蒲生譲二が会頭を務める「琴平会」は会津小鉄会系の指定暴力団とされているが、京都の宇治市と伏見区から島原付近をシマとするほぼ独立系の団体である。
組の名は蒲生の故郷である香川県琴平町に由来する。

この団体は、食肉業界や北朝鮮系遊戯協会(パチンコ業界)との関係が深く、京都市内・市外の風俗店も仕切っていた。
そして金大中事件のときにKCIAに協力した経緯もあって、半島とのつながりが深い。

「蒲生会長が、元KCIAのパク・ヨンゴン(朴永光)と昵懇(じっこん)でね、北朝鮮に入るルートを教えてもらえるそうです」
マーシャルこと、若頭の柏木勝が教えてくれた。
たぶんこの男と平壌(ピョンヤン)に乗り込むことになるだろう。
怖いもの知らずで、めっぽう腕っぷしの強い、自衛隊経験者であった。

金明恵(キム・ミョンヘ)は人質として、この仕事が終わるまで琴平会が預かることになっている。
とにかく金明恵の夫である、コ・アンホが何者なのか、こいつを締めあげて、あたしの弟の高安浩二を救い出さねばならない。
※明恵と書いて朝鮮語読みでは「ミョンヘ」とつづっているが、ヒアリングでは「ミョネ」と聞こえる。

「ウラジオストックから入るのがええでしょう。朴永光さんが手配してくれます」
「船でいくのは?」
「万景峰号には日本人は乗れませんで」
「そうなの?」
「在日やったらともかく、あかんでしょ」
「北京からいくルートもあるんちゃうの?」
「ふつうはそうです。団体旅行でないとビザ出まへんし、北京からでもかましまへん。ただ遠回りですから」
「新潟か名古屋やね。日本からウラジオに行くのは」
「そうですね。朝鮮総連系の旅行代理店で中外旅行というのがあって、それを利用するのが手っ取り早い」
「ああ、このパンフの会社か」

あたしは、金正日が薨去すればクーデターが起こるんじゃないかと、密かに思っている。
アメリカのCIAなどは動乱に乗じて金王朝を崩壊させたい意向だととも漏れ聞いていたからだ。
そのために海兵隊のSEALsが準備していたとかも。

「高麗航空のツポレフはぼろい飛行機らしくって、スリル満点でっせ」
「かなんなぁ。無事、平壌空港に着けるんかいな」

そんなことをマーシャルと話していたのがついこないだのこと。
一向に回復しない夫を病院に任せて、あたしはこの危険な賭けに出たのだった。
もうあたしたちは寒いウラジオストックの空港にいた。
外は雪がちらついている。
北海道付近に低気圧があって、西高東低の冬型の気圧配置が強まっていた。
「姐さん、あの飛行機ですわ」
ロビーから空港のタクシーウェイを見た。
高麗(コリョ)航空とハングルで書いてある小さな機体があった。
ナホトカから届いたらしいビザを係員から手渡されそれを確認してから、あたしたちは搭乗の列に並んだ。
朴永光の指導で中国人に扮して北に入国するのがよいということで従った。
ビザを見るとマーシャルは「陳勝」、あたしは「呉尚花」というしゃれた名前になっていた。
これを契機に、偽造パスに切り替える。
琴平会は脱北支援を高額の費用で請け負っていた。
そのために偽造パスポートを完璧に用意してくれていた。
日本では出国に甘く、入国に厳しいことを逆手に取っている。
つまり日本は「厄介払い」の国なのだった。

さて、あたしたちは、その日のうちに平壌に降り立つことができた。
すべて、朴永光のおかげだった。
「えらい揺れましたな」
マーシャルがさも疲れたという表情で言った。
「うん。やっぱり寒いねぇ」
雪は降っていないが、空気が冷たい。
平壌の街を歩いている人はまばらだった。
金日成主席の大きな肖像が掛かっている。
大同江(テドンガン)は流れているのかいないのかわからない大きな川で、中洲にも建物が立っている。
高層建築の多いピョンヤンの街並みだった。

すぐに監視員があたしたちを認め、近づいてきた。
中国語で何やら言っているが、あたしたちは笑顔でうなずくだけにした。
どうやら、旅行者は空港から勝手に街に出てはいけなかったらしい。

あたしとマーシャルは、街中に随所に設置してある監視カメラの位置を確かめ、監視員に追随しながら旅行者然としてツアーについて行った。
高麗ホテルに到着し、部屋に入ると準備にかかった。

元KCIAの朴永光の手先が北朝鮮に潜伏しているらしく、マンスデ(万寿台)で待機しろと言われていた。
北朝鮮も、ご多聞に漏れず賄賂でどうにでもなる腐った部分がある。
高官ほど汚職にまみれて、人より良い生活を享受していた。
しかし、その分、トップに睨まれると一族の命は保証されなかった。
良くて強制労働、悪くて公開処刑である。
そして女は、初潮を迎えておれば確実に犯される運命にあった。

マンスデの金日成立像が見えるところからすぐのところに労働党新聞社がある。
そこに、キム・ミョンヘの夫、コ・アンホがいるらしい。
金正日の夫人であるコ・ヨンヒの弟のコ・アンホが労働党新聞の日本局長に就任しているのだった。
高英姫(コ・ヨンヒ)は金正日総書記の後継者として指名された金正恩の母親とされている。
コ・ヨンヒは大阪生まれであり、弟もまたそうなのだろうか?
この弟は日本語が達者だから労働党新聞の日本局長をしていると言われている。

しかしホテルから勝手に市内に出ることはこの国では許されないのだった。
すべて監視されているからだ。
マンスデで元KCIAの男と会うにはどうすればいいのか?
あたしとマーシャルは夫婦者ということで一室を与えられている。
窓からは大同江が見える。
誰かがノックした。
「呵(はい)」
覚えたての中国語で応じた。
ドアを開けると、ボーイが立っていて封書を渡してくれた。
おそらくカネで雇われたのだろう。

封書は、どうやら指令らしい。
開けて読むと、日本語で「十九時に一階のロビーの窓際のテーブルに座って待て」とあった。
マーシャルに見せた。
「ふん」
と鼻で笑って、シャワールームに消えた。
十九時までにはまだ二時間もある。
ウラジオで買った濃い味のピロシキを機内で三つも食べたので何も食べたくなかった。

「姐さん、いっしょにどう?」
「今は夫婦だからね。あんたと入るか…」
あたしはマーシャルの引き締まった体に惹かれていた。
夫が脳出血の緊急手術でICUで昏睡しているのをいいことに、あたしはこんなところにいる。
あたしは着ているものを脱ぎ、素っ裸になって浴室のドアを開いた。
湯気がもうもうと立ち込めた中にマーシャルがシャワーを浴びていた。
「いい湯だ。寒かったから最高や」
股間をぶらんぶらんさせながら、気持ちよさそうに浴びている。
そしてあたしにもかけてくれる。
「姐さんの裸、初めてや」
「会長には内緒やで」
「殺されるな。こんなことして」
マーシャルが優しく肩から、胸、首筋を撫でてくれる。
「ええか?姐さん」
そう言って唇を奪ってきた。
はむ…
男の香りが口を満たす。
腹を硬いものがつつく。
巨大化したペニスがあたしの方を向いて立ち上がっていた。
「もう、こんなになってから」
あたしは手を伸ばして、それの硬さを確かめるように握った。
「ああ、姐さん」
「気持ちええの?」
「ああ」
そう言うと彼は、あたしの谷間に指を這わせてきた。
ぞりっという陰毛の感触と、ざらついた男の指先が敏感な部分を刺激する。
バスタブには半分ほど湯が張られていた。
二人で入るには狭いバスタブだった。
マーシャルが先に入り、あたしが上に乗る形になる。
「このまま入れようか」
マーシャルが問う。
「こわいわ」
「おれの大きい?」
「うん」
「会長のはもっとでかいやろ?」
「そんなことない。あんたのとどっこいや」
「またまた…」
そういって笑った。
蒲生譲二のモノは亀頭が異常に大きく、入れられると痛いだけだった。
しかし、極道の二人は、旦那のものよりは一回りは太かった。
あたしはこわごわ、腰を落として、マーシャルの穂先を呑み込ませた。
ぐい…
やっぱり大きい。
途中で止まったところを、マーシャルに思い切り突かれ、全部押し込まれた。
うぐっ…
抜き差しならないとはこういうことだろうか?
潤いが足りないのかもしれない。
しかし、じきに緩んできて、あたしはマーシャルの動きに合わせることができるようになった。
そしてその充実感に快感が伴う頃、マーシャルが「ああ」と声を上げて、震え出し、果ててしまった。
「姐さん、ごめん。早かった」
「いったんや…」
「疲れてんだな。姐さんの締まり具合にやられてもた」
「あったかい…」
「妊娠は、大丈夫なんか?」
「もう、上がってもた…へへへ」
そう言ってあたしは彼にもたれかかり口づけをせがんだ。
抜き去ったとたんに、どぼっと白い塊が湯船に落ちた。

さっぱりして、あたしたちは十九時に約束の場所で待った。
エレベータのドアが開き、数人の客が吐き出されたが、その中の背の高い男がまっすぐにあたしたちの方に向かってくる。
あたしは、ソファから立ち上がろうとしたが、男は「そのまま」と手振りで示した。
あたしはまた座った。
「陳さんと呉さんですね」
と流暢な日本語で問われた。
「はいそうです」
「このまま私といっしょに裏口から出ます。ついてきてください」
「はい」
そう言うと男はロビーを横切らず、壁に沿って建物の奥に向かった。
クロークを右に、トイレの方の廊下を進み、下へ続く階段を下り、地下駐車場に出た。
柱の陰に停めてある黒いベンツに乗れという。
あたしたちは後部座席に滑り込んだ。
男は助手席に座り、運転手は最初から待機していたようだった。
そして男は運転手に「출발해라 (出せ)」と命じた。

巨大な金日成像が見えてきた。
労働新聞社が通りに面している。

「車の中なら安心です」
その男はやっと口を開いた。
「わたしは、チェ・ジョンキと申します。南の者ですが、わけあって北に潜入しています」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「用向きはうかがっております。労働党新聞のコ・アンホ局長に、呉さんの弟さんの行方(ゆくえ)尋ねるのでしたね」
「そうです」
「このまま、我々のアジトにお連れ致します。この国では電話はすべて盗聴されているので、筆談と口頭でやり取りすることになります」

ピョンヤンの郊外だろうか。
もう、とっぷりと暮れてしまったので、ほとんど外の様子がわからない。
車内でも息が白い。
暖房の効かないベンツに初めて乗った、あたしだった。