む…
ふと、「赤ちょうちん」の場面が浮かんだ。
二人で暮らしていけたらどんなにいいだろう?

そろそろ入れたいのだが…セックスというものをぼくはほとんど知らない。
十六の少年少女の多くはそうだろう。
「女のあそこに入れるんだよな…」
それはわかっているが、しかしどのような穴になっているのかがわからない。
そして、セックスをすると赤ん坊ができてしまうのだ。
これは大変なことになる。
とにかく、それは絶対に避けなければならない。
「どうしたの?何を考えているの?」
固まっているぼくを訝しんだのか、理沙が口を開いた。
「あ、ああ、どうやったらいいのか、はずかしいけど、知らないんだ…」
ぼくは正直に理沙に告げた。
「うふふ。そういうところが亮君のいいところだと思う。わかったわ、あたしがしてあげる」
理沙は、お姉さんのようにぼくの上にかぶさってきた。
「こんなあたしを軽蔑しないでね」
「しないよ」
「ちょっとあたしのほうが先に経験しただけのことだから…入れるね」
そう言うと、理沙は布団をかぶったまま腰を落として、ぼくの敏感な部分は熱く狭い場所に導かれていった。
「くぅっ」
子犬の鳴き声のような声を漏らして、理沙の顔が歪んだ。
痛いのだろうか?
「入ったわ。わかる?」
「う、うん」
ぼくたちはつながったのだった。
これが、セックスなのか。
可愛らしい乳房が目の前にあった。
ぼくは、その球体に手を伸ばした。
干しブドウのような乳首がころころと、とがっている。
「やん、亮君」
「きれいなおっぱいだね」
「はずかしいわ。どう?あたしの中は」
「あったかいよ。とても気持ちいい」
「あたしだって気持ちいいわ。たくましい亮君」
そう言って、ぼくの胸板を撫で、敏感なぼくの乳首を指先でつまんだり、押したりした。
それはくすぐったいような、かゆいような心地よさだった。
もっとしてほしいとさえ思った。
理沙がぼくの上で腰を上下に動かし、ぼくの軸をしごく。
「あはん、ああん、いい、硬いの。亮君の」
そんなはしたない言葉を吐いて、理沙が眉間に深いしわを刻んで、苦しんでいるような表情をした。
「痛いのかい?」
「痛くなんかない。気持ちいいのよ。ああん、また」
理沙の内部がぼくを絞る。
その快感と言ったら…手でやるより何倍もよかった。
「お乳、吸って」
ぼくは要求されるがままに口を乳首にもっていき、赤ん坊のように吸った。
もはや恥じらいはなかった。
ちゅば、ちゅば…
「やぁん、きもちいいっ!」
理沙の内部がさらに緊迫して、ぼくの勃起をねじるように動いた。
理沙はのけぞって、掛布団を後ろに飛ばしてしまう。
「はうっ!」
「りさっ!」
「来てっ」
理沙がぼくの両手を引っ張って自ら後ろに倒れ込み、今度はぼくが上になる形になった。
つながったままで…
ぼくは、そのまま理沙を組み敷き、腰を動かしてみた。
そうすることで、理沙が気持ちよさげにするからだった。
理沙の両足が空を掻き、そしてぼくの腰を挟む。
抜けそうになるまで腰を引いて、また激しく突き込んでみた。
「やわっ!だめぇ!」
「りさっ、いいのか?」
「いい。すっごく」
とろんとした目で彼女がぼくを見た。
このままでは、ぼくが限界に達してしまう。
中に出してはいけない…それくらいはわかっている。
「りさ、だめだよ。妊娠させてしまう」
「ふふ、生理が終わったから、中に出しても大丈夫よ。あたし生理周期がちゃんとしてるから」
そんなことを言った。
「それにね、生理後ってあたし、狂ったようにしたくなるの」
「え?」
「女もね、したくなるの…」
そう言った理沙がとても妖艶に見えた。
おれは、遠慮なく腰を打ち付け、理沙の体をむさぼった。
本能的に男はやり方を知っているのか、おれは経験者のように理沙に挑んでいた。
「ああ、亮君、上手よぉ。またいきそう」
「りさ、いきそうだ」
「一緒にいこう」
寒いはずなのに、体は汗を流している。
理沙の体も一緒だった。
ほんのり桜色に胸元が発色している。
息が荒くなり、腰に電撃が走った。
びゅるるう…
長い射精が続いた。
理沙がぼくの尻を両手で抱えるように押さえている。
「で、でたぁ」
「あ、ありがと。亮君」
ぐったりと理沙の上にぼくはかぶさって倒れた。
「お、重いよ」
「ごめん」
ぼくは彼女から離れて、結合部を見た。
赤く肉のはみ出た女陰を目の当たりにした。
動物的な匂いが立ち、そのひだの間の洞窟のような穴から、ぼくの出した精液が漏れ出ている。
ぼくは慌ててティッシュを探した。
大の字にあられもない姿で理沙が横たわっている。
ぼくが犯した女の姿だった。
ぼくは、ティッシュペーパーでその臓物のような陰部を拭った。
理沙はされるがままに横たわっている。
後悔がなだれのようにぼくを襲った。
「なんてことをしたんだろう」
理沙が急に動物的に見える。
「寒いね」
理沙が起きあがり、蒲団をまとった。
ぼくもその隣に入る。
汗ばんだ肌と肌が触れ合う。
「後悔してる?」
そう訊いたのは理沙の方だった。
「あ、いや」
図星を当てられ、ぼくは言葉に詰まった。
「男の人って、した後は、なんでしちゃったんだろって思うんでしょ?」
「そんなことないよ」
「無理しなくっていいよ。でも、あたしが最初の女でよかったのかなって」
「いいに決まってんじゃん」
ぼくは、少し声を荒らげた。」
「怒ってるの?」
「そうじゃない。そうじゃないけど。後悔なんかしてないよ」
「よかった」
そう言って理沙は笑ってくれた。
そのままぼくらは寝てしまったらしい。
八時ごろ、あまりに寒いので起きてしまった。
理沙は寝息を立てている。
ぼくは服を着て、理沙を起こした。
「理沙、起きなよ」
「ううん。寒いっ」
「だめだよ、風邪ひいちゃうよ。おれ帰るよ」
「そう、今日はありがと」
眠そうにあくびをしながら理沙が礼を言う。
「ぼくこそ。いいクリスマスだった」
「ほんとぉ?よかった」
「理沙自身がクリスマスプレゼントだったんだって。今気づいたよ」
「ま、いまごろ?」
理沙も服を着ながら笑う。

「また電話してよ」
「うん、そうする」
アパートの玄関で別れて、年の瀬の夕やみの中へぼくは歩き出した。
しかし、その足どりは軽やかだった。

年が明けて、初詣に誘おうと電話を掛けたがつながらなかった。
「お客様のおかけになった番号は現在使われておりません…」
何度試しても同じだった。
ぼくは仕事始めの日に理沙の勤める会社に行ってみた。
総務部の女性が出てきて彼女が去年の十二月で会社を辞めていることを告げられた。
「そんな、じゃ山口、そうだ山口真紀子さんっていませんか?」
「山口なら呼びますが」
そう言って、応接で待たされた。
しばらくして真紀子が部屋に入ってきた。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
「理沙のことね」
真紀子の方から切り出した。
「知ってたんですか?」
「やっぱり、あなたには話してなかったのね」
「なんのことだかさっぱりわからないんですよ」
「彼女ね、前に付き合ってた彼氏のところに戻ったの」
「結婚ですか?」
「たぶんね。あなたには、どう言ってたの?つきあってたの?」
「まあ、そんなとこです」
「裏切られたわけだ」
「裏切ったんでしょうか?」
真紀子が顔を近づけて、小声で、
「ここの社長の御曹司と前々からつき合ってて、理沙はその人と婚前旅行中よ」
ぼくは頭を殴られたように目の前が真っ白になった。
まさに玉の輿に乗った理沙だったのだ。
御曹司に見初められ、強引に婚約させられたらしいが、まんざらでもない様子だったと真紀子は言うのだった。
そりゃそうだろう。
ぼくのような高校生なんか最初から相手にならないではないか。
「遊びだったんだ」
そう心の中でぼくはつぶやいた。

ぼくは、敗北感を胸に、その会社を後にして、東雲坂のほうに呆けたようになって歩いた。
新春の風は冷たく、坂の上の大空には凧が小さく浮かんでいる。
ぼくは、ゆっくりと坂を登った。
坂の途中の理沙の家は、もう空き家になっているのだろう。
ぼくが将来歌手になって、有名になった時、理沙はその男に言うのだろう。
「あの子の童貞を、あたしがもらってあげたのよ」と自慢げに…

運がいいとか 悪いとか
人は時々口にするけど
そういうことって確かにあると
あなたを見ててそう思う
忍ぶ 不忍(しのばず)無縁坂
かみしめるような
ささやかな僕の母の人生

(『無縁坂』作詞作曲 さだまさし 歌 グレープ)


(おしまい)