是枝秀子は四十三歳になったばかりだそうだ。
三十二で入り婿を迎えたが、その八年後に夫は情婦の褥(しとね)で腹上死を遂げる。
秀子が二度も流産したのは、子宮筋腫のせいだったのだが、是枝家の当主が婿の「種無し」が原因だと陰口をたたいていたのが、夫を祇園の情婦に走らせてしまったのだ。
秀子が子宮を切除する入院中に、心臓の弱かった夫は、もっとも恥ずべき死に方で是枝家に復讐をしたのだった。

枕元でおれに秀子が話したのはざっとこんな内容だった。
「ね、伸也君、まだできるでしょ?」
「いいんですか?」
「もっとほしいの。あなたの元気なおちんこが」
そういう恥ずかしい言葉を平気で吐く良家の奥様だった。
秀子の長い指の手のひらの中で次第に硬さを増し、反り返る自分だった。
「あら、かたぁい。こんなになって…」
亀頭のくびれをひっかけるように指の輪が通過する。
「おほっ」
おれは思わず快感に声を漏らした。
やや左に曲がった分身は、四つ這いになった秀子の尻を割り、ぽっかりと欲しがる膣口に滑り込む。
「ひゃっ」
秀子の背中がくねり、挿入に耐える。
深々と差し込まれたペニスに、絞るような動きで応える秀子。
「ああん、いい。あなたの、いいわぁ。もっと突いてちょうだい」
「こうですか?」
おれは、童貞ではないのだ。
この熟女を組み敷くほどのドンファンに成り上がったのだ。
言い得ぬ高揚感におれは、自信がみなぎり、秀子をぞんぶんに貫き、上になり下になって犯した。
「ひいぃーっ!」
絶叫し、秀子は白目を剥いて、口角からよだれを牛のように垂らしてぐったりとしてしまった。
泡を噛んだ結合部はまっ赤に充血し、おれを力強く咥えこんだままだ。

この叫び…そうだ、あのときの声だ。
おれは幼い時の経験をよみがえらせた。
父の仕事場のほうから聞こえたように思った。
おれは蝋石で庭に絵を描いて遊んでいた。
鳥たちが植え込みからバサバサッと数羽、驚いて飛び出したように見えた。
そのあと、仕事場の戸が開き、父と母が出てきた。
母は父に寄り添って、どこか具合が悪そうに見えた。
着物が乱れて切り粉だらけになり、額には汗がにじみ、目がうつろだった。
父は笑みを浮かべて、やさしく母の腰を抱いて支えている。
おれと目の遭った父は「おまえ、そこにずっといたのか」と尋ねた。
「うん」
「そうか」
とだけ言って、母屋に母とともに入って行ってしまった。

いまならわかる気がする。
あれは父と母が仕事場でむつみ合っていたにちがいない。
母が父に組み敷かれ、絶叫の声を上げたのだ。

おれはハメたまま、豊かな秀子の乳房にむしゃぶりつき、赤子のように吸った。
男女の体臭で締め切った狭い部屋がむっとしている。
秀子がおれの頭を撫でてくれた。
「ああ、伸也」
「かあさん…」
思わずそう漏らしてしまったが、秀子は気にせず、撫で続けてくれた。
するとどうしたことか、たちまち射精感に襲われ、おれは震えて最後の精液を力なく秀子の中に放ってしまった。

「ああ、あったかい…」
おれは離れることもなく、秀子の上で重なったままじっとしていた。
秀子がひくひくとおれを絞る。

そのまま、離れて少し眠ってしまった。
柱時計が四時を打ち、目が覚めると傾いた日が窓から差し込んでいた。
「おれ、帰らないと師匠に叱られる」
「そうね、でも石本さんなら大丈夫だと思うわ」
なんでそんなことを秀子が言うのか意味が分からなかった。
「秀子さんは、師匠と関係があるの?」
「ふふ、訊くと思った…あるわよ」
「だよね。でも秀子さんって、京ことばじゃないね」
「あたしね、大学卒業まで東京にいたのよ。父が東宮侍従だったもんだから」
「そうなんだ」
おれは着衣を整えながら、ベッドサイドに立って寝ている秀子と話した。

是枝邸を出て、北山通に向かった。
影が長く伸びている。